2019.11.26

車いすバスケU23“京谷ジャパン”、新戦力の台頭と示した成長

中学時代までサッカーをプレーしていた20歳の宮本涼平 [写真]=斎藤寿子
フリーライター

 11月22日から24日の3日間にわたって、若い世代の育成・強化、国際大会の経験を積むことを目的として行われた国際車いすバスケットボール大会「北九州チャンピオンズカップ」(北九州CC)。日本は、京谷和幸ヘッドコーチ率いる男子U23日本代表が出場した。同世代のドイツ、カナダ、オーストラリアと対戦し、予選リーグ、決勝の全4試合で勝利を挙げて2大会ぶりの優勝。今大会で台頭した新戦力、そして2021年のU23世界選手権で主力として期待される選手の姿を追った。

元バスケ部の池田、Jリーグジュニアユース出身の宮本が初出場

バスケットボール部出身の池田 [写真]=斎藤寿子

 2016年に京谷HCが指揮官に就任した男子U23日本代表は、毎年11月に開催される北九州CCを貴重な国際大会の経験を積む場とし、若手選手の育成、チームの強化を図ってきた。その成果として2017年1月のU23世界選手権アジアオセアニア予選では準優勝、そして同年7月のU23世界選手権ではベスト4に輝いた。その世界選手権をきっかけに、多くのU23世代が及川晋平HC率いるA代表へと昇格し、現在では主力として活躍している。

 今大会も、2人の若手がこの大会に初出場した。一人は、持ち点4.5のハイポインター池田紘平だ。もともとバスケットボール部出身。本格的に車いすバスケを始めたのは1年と短いが、京谷HCも「実力は、A代表に入っても遜色ないほどのものを持っている」と絶賛する。

 今大会が“代表デビュー”となった池田の最大の強みは、高さを活かしたシュート力で、特にペイントエリア内でのシュートに自信を持つ。一方で課題は、スタミナだ。京谷HCも「スタミナさえついて後半にも力が発揮できる選手になれば、十分にA代表でも通用する」と語る。今年で23歳のため、U23世代としては今大会が最後となり、今後はA代表を目指すことになる。

 もう一人は、20歳の宮本涼平だ。もともとはサッカー選手で、中学時代には京都サンガF.C.のU15選抜チームのセレクションに合格。18人のメンバーに入り、中学3年の最後の大会では全国3位に輝いた。高校では自転車競技部に入ったが、1年次の練習中にケガをしたことをきっかけに車いすバスケを始めた。昨年のドバイ遠征で初めてU23日本代表のメンバー入りし、今大会が2度目の国際大会となった。

 競技歴は4年だが、元Jリーガーの京谷HCも「視野が広く、周りを見る力に長けている」と大きな期待を寄せる選手の一人。持ち点1.0の宮本は、ディフェンスもさることながら、オフェンスにも自信を持つ。特にトップからカットインしてゴール真下でのレイアップシュートを得意とし、今大会予選リーグ第2戦のオーストラリア戦でも決めてみせた。当面の課題は日本が武器とする攻守の切り替えの速さを身につけること。2年後のU23世界選手権では主力の一人として活躍が期待される。

U23大黒柱としての期待が大きい鳥海と赤石

17歳でリオパラに出場した鳥海 [写真]=斎藤寿子

 今年で23歳を迎える古澤拓也、川原凜、岩井孝義など、これまでU23日本代表をけん引してきたメンバーが“京谷ジャパン”としては今大会が最後となった。今後は宮本をはじめ、新たなメンバーを加えながら、2年後の世界選手権に向けてのチーム作りが行われることになる。

 そんな中、新“京谷ジャパン”の主力として期待されているのが、既存の選手たちだ。中でもすでにA代表でも活躍する鳥海連志と赤石竜我、今年初めてA代表の強化指定メンバーに入った髙柗義伸の3人の存在は大きい。

