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『B MY HERO!』
東京パラリンピック最終日の5日、車いすバスケットボール男子日本代表は金メダルをかけてアメリカと対戦した。最後までどちらが勝つか分からない死闘が繰り広げられたが、64-60の4点差でアメリカが逃げ切り、16年リオパラリンピックに続く連覇を達成した。しかし、試合の終盤まで追い込まれていたのはアメリカの方だったーー。
日本とアメリカとの対戦は、近年では一度もない。リオデジャネイロパラリンピック以降に行われた唯一の“日米戦”は、2019年6月のアメリカ遠征で行われたものだ。そこで日本はアメリカと3試合の親善試合を行っている。結果は、3戦全敗。とくに初戦は35-76とダブルスコア以上も離された完敗だった。
目の当たりにしたのは、アメリカの脅威的なシュート力と統率の取れたスピーディな連係プレーだ。日本のディフェンスがしっかりと機能していてもタフショットを決められ、さらに攻防にわたってコート上の5人の動きやパスワークに圧倒されるなど、日米の実力差が決して小さくないことを突き付けられた。
しかし、東京パラリンピックの決勝で相手を翻弄したのは、「ディフェンスで世界に勝つ」を体現した日本のほうだった。得点力のあるアメリカに対し、最も警戒すべきだったのがキャプテンでエースのスティーブ・セリオと、チーム一の高さを持つブライアン・ベル、そしてベンチスタートながら準決勝までの7試合でチーム最多の1試合平均14得点を挙げていたジェイク・ウィリアムスの3人だ。
まずはベルに対して、2年前の試合では苦戦をしたパワフルなインサイドアタックをしっかりと抑えきったことが大きかった。第1クォーターでベルの得点シーンはわずかに1度きり。これがアメリカのスタートダッシュを許さなかった要因の1つとなった。第2クォーター以降も、ベルのインサイドへの侵入をほぼ完璧に止め、毎試合のように2ケタ得点を挙げたベルを1ケタに抑えた。
そしてチームの流れを変えるべく、第1クォーターの序盤から投入されたウィリアムスのシュートがことごとくリングに嫌われたこともアメリカに流れを渡さなかった大きな要因となった。昨シーズンまでドイツのブンデスリーガでプレーしていたウィリアムスは、正確無比なシュートで所属するチームを2シーズン連続でヨーロッパクラブ王者へと導いたプレーヤーだ。そのウィリアムスが、第3クォーターを終えた時点でのフィールドゴール成功率は、わずか30パーセントにとどまっていた。
そのため、得点が分散した日本に対して、アメリカはエースのセリオに頼らざるを得なかった。全13得点をセリオが挙げた第3クォーターがその象徴だったと言っていいだろう。
しかし、“世界最強”のアメリカは40分で勝ち切る術を知っていた。それまで影を潜めていたウィリアムスが、第4クォーターの中盤になって調子を取り戻し、2連続得点。これで逆転に成功したアメリカは、ファウルゲームに望みをつなげた日本に対し、セリオが確実にフリースローを決めて逃げきった。
試合後、アメリカのロン・ライキンスHCは、こう語っている。
「2019年と比べてシュート力、スピード、ディフェンス、どれを取っても、日本は大きく成長していた。4点差はチームの年齢的にも、パラリンピックで決勝を戦ったことがあるという経験の差で、我々は勝ててラッキーだった」
これは、単なるお世辞ではないだろう。4点差というスコアからも、そして試合終了のブザーが鳴った瞬間、顔を赤らめながら抱き合って喜び合うアメリカの姿からも、いかに日本に苦戦を強いられたかがわかる。
日本はあと一歩のところで金メダルは逃したが、男女通じて初の銀メダル獲得はまさに歴史的快挙。東京の地で、車いすバスケ界の新たな扉が開かれたことは間違いない。
文=斎藤寿子