2022.05.26

渡邊雄太とラプターズの2年間…鍛え、磨き上げられた“ウィニングメンタリティ”

渡邊雄太の2021-22シーズンを本人の言葉とともに振り返る[写真]=Getty Images
ロサンゼルス在住。1995年に渡米、現在は通信社の通信員として、MLB、NBAを中心に取材を行っている。

「勝ちに貪欲なところが、一番好きです」―。

 2021―22シーズンを終えた渡邊雄太に「ラプターズのどういうところが、一番好きでしたか?」と聞くと、渡邊は迷うことなく、こう言った。

「優勝を経験していて、その分余計に勝つことの大変さというのをよく分かっているメンバーが、とにかく勝つことに貪欲で、勝つために何をしなきゃいけないのかというのを常に考えている。そういう集団でした」と渡邊。「僕も本当負けず嫌いで、勝つことが何よりも好きで、そういうチームの一員になれたというのは、この2年間大きかった」。
 
 それは、今シーズンの渡邊の様子からもよく分かる。

 12月26日のクリーブランド・キャバリアーズ戦。トロント・ラプターズは通常のスターター5人全員を含む10人が安全衛生プロトコル入りし、1人が故障、1人がチーム不帯同。2試合が延期となったあと、NBAと選手会が認めた新型コロナウイルス感染拡大による特例の10日間契約選手4人を入れて、ようやく試合が出来る8人となった。

 渡邊はこの試合でスターター出場し、試合最長の37分10秒プレーして、ともに試合最多の26得点13リバウンドと自己2度目のダブルダブルを達成した。しかしラプターズは99―144と大敗。試合後の渡邊は「さすがに45点差負けの試合でダブルダブルを取っても、正直全然うれしくないです」と厳しい表情を見せた。

 その約2週間前となる12月13日のサクラメント・キングス戦で12得点11リバウンドと自己初のダブルダブルでチームの勝利に貢献し、「NBAのレベルでダブルダブルするということはそんなに簡単なことではない。自分を誇りに思います」と笑顔だった。

 しかしキャバリアーズ戦では、得点とリバウンドで自己最多を記録してのダブルダブルだったにも関わらず、「なんとも思わない」と言い放つところに渡邊の勝ちへのこだわりの強さが表れていた。

キャリアハイの活躍を見せたキャブズ戦[写真]=Getty Images

 ラプターズの副会長でもあるマサイ・ウジリ球団社長は、「ゲームとは勝つことだ。シンプルなこと。それ以外に何でもない。何度でも言う。勝つ。勝つ以外に何でもない。我々が欲しいのは、そういう選手だ」と話していた。

 渡邊がラプターズに合っていたのは、まさにそういった面だ。

 プレーオフ中、こんなやり取りがあった。渡邊にプレーオフではさらにフィジカルが重要になるという話をしていた時だ。

「フィジカルの部分は特にそうだと思います。簡単なレイアップとかは、みんなファウル覚悟で止めに行きます。そのフィジカルの部分の強度が上がっているのと、あとスピード一つとっても一瞬の速さみたいなのが、ギアが一つ違うのかなというのも見ながら思いますね」と渡邊。「それでは、普段から一生懸命プレーをする渡邊選手はどうなるのでしょう?」と言うと、「僕はレギュラーシーズンから100パーセントの力を出し切ってやっているので、何か変わるということはないと思う(笑)」と苦笑いした。

「そういうディフェンスだったり、激しくやることは、ずっとできていることなので、そういう部分で僕が出たらチームを助けることができるかなと思ったりします」と自信を覗かせ、第1戦でラプターズに故障者が出た話をした時は、「ケガ人がいなくても準備というのは怠らずにやってきたので、今ケガ人が出たからと言って急に準備をする必要はない。今までやってきたことなので、何か僕のなかで変わったことがあるかと言われたら別にないです」ときっぱり話した。

「もちろん彼らは、さぼっているわけではない」とほかの選手達も常日頃から全力で戦っていることを強調する。ただ普段から危機感を持ってコートに立ち、「どんな時でも100パーセントを出すというのを意識しながらやっている」のが渡邊だ。だからこそのリアクションだった。

