2018.10.27
2016年9月22日に産声を上げた日本の男子プロバスケットボールのトップリーグB.LEAGUE。その立ち上げの歴史や、苦労、本質的なスポーツビジネスのポイントをまとめた『稼ぐがすべて』が出版された。執筆者のBリーグの葦原一正事務局長は、「人材採用論」、「リーダーシップ論」、「事業戦略論」、「マーケティング戦略論」や「営業論」などスポーツビジネス関係者のみならず、“ゼロからイチ”を創りだすことに試行錯誤するビジネスパーソンに参考にしてほしいという想いで筆を取ったという。新リーグを立ち上げ、日本のスポーツビジネスを知り尽くす葦原事務局長に、3年目のBリーグへの想いとBリーグの根幹となるスポーツビジネスの本質について話を聞いた。
取材・文=村上成
――『稼ぐがすべて』の中で、Bリーグの掲げる2大事業戦略というのは、“デジタルマーケティングの推進”と“権益の統合”という話でした。この事業戦略に沿ってターゲットを女性と若者に絞り、ターゲットにあわせて“スマホファースト”という戦略を取っているということがわかりました。本書に記載の事業戦略に、着実に沿って、しっかりと打ち手を打ちながら、丸2年というのが経ったと思います。Bリーグもこの9月で3年目に入りましたが、葦原さんはBリーグの現在地をどのようにお考えですか?
葦原 良い面と悪い面があると思っています。良い面は、やはり事業規模は相当上がっています。まだ集計中ですが、Bリーグになって2年で、リーグ全体の収益規模は、ナショナルバスケットボールリーグ(NBL)とbjリーグの合計値と比較して2倍以上になりそうです。入場者数も250万人突破しています。
――入場者数も1年目が40パーセント増、2年目が11.8パーセント増ですね。
葦原 入場者数はNBL、bjリーグの2リーグ分離時代と比較しても1.6倍くらいになっています。非常に数字は良いと思います。一方で気になるのは、コアファンがよりコアファン化しているという現状です。いろいろな数字から見て取れるのですが、要は3回アリーナへ足を運んでくれている人が、4~5回に来場を増やしてくれているのだと思います。もちろん、コアなファンは重要なお客様ですし、大事にしていくことは同然です。しかし、全く(バスケットボールに)興味がない人が、1.6倍も増えているのかというと、そこまで増えてはいません。
そういう意味では、興味ある人はどんどん深度が深くなり、世の中全体では、実はそこまで広がっていないのです。いろいろなお客さまのデータや、公式サイトのアクセス状況から如実に出ているので、そこに対する問題意識を持っています。
――“ゼロ”を“イチ”に。バスケットボールを世間にもう少し広げていくためには何が必要ですか?
葦原 わかりやすいところでは、日本代表の活躍だと思っています。オリンピックを2年後に控えていますし、東京開催ですから。一般的に日本人は代表コンテンツが大好きです。少しでもバスケットボールを意識してもらう一施策としては、やはり代表だと思っています。それがすべてとは思いませんが、代表との連携は強化していくことは必要不可欠です。Bリーグと日本代表の権益の統合については、放映権の販売でも可能性が広がりますし、露出面においても、日本代表の方がメディアへ露出しやすい傾向はあります。そこをうまくBリーグと連携しようという考え方で施策を進めています。
――他に3年目、4年目に向けて、世の中にバスケを広めていくためにどのようなことができるのでしょうか?
