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タイのパタヤで開催されている車いすバスケットボールの「アジアオセアニアチャンピオンシップス」。大会3日目の12月1日、予選リーグ第2戦が行われた。前日の初戦で地元タイに大勝して白星スタートを切った男子日本代表は、イランと対戦した。昨年の世界選手権で4強入りを果たし、アジアパラ競技大会では決勝で日本を破って優勝したイラン。その強敵に対し、攻守にわたって圧倒した日本は、71-51で勝利を挙げた。
前日の試合後、イラン戦でのポイントを聞かれると、及川晋平ヘッドコーチはこう語った。
「日本のスピードと、イランの高さ。どちらが上回るかが勝負になる」
その指標となったが「リバウンド」だった。
3カ月前の国際強化試合「三菱 WORLD CHALLENGE CUP」(MWCC)での分析の結果、相手にオフェンスリバウンドを取られて得点を許したことが、試合の流れを大きく左右していたという。そこで、新たに高い意識を持って強化を図ってきた。
しかし、単純に高さではかなわない。日本がリバウンドを制するために必要なのはイランにはないスピードだと考えられた。トランジションが速い日本に対して、イランがリバウンドに飛び込むことよりも、少しでも早く自陣に戻って守備をすることの方に意識がいけば、リバウンドを制することができるからだ。
すると、第1クォーターからその狙いが的中した。オールコートのマンツーマンでのプレスディフェンスでスピーディな展開へと持ち込むと、予想どおりイランはオフェンスリバウンドにはほとんど飛び込めず、日本が完全に制した。
これが日本にいい流れをつくる要因の一つとなったことは間違いなく、「日本のスピードが、イランの高さを上回った」結果となった。
こうしたディフェンスで作ったいいリズムがオフェンスにもつながり、日本はイランの50パーセントを上回る64パーセントという高確率のフィールドゴール成功率を誇った。特に前日の初戦に続き、この試合でも最多得点の18点を誇った藤本怜央が80パーセントの高確率で決め、チームをけん引。日本は19-12とリードした。
そして、この試合で最も重要な局面を迎えたのが、第2クォーターだった。MWCCでは40分間フルでのプレスディフェンスでイランから勝利を挙げた日本だが、同じことが通じる相手ではない。そこで指揮官がカードを切ったのは、ハーフコートディフェンス。ボールマンに対しては高い位置から張り出してプレッシャーを与え、高さのある相手をペイントエリア内に入らせないことが重要となった。
世界トップクラスのプレスディフェンスに加えて、ハーフコートディフェンスが武器となれば、守備のバリエーションが増え、相手にとってはアジャストすることが難しくなる。そのため、この第2クォーターが勝敗を左右することが予想された。
序盤、古澤拓也が立て続けに得点を挙げたことで、日本が流れを引き寄せたかに見えたが、徐々にイランがインサイドを制し始めた。オフェンスリバウンドと取った上で得点を決めるなど、ペイントエリア内で高さを発揮した。
そんな嫌な流れを断ち切ったのが、途中出場の宮島徹也だった。攻守にわたって宮島の果敢なプレーに、イランはファウルを積み重ねていった。そして、最後はディフェンスリバウンドを取って味方の得点につなげた宮島。この試合11分のプレータイムで4得点とスタッツでは目立たないが、「(チーム最多の)リバウンドはもちろん、彼のアグレッシブなプレーでイランにファウルを積み重ねさせていくことができた」と、指揮官もチームへの貢献度の高さを評価した。
そして、結果的に第2クォーターはこの試合最少の10失点に抑えた日本。課題とされてきたハーフコートディフェンスを選択した中でイランを上回ることができたことが「何よりの収穫」と及川HCは今後への手応えを口にした。
前半を終えて36-22と2ケタのリードを奪い、後半も攻守にわたって日本らしいスピーディな展開のバスケでイランを翻弄。最後まで大きく崩れることなく戦いきった日本は、71-51と下馬評を覆す大差での勝利を手にした。
「完勝」ともいうべき20点差での勝利に、及川HCはこう語った。
「チームにはこれまで積み重ねてきたものがある。ちゃんと階段を上ってきているし、高い山にも登れている。あとは自信を持ってやれば、おのずと結果がついてくると思っていました」
大会4日目の2日には、予選リーグ第3戦で中国と対戦する。実力からすれば格下の相手だが、それでもイランにわずか4点差という好ゲームをしているだけに、決して侮れない。内容ある勝利で、全勝優勝に向けての弾みとしたいところだ。
文・写真=斎藤寿子