チーム最高の“負けず嫌い”バンブリートから得た学び

敗戦が続く状況でも、ラプターズには“勝つ文化”があり続けたと振り返る[写真]=Getty Images

 渡邊雄太のなかに宿る「ウィニングメンタリティ」。それは、ラプターズでの2シーズンでさらに磨かれた。

 2019年にチーム史上初のリーグ制覇を果たしたラプターズは、当時の要だったカワイ・レナードをフリーエージェントで失いながらも、翌シーズンのイースタン・カンファレンス2位でレギュラーシーズンを終え、プレーオフではカンファレンス・セミファイナルまで勝ち進んだ。

 新型コロナウィルス感染拡大により、本拠地をタンパに移した昨シーズンは故障者が相次ぐなどで8シーズンぶりにプレーオフ進出を逃し、今シーズンも31試合を終えたところで14勝17敗と負け越していたが、そのまま後退するのではなく、年明け頃からぐんぐん調子を上げて、最後には「貯金14」でイースタン・カンファレンス5位につけた。

 調子が上がった理由について渡邊に問うと、「リーダーであるフレッド(バンブリート)が、しっかりしているのが大きな要因」と答えた。

「チームメートに対して厳しく言う時もあります。僕も散々言われましたし、全員散々言われているんですけど(苦笑)。それでも彼がいつもああやってウィニングメンタリティを見せてくれるので、チームにそういう“勝つ文化”というのがあって、仮に負けがかさんでいる時でも、それはなくならずにあり続けています」

 昨シーズンは27勝45敗でイースタン・カンファレンス15チーム中12位に終わった。3月には20連敗中だったロケッツに敗れシーズンワーストの9連敗を喫するなど、傍から見れば惨めなシーズンだった。しかし「ラプターズの中」では違った。「それでもいつも勝ちにこだわってやっていましたし、今年も途中ちょっと流れが悪くなったんですけど、最後はしっかり5位まで順位を上げてきていて、2位も狙えるところまで行けた。そこはやっぱりリーダーがしっかりしているというのがすごく大きいと思います」と誇らしげに語った。

チームのリーダーであるバンブリートから多くのことを学んだという[写真]=Getty Images

 ある日、こんなことがあった。

 バンブリートが故障から復帰する前に渡邊らと対人プレーを行った。「そこでも全力で彼はやってくる。僕ももちろんそうなんですけど、例えばゴール下で僕が簡単にレイアップを決めようとしたら、思いっきりタックルみたいなことをして、ファウルして一回プレーを止めて、またやり直しさせるとか。正直彼にとっては練習外のリハビリの中の2on2なので、見方を変えれば、そこまで本気になる必要もないですし、僕に2点を取られたぐらいで大きな影響が出るとかでもないのに、彼は1点ですら与えたくないっていう(苦笑)。そういう姿勢をこの2年間間近でずっと見させてもらった。タックルがいいとは思わないですけど(笑)、本当に勝つってこういうことなんだと。この人はそれほど勝つことに貪欲なんだと勉強させてもらいました。僕のなかですごく大きかった」。

 これまでバンブリートほど負けず嫌いな選手に出会ったことがあるかと聞くと、「彼ほどの競争心というか、そういう強い気持ちを持って、またリーダーとして、全部含めて、あれだけの精神力を持っている選手というのは、僕が見たなかでは一番」と答えた。

「今が一番しんどい」…どん底を経験しながらも終盤に光明

年明けからは出場機会が得られず、精神的にも追い込まれていたという[写真]=Getty Images

 渡邊が今シーズンを「いろいろ大変なことがありましたけど、かなり充実した1シーズンでした」と振り返るように、本契約で迎えた4年目は、多くを学んだ一方で決していいことばかりのシーズンではなかった。

