11月29日~12月7日の9日間にわたってタイのパタヤで開催された車いすバスケットボールの「アジアオセアニアチャンピオンシップス」。大会最終日の7日、及川晋平ヘッドコーチ率いる男子日本代表は、イランとの3位決定戦に臨んだ。予選リーグでは20点差をつけて快勝した相手に、この日は第1クォーターからリードを許す展開に。第4クォーターの序盤には4点差にまで詰め寄ったものの、最後は引き離されて55-66で敗れた。日本はメダルを逃し、4位という結果に終わった。
再確認された「強いディフェンスから入る」ことの重要性
日本の”スピード”とイランの”高さ”との勝負となったこの試合、ポイントの一つとなったリバウンドで、20点差での勝利をつかんだ予選とは一転、日本にとっては誤算が生じた。
藤本怜央、古澤拓也、鳥海連志、赤石竜我、川原凜という予選と同じラインナップで臨んだ第1クォーター、前半は日本のオールコートでのプレスディフェンスが機能し、イランにパスミスなどを起こさせていた。
ところが、この日のレフリーとの相性が悪かったのか、日本のアグレッシブなディフェンスにファウルの笛を吹かれてしまった。第1クォーター残り5分で早くもチームファウルは5つを数え、さらに高さのある藤本のパーソナルファウルは2つとなっていた。
日本のコート内やベンチからは「ノーファウルで!」という声が盛んに叫ばれ始め、ペイントエリア内での勝負はほぼイランが制した。予選では第1クォーターではゼロだったオフェンスリバウンドからのイランの得点シーンは、この日は終盤に2度あり、最後の得点がオフェンスリバウンドからのものだったこともまた、イランを勢いづかせる要因となったことは想像に難くなかった。
オフェンスへの影響も大きかった。第2クォーターを終え、前半のフィールドゴール成功率は、イランが45%だったのに対して、日本は33%にとどまった。
しかし、第3クォーターの終盤、村上 直広がフリースローを含めて放った4本のシュートをすべて決めてみせるなどの活躍を見せ、チームを勢いづけた。日本はフィールドゴール成功率50%を叩き出して7点差に迫ると、さらに第4クォーターの出だしで4点差にまで詰め寄った。
ところが、イランはこの第4クォーターでも強さを発揮。第3クォーターの終盤までベンチに温存されていた主力のモルテザ・アベディが立て続けにゴール下でのシュートを決めて嫌な流れを断ち切ると、それにほかの選手も続き、得点を積み重ねていった。第4クォーター、イランはこの日最高の56%というフィールドゴール成功率を誇り、日本を引き離した。
高さのない日本が、スピードを活かし、リバウンドを制する強いディフェンスから入ることの重要性を再確認することができた試合となった。
チーム最年少・赤石、発揮し始めたシュート力
一方で、成長し続けるチームの姿もあった。その一つが、チーム最年少の赤石だ。スピードと確かなチェアスキルを活かした守備に定評のある赤石。「献身的な守備でチームに大きく貢献してくれている」と指揮官からも高い評価を得ている。
その赤石が、さらなる強みを発揮し始めている。シュート力だ。実は、赤石は今大会の開幕1週間前に国内で行われた国際強化試合でU23日本代表の一人として出場している。その際、A代表のアシスタントコーチでもある京谷和幸U23日本代表ヘッドコーチから「守備への意識だけでなく、竜我自身がもっとシュートを狙いにいってもいいんじゃないか?」という言葉があったという。すると、最終日の2試合で高確率にミドルシュートを決め、攻撃力の高さもアピールしていた。
「A代表でも、コートに出ている限り、自分にもシュートチャンスは必ず訪れる。その時には、しっかりと狙っていきたいと思っています」と語っていた赤石。その言葉通り、この日のイラン戦では、フィールドゴール成功率は80%を誇り、A代表の公式戦では自身最多の9得点を挙げた。
それでも、赤石には満足している様子は一切見られない。
「こういう高い強度の試合で高確率に得点できたのは、自分でも成長したなと感じています。ただ、今日はもっとシュートチャンスがあったと思いますし、これだけ調子が良いのであれば、もっと味方からパスを受けてシュートを狙いにいく、という部分を意識すべきだったなと。そういう意味で、大事なところでパスを出してもらえるようなチームから信頼される選手になっていきたいと思います」
予選リーグでオーストラリア、イランを撃破し、1位通過で決勝トーナメントに進出した日本。しかし、メダルなしという結果に終わった。世界トップレベルに勝つ実力は証明することができた。あとは、どう勝ち続けるか、だ。
「世界の3位と4位に公式戦で勝ったという事実を持って東京パラリンピックに臨めるというのは、非常に大きい。東京でメダルを獲得するために、チームが整ってきたという手応えは十分にある。あとは一人一人が、その精度を高めて、どれだけ遂行していけるか。12人全員が『一心』となって本当の意味でつながれば、周囲が驚くような結果を出せるチームだと感じています」と及川HCは語る。
東京パラリンピックまで、あと約260日。やるべきことは少なくない。しかし、だからこそまだまだ成長できる要素がある。本番では、さらに強い”及川ジャパン”の姿が見られることを期待したい。
文・写真=斎藤寿子