2021.08.26

車いすバスケ女子日本代表…スピードでの“ミスマッチ”でオーストラリアを撃破!

2008年北京大会以来となったパラリンピックの初戦を快勝した車いすバスケ女子日本代表 [写真]=Getty Images
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

「このためにやってきたので、勝てて本当にうれしいです」

 共同キャプテンの一人、藤井郁美の言葉が、この勝利に対する価値の大きさを物語っていたーー。車いすバスケットボール女子日本代表にとって、2008年北京大会以来となったパラリンピック。加えて18年世界選手権の出場を逃しているチームにとって“世界一決定戦”の舞台自体が、14年世界選手権以来、実に7年ぶりのこと。その初戦でオーストラリアに快勝し、世界のステージで止まっていた時計の針が今、ようやく動き始めた。

プレスディフェンスでつかんだ主導権

 勝敗の分かれ目は、第2クォーターに訪れた。初戦のスタートとあって、第1クォーターはやや動きが硬く、ハイポインター陣のシュートが決まらない時間帯が続いた。それでもチーム最年少の柳本あまねが得点を重ねるなどして、16-14と2点リードで終えたことが大きかった。

 この時、藤井は「よし、行ける」と勝利を確信していたという。その理由は、スタートから全力できていたオーストラリアに対し、日本はまだ手の内を見せていなかったからだった。

「勝てて本当にうれしいです」と藤井郁美は勝利の味を噛みしめた [写真]=Getty Images


「ここから自分たちの強みであるプレスをしていけば、勝てると感じていました」と藤井。その言葉どおり第2クォーターに入ると、ハーフコートに戻ってのディフェンスをしいていた第1クォーターとは一転、カウントプレス、ノンカウントプレスを多用し始めた。

 すると、スピードで日本にかなわないオーストラリアの動きが止まり、8秒バイオレーションを取られるなど、明らかに“スピードのミスマッチ”が起きていた。第2クォーターだけで、オーストラリアのターンオーバーは8を数え、2とした日本との差が浮き彫りとなった10分間だった。

 さらにディフェンスが機能したことで、オフェンスにもいい流れが出始める。例えば第1クォーターの序盤はアウトサイドのシュートが決まらずに苦しんでいた網本麻里が、真骨頂であるクイックネスを発揮。高さではなく、スピード勝負に持ち込むように積極的にカットインをしてシュートを狙い始めたのだ。これが得点につながり、チームを勢いづける要因の一つとなった。

次第に持ち味を発揮した網本麻里 [写真]=Getty Images


「オーストラリアの高さにやられていると思ったので、もっと走ってアタックしていこうと。それで流れが変えられたかなと思いました」と網本。その後は北田千尋、藤井も得点を重ねた。

 この第2クォーターで完全に握った主導権を、日本は最後まで手放さなかった。

近年、日本は公式戦でなかなか白星を挙げることができずに苦しんできた。特にリオパラリンピックの出場を逃した2015年以降は、世界の舞台から遠ざかり、アジアオセアニアゾーンの中でも、パラリンピックのキップを争う中国やオーストラリアには一度も勝てていない。そんな勝利に飢えてきたチームにとって、この1勝は非常に大きい。

 だが、勝負はここからだ。18年世界選手権準優勝のイギリス、そのイギリスを今大会初戦で破ったカナダ、そして世界選手権3位のドイツと強豪国との対戦が続く。決勝トーナメント進出、そして目標とするメダル獲得に向けて、戦いの日々が続く。

文=斎藤寿子

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