 故障でシーズン開幕に出遅れたが、復帰後は順調で12月は4度2ケタ得点を記録するなど、1試合平均8.6得点4.7リバウンドをマークした。しかし1月はじめに新型コロナウィルスに感染し、復帰した直後の2試合で調子を落としたことや戦列を離れていた選手が戻ったことなどで出場機会が減った。オールスター前の11試合では5試合連続を含む7試合で出場機会なし。出場した4試合の合計プレー時間は14分弱だったものの計10得点していたが、それが渡邊の心を癒すことはなかった。

「結構毎年こういう時期があるというか、自分の中で割としんどいというか…。でもいつもこういう時期をしっかり乗り越えて、また次のレベルに自分は行けていると思うので」と落胆のなかでも前を向こうとした渡邊。「集中力が切れそうとか、『別にここでやめてしまっても』みたいに思ったりすることがないと言ったら正直嘘になるんですけど、ただ、それでもしっかりやり続けて。そうしたらまた次のレベルに行けるということを信じてやるようにしています」と声を振り絞った。

 3月半ばにロサンゼルスへ遠征した時も、「今はあまりそういうことを考えないようにしている」と話したが、「精神的にしんどい時があったと言っていた昨シーズンと比べてどうか」と聞くと、「今が一番しんどいと思います。しばらくローテーションとして出ていたので、それがあった分、余計にしんどい。一度それを経験してしまったので、ローテーション外からまた這い上がっていくっていうのは……。ローテーションに入るのがどれだけ大変かというのは、この4年間で自分が一番分かっているので、だから『また1からやり直しか』という部分が。正直、それを考えると今はすごくストレスになります」と話していた。

レギュラーシーズン終盤に与えられたチャンスで存在感を発揮した[写真]=Getty Images

 そこにようやく光明が見えたのが、レギュラーシーズン最後の2試合。それまで左大腿四頭筋の痛みで4試合に欠場していたが、復帰のヒューストン・ロケッツ戦では第4クォーターフル出場を果たし、3得点3リバウンド2スティールで同クォーター開始時には10点を追っていたチームの逆転勝ちに貢献した。そしてレギュラーシーズン最終戦のニューヨーク・ニックス戦では、11分19秒出場して4得点4リバウンド2アシスト1スティール。

「やっていると夢中になって今までのケガのことだとか、しんどさというのは忘れていました」と言った渡邊。プレーオフに入ってから、「2月や3月の時のような心の痛みが、まだありますか?」と訊ねると、「今はすごく楽。時間が経って解決してくれた部分もありますし、自分のなかで吹っ切れた部分もある。長く出られた試合はあまりありませんでしたけど、ロケッツ戦とか、自分らしいプレーを出せてチームの逆転につなげられたとか、ああいう経験があるとやっぱり自分がやってきたことは間違いではなかったと思ったりして、今は全然(しんどさはありません)」と声を弾ませた。
 
 ラプターズはプレーオフ1回戦でシクサーズに敗れたが、3連敗スタートしたあと2連勝してシクサーズを脅かし、0勝3敗からシリーズ制覇を達成するNBA史上初のチームになるのではないかと思わせるほどの勢いを見せていた。

 結局は、第6戦で敗退したが、「シーズン通してみんな成長して、優勝を狙えるだけの実力はつけられたと思います。その分余計に(第6戦の)負けは悔しいんですけど、それだけ毎試合、本気になってみんなと戦えたというのが、何よりこの2年間僕が楽しかったことです」と振り返った。

「勝ちに貪欲な」ラプターズで2シーズン学び、自らも苦しい山を乗り越えてきた。そういった経験を「日本代表に持ち帰って、リーダーとしてやっていかなきゃいけない部分もあると思います」とし、「来シーズン、どこにいってもこのメンタリティというのをとにかく大事にして、勝つために何をしなきゃいけないのかというのを日ごろの練習からしっかり考えながらやっていければと思っています」。

「ウィニングメンタリティ」という貴重な武器を身につけ、渡邊はフリーエージェントのオフを迎える。

ラプターズでの2年間で大きく成長した渡邊。今後の動向に注目が集まる[写真]=Getty Images

文=山脇明子

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