車いすバスケ“及川ジャパン”、AOC豪州戦初勝利の歴史的快挙!

オーストラリア戦で初勝利を挙げた[写真]=斎藤寿子

 タイのパタヤで行われている車いすバスケットボールの「アジアオセアニアチャンピオンシップス」(AOC)。大会6日目の12月4日、及川晋平ヘッドコーチ率いる男子日本代表は、予選リーグ最終戦でオーストラリアと対戦した。第4クォーターの終盤に逆転し、64-61で昨年の世界選手権銅メダルの強豪との激戦を制した日本は、4勝1敗として予選1位通過を決めた。

リバウンドを制し、激戦を制した日本

 アジアオセアニア地区では王者に君臨し続け、パラリンピックでも金メダルに2度輝いたことのある強豪オーストラリア。日本の前に何度も立ちはだかったその高い壁を、ついに打ち破る時が来た。

及川HCの下、一丸となって戦った[写真]=斎藤寿子

 大一番を前に、及川HCはこう選手たちに激を飛ばした。
「やることはやってきた。自分たちが強いということは、もうすでに証明されているから自信を持て。あとは気持ち。『一心』になるという気持ちをつくって、戦えば必ず勝てるぞ!」

 試合は「ガチンコ勝負になる」という及川HCの予想が的中し、スタートから激しい攻防戦が繰り広げられた。第3クォーターを終えて、47-53。日本は6点のビハインドを負って、最終クォーターに臨んだ。

 その最終クォーター、勝負どころの終盤で気を吐いたのが藤本怜央だ。立て続けにゴール下でのタフショットを決めてみせ、試合時間残り20秒でついに逆転に成功した。そして最後まで果敢に攻め続けたオーストラリアの攻撃に耐え、リードを守り切った日本。64-61で接戦を制し、AOCではオーストラリア戦初勝利を飾った。

 この試合チーム最多の20得点を叩き出した藤本は、チーム最年長で2004年アテネ大会からパラリンピックに出場している。その藤本でさえも「公式戦でオーストラリアに勝ったのは自分も初めて」と語る。オーストラリアからの1勝は、まさに歴史的快挙と言えた。

逆転勝利で激戦を制した[写真]=斎藤寿子


 そして、内容的にも「大金星」だった。何人もの超ビッグマンを擁するオーストラリアに対し、リバウンド数はオーストラリアの28を大きく上回る42を誇ったのだ。これについて、京谷和幸アシスタントコーチは「10月からトレーニングしてきたリバウンドへの意識が高かったことが成果として表れた数字」と語る。

 それがオーストラリアの攻撃を少しずつ狂わせていたのだという。世界屈指の好シューターが揃うオーストラリアはアウトサイドこそ強いはずが、この試合では後半に向けてアウトサイドからのシュートでの得点が減少傾向にあった。

 この理由について、及川HCはこう説明する。

「日本がしっかりとボックスアウトしてリバウンドを制し、そこから速攻にいっていたので、リバウンドを取ることができないオーストラリアはどんどんアウトサイドからのシュートも打てなくなってしまった。日本の戦略が的中した展開でした」

勝因の一つにあったバイプレーヤー緋田の台頭

 そして、もう一つ。この試合で台頭した緋田高大の存在だ。これまで厳しい試合では40分間ベンチを温め続けることも少なくなかった緋田だが、この日は2クォーターの前半にコートに送り出されると、さらに第4クォーターという最も大事な局面でのメンバーの一人に抜擢された。

 緋田の起用について、及川HCはこう語る。

「まずはディフェンスがすごくいいこと。それとハイポインターをうまく活かすプレーが一番うまいのが緋田。あれだけ激しくやり合う中で、藤本がインサイドをつけたというのは、緋田の見事なトランジションのおかげです」

 一方、藤本自身も緋田の存在の大きさについてこう語っている。
「ボールを持っての派手なプレーはないのですが、人を活かすプレーが本当に上手い選手。重要な局面でしっかりと丁寧なピックをかけてくれて、僕たちハイポインターをインサイドに導くプレーはピカイチです」

 緋田は、今では日本代表の主力となっている古澤拓也や川原凜など、2017年U23世界選手権で4強入りしたメンバーの一人で、彼らと同じ時期にA代表入りしている。しかし、U23の時も、A代表に入ってからも、12人のメンバーには入るものの、なかなか出場機会に恵まれなかった。そして、今夏に行われた国際強化試合「三菱電機 WORLD CHALLENGE CUP」(MWCC)では、メンバーからに外れている。

緋田は重要な局面で結果を出した[写真]=斎藤寿子


 この時、緋田は悔しさを練習でぶつけるようにして、チェアスキルなどを磨き続けた。そして強化合宿では、たとえ主力メンバーの練習から外れても、常に藤本や秋田の動きを観察し、彼らがどんな動きをして、どんなプレーを得意としているのかを細かくチェックしていたという。そんな積み重ねてきた陰の努力が、オーストラリア戦で実ったのだ。

「来年の東京パラリンピックに向けてアピールするためにも、今大会は中途半端では終われない。自分の力をすべて出し切り、チームの優勝に貢献をして、次につなげようという思いで臨んでいます」と語る緋田に対し、及川HCも「このレベルの試合で、これだけの活躍をしてくれたというのは、本当に成長したなと感じた」と高く評価した。

 緋田の台頭によって、本当の意味で“全員バスケ”を遂行し始めた及川ジャパン。さらに厳しい戦いが待ち受けている決勝トーナメントも、アジアオセアニア随一の選手層の厚さで勝ち進む。

文・写真=斎藤寿子

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