 2016年、17歳でリオデジャネイロパラリンピックに出場した経験を持つ鳥海は、すでに日本には不可欠な選手となっている。U23のキャプテンだった古澤らが抜けた今後は、同世代で最も経験値の高い鳥海が、大黒柱となることは間違いない。

「試合をするたびに、一体感が生まれて、成長を感じた」と今大会を振り返った鳥海。U23メンバーの中での役割をこう語る。

「赤石たちが先頭に立って引っ張っていってくれるので、僕は最後にこぼれ落ちたものがないかを確認する役だと思っています。代表経験が少ないメンバーもいる中で、全員が同じトーンでいられるようにしていきたいと考えています」

 プレーの面でも自分が活躍することよりも、周りを活かしたプレーを意識しているという鳥海。コート内外で彼の存在がより大きなものとなることが予想される。

 そして自他ともに前面的なリーダーの存在として位置づけられているのが、常に声でチームメートを鼓舞する赤石だ。合宿ではなかなかかみ合わない部分があり、不安だったというが、今大会では最大のテーマであるディフェンスもしっかりと機能したことで、自分たちの将来性の高さを感じとったという。

 一方、赤石自身にも大きな成長があった。これまで粘り強い守備力が最大の武器とされてきたが、最終日の2試合では高確率でミドルシュートを決め、攻撃力の高さもアピールしたのだ。最終日の試合前、京谷HCに「いつもどおり守備もいいし、チームにシュートチャンスをもたらすプレーもいい。ただ、お前自身がもっとシュートしていってもいいんじゃないか?」と言われたことがきっかけだったという。

 予選リーグ最終戦で8得点をマークした赤石は、決勝では11得点と2ケタを叩き出した。この活躍に京谷HCも「A代表の及川HCにも『赤石にもシュートがある』とアピールできたと思いますし、そうなると日本の攻撃の幅が広がる」と絶賛。A代表が臨む、29日に開幕するアジアオセアニアチャンピオンシップスでの活躍にも期待を寄せた。

プレーの幅を広げたハイポインター髙柗

成長著しい姿を見せた髙柗 [写真]=斎藤寿子

 そしてもう一人、今大会成長著しい姿を見せたのが、髙柗だ。2021年のU23世界選手権では、貴重なハイポインターとして期待が大きい。高さを活かし、ペイントエリア内では、どんな体勢からでもゴールに向かう強い姿勢が持ち味だ。

 しかし、海外勢のハイポインターは髙柗以上の高さを誇り、現在U23では“ワンセンター”の役割を担うことも少なくない彼には、“ビッグマン”たちがこぞって襲いかかる。ゴール下で2、3人に囲まれることも多く、その中でシュートをねじ込むことは至難の業だ。

 そんな中、髙柗のプレーに変化が見られたのは、予選リーグ最終戦。ゴール下の髙柗にパスが通ったものの、ドイツのビッグマン3人に囲まれたシーンだ。これまでなら、そのまま無理にでもゴールを狙っていたが、トップからカットインしてきた鳥海にパス。これを鳥海がしっかりと決めてみせた。

「あの時は相手が3人きたので、日本の誰かが空くなと思ったんです。そしたらちょうど連志さんが入ってくるのが見えたんです」と髙柗。そのプレーに、周りを見る視野や瞬時に判断する力が身についてきていることを感じたという。

「カットインした後、自分がシュートを決めるだけでなく、相手を引き寄せる役になって、パスで展開できるようになれば、チームの攻撃のバリエーションが増えてくるはず。あのプレーで、それが少し見えてきたような気がします」と髙柗は語る。

 京谷HCによれば、今大会に出場していない中にも、将来有望な若手が全国にはまだまだ存在するという。国際大会経験豊かな既存の選手に、フレッシュなメンバーを加え、2021年世界選手権では頂点を目指す。成長スピートが速い“京谷ジャパン”に、今後も注目だ。

文・写真=斎藤寿子