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『B MY HERO!』
タイのパタヤで行われている車いすバスケットボールの「アジアオセアニアチャンピオンシップス」(AOC)。大会8日目の12月6日、及川晋平ヘッドコーチ率いる男子日本代表は、準決勝で韓国と対戦した。第3クォーターまで1点を争う激しい攻防戦が繰り広げられた結果、軍配が上がったのは韓国。日本は61-69で敗れ、決勝進出を逃した。大会最終日の7日は、3位決定戦に臨む。
第1クォーター、14-12。第2クォーター、24-23。第3クォーター、41-42。
まさに因縁のライバル同士の戦い“日韓戦”にふさわしい試合が繰り広げられた。勝利の女神がどちらに微笑むかは、誰一人予想することはできなかった――。
スコアでは一進一退の状況が続く中、日本にとっては、決して悪い流れではなかった。それは狙いどおりのディフェンスができていたからだ。
予選リーグを4勝1敗とし、1位通過で決勝トーナメント進出を決めた日本にとって、唯一の黒星となったのが韓国戦だった。エースのキム・ドンヒョンに30得点を挙げられたことで、相手の勢いにのまれた形となった。
しかし、同じ轍は踏むつもりはない。準決勝、日本のベンチからは「ドンを絶対に離すな!」という声が飛び交う中、コート上では徹底的にキムをマークする強固なディフェンスが敷かれていた。パスさえも簡単には通さず、シュートチャンスを作りだす隙を与えなかった。その結果、第3クォーターを終えて、キムの得点はわずか6点にとどまっていた。
ところが、第4クォーターではその“キム封じ”にほころびが出た。韓国はキムと日本のローポインターがマッチアップするような動きを展開してきたのだ。キャプテンの豊島英はこう語る。
「前半はストレートにゴールに向かっていっていたのが、後半にはクロスの動きを入れて、ミスマッチをとれるようなオフェンスの入り方をしてきた」
また、キムのシュートシーンには、必ずローポインター陣が絡むなど、これまで以上にコンビネーションを図った戦略が垣間見られた。個人のシュート力に頼ったバスケットをしていたこれまでの韓国との違いを如実に表していた。
キムは、ミスマッチの状態からインサイドに果敢にアタックしてゴールに近付き、日本のローポインター陣の頭上からシュートを決めていった。このエースの“復活”とも言える活躍に、韓国の勢いに火がついた。
一方、日本が決して韓国に主導権を握られていたわけではなかった。十分に勝機はあったが、勢いに乗りかけた重要な局面でミスが続くなど、自分たちで苦しい状況にしてしまっていた。
徐々に韓国に引き離される苦しい状況の中、それでも日本のベンチからは「常に120パーセントだぞ!」、「継続! 継続!」といつもと変わらないチームメートを鼓舞する声がコートに送られていた。そんなベンチの思いに応えるかのように、コート上の5人は必死にプレーし続けた。
残り時間30秒で、藤本怜央、香西宏昭がそろって決めた3ポイントシュートには、最後まで諦めずに戦う日本の姿が映し出されていた。
結果は、61-69。予選リーグに続いて、韓国に敗れたことは、“衝撃”に近いものだった。しかし、及川HCは「韓国が強くなってきていることは事実。今回オーストラリアやイランに対して取り組んできたように、韓国に対してもしっかりと対策を立てていかなければいけない」と、しっかりと現実を受け止めた。
そして、指揮官は3位決定戦について訊かれると、こう答えた。
「チームが弱くなっているわけではない。しっかりと気持ちを切り替えて、最後、必ず勝ちに行きます」
予選でオーストラリア、イランを撃破している日本が、3位決定戦で再びイランに勝てば、今大会の使命としてきた「オーストラリア、イランに勝って日本の強さを示す」ことを完全に成し遂げたことになる。
及川HCも「ずっとオーストラリアとイランとどう戦って勝つかを課題としてきて取り組んできたチーム。最後のイラン戦に勝って、やるべきことはやってきたということを示し、次に進んでいきたいと思っています」と意気込む。
そして、キャプテンの豊島も3位決定戦の意味をこう語る。
「来年の東京パラリンピックでは、もちろん全勝して金メダルを取りにいきますが、それでも厳しい試合が続くことが予想される中、たとえ予選で負けても、そこからいかに修正をして最後は勝利で終えられるか、ということが大事になってくる。それを今大会で経験できるというのは、プラスになるはず。なので、必ずイランに勝って今大会を締めくくりたいと思います」
日本の強さを示して勝利を挙げ、有終の美を飾る。それが今、“及川ジャパン”に残されたただ一つの使命だ。
文・写真=斎藤寿子