葦原 バスケットボールに全く興味のない人が来てくれるとうれしいのですが、そんなに簡単なことではありません。バスケットボール、Bリーグのファンなのだけれど、実際にアリーナへ足を運ぶ人のコンバージョンは10パーセントくらいです。だから10人のファンがいたら1人しか来ないですよね。他の9人は結構ファンなのに来ないわけですよ。その人たちにどう来てもらうかというのが一番今気になることですね。すでにアリーナへ足を運んだことがあるファンが、他のファンを誘う。“誘い・誘われ”というのが大事になってくると思います。
――この辺りは、いくらバスケットボールが好きでも、仕事や家庭、子どもや趣味など、アリーナへ足が向かない理由はいろいろとあります。家からちょっと遠いとか、仕事が忙しいというハードルをどうやって越えてもらうのかということですね。
葦原 やはり、誘ってもらわないと行かないと思います。他のプロダクトも一緒ですが、“好き”と“行く”は違うと思っていまして、『稼ぐがすべて』にも書きましたが、ゼロからイチになった人に対し、来場しての観戦理由を質問すると、「誘われて来た」という回答がほとんどです。
人間の本質は多分そこにあると思っていて、誘いやすくすることにも気を配っています。Bリーグのスマホチケットアプリではすでに開始していますが、友人や知人にチケットを分配しやすくするなどの施策を促進する必要がありますね。もしくは、たくさんの人を誘えば、誘えば誘うほど入場料を安くするなど、そういうことなどもありかもしれない。こういった施策は、結構効くのではないかと思います。
――確かに自分に置き換えてみると、観戦のきっかけは、誘われてということがほとんどですね。「そんなに面白いなら行ってみようかな」みたいなことですね。
葦原 ディズニーランドは楽しいところで、私も好きですが、実際に行くとなると、結局子どもに無理矢理「行こう行こう!」と誘われて、仕方がなく行くって感じですからね(笑)。
――そのための誘いやすい仕組みや、そのためのツールをリーグから提供していこうという考え方ですね。
葦原 そういう意味では、スポーツというエモーショナルマーケティングにとって、インフルエンサーの役割は極めて重要ですね。ただし、情報を伝達するのも大事ですけど、伝達するだけでは、多分何も動かないでしょう。10年前に流行った口コミマーケティングのように、情報をインプットされるだけでは、うまくいかないと思っていて……。少々手荒くても、「行こうよ!」と友人や知人の襟首を無理にでもつかんで連れていってくれないと実際来場まで辿り着かないと思っています。
――よくわかりました。最後に、改めてお聞きしますが『稼ぐがすべて』を執筆しようかと最初に思われたきっかけはどういうことだったのでしょうか?
葦原 やはり一番は、リーグスタッフがこの3年間一生懸命やってきたことを何か一つ形にまとめたかったという想いです。あともう1つは、今後いろいろなスポーツ団体が、組織を改革して新しく立ち上げてみようという機運が高まることもあると思うので、そのために……。日本のスポーツ界が良くなればいいと心から思っていますので、何かしらの参考になればという想い、この2つでしょうか。
――Bリーグのやってきたことを横に見ながら、卓球や、バレーも新たに立ち上がる機運も盛り上がりましたし、その他のスポーツにも可能性はありますよね。
葦原 『稼ぐがすべて』に記載の成功事例はもちろんですが、本には書かずとも「正直もっとこうすればよかった……」みたいな話もいっぱいあります。そういうものは、やはり多くのスポーツ関係者にも共有していきたいですよね。何か新しく、今ではマイナー競技と呼ばれているスポーツがやっていく上で参考になればいいと思います。さらに言えば、日本の野球やサッカーの市場規模がどうして大きくならないのか、なぜ欧米と差が開いているかという本質的なところが、少しでも伝わればと思っています。
――スポーツ団体の方はそうですけど、先にお話しいただいたとおり、物事を立ち上げるという意味で、“ゼロからイチ”を作っていきたいというビジネスマンの方に手にとってほしいなっていう思いですね。
葦原 そうです。だから最初は『0から1のヒストリー』みたいなタイトルにしよう!と言ったのですが、気が付いたら『稼ぐがすべて』に……。全然違うのだけどみたいな(苦笑)。
――確かにお話いただいた内容とタイトルのギャップがあるなと思いながら、面白く話を聞かせていただきました。
葦原 やはり前職で経験した横浜DeNAベイスターズのときも、実質全部1回中身ひっくり返っての話で、立ち上げみたいなものでした。そして、今回もリーグ立ち上げやっているじゃないですか。やはりゼロからイチが自分の経験の中では多いと思っていて、別に成功しているとは思っていませんが、そこのノウハウを何か参考になればなと思っています。
2018.10.27
2018.10.27
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