2023.05.24

富永啓生のNBA挑戦をサポートする指揮官に直撃「今夏の彼の動向は私も楽しみです」

ネブラスカ大のホイバーグHCにインタビュー [写真]=Getty Images
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 2022ー23シーズン、ネブラスカ大男子バスケットボール部の指揮官となって4年目で16勝16敗と最高の勝率を残し、NCAA屈指の強豪カンファレンス・ビッグ10で存在感を示したフレッド・ホイバーグヘッドコーチ。2021ー22からは富永啓生が加入し、彼の成長を後押ししてきた。

 この日本から来たレフティーも今シーズンは、さらに力量を高め飛躍。4月末にはNBAドラフトへのアーリーエントリーをし、夏にはFIBAワールドカップでも中心選手として躍動することが期待される。

 自身もNBAでシューターとしてならし、シカゴ・ブルズでHCを務めている同氏が、富永の今シーズンのプレーぶりや成長をどのように見ているのか、話をうかがった。

取材・文=永塚和志

スコアラーへ覚醒した今シーズンを総括

――今シーズンの富永選手は前年と比べても大きく成長を果たしましたが、ホイバーグHC自身は彼の今シーズンをどのように見ていますか?
ホイバーグ そうですね、啓生はすばらしいシーズンを送ったと思いますし、彼の成長や向上を見届けることができたのは率直に言って楽しいものでした。とりわけシーズン後半では5、6試合連続で相手が抑えようがないほどのパフォーマンスをした時期がありました。相手はフェイスガードで、コートのどこに啓生がいようとディナイを使って守ってきていましたが、それでも彼は高いレベルのプレーをし続けてくれましたし、平均で20点以上をマークしていた好調時の彼の活躍は今シーズンのカレッジバスケットボール全体を見渡してももっとも印象的なものの1つだったのではないでしょうか。

 啓生のシュートのうまさについては誰もが知るところです。ですが、今シーズンの彼は2ポイント成功率(62.4パーセント)で、パデュー大学のザック・エディーやミシガン大学のハンター・ディッキンソン、インディアナ大学のトレイス・ジャクソン・デイビスらを上回って、ビッグ10カンファレンスのトップクラスの数字を挙げたのも衝撃的でした。

 啓生が5フィート(約152センチ)から6フィートも3ポイントラインの後ろから3ポイントシュートを決める姿は何度も見てきましたが、6フィート2インチ(188センチ)の彼が3ポイントの中からでもそれだけ効率よくシュートを決められたというのは驚きでした。

 ディフェンスは彼が向上しなければいけない最大のポイントでしたが、彼自身も懸命に励んでディフェンスにプライドを持つようになり、大きく飛躍を果たすことができました。ディフェンスでチームの貢献をする場面も作り出していました。ですから、彼の今シーズンのプレーぶりを見るのは楽しいものでしたね。

――シーズンをもう少し詳細に見ると、前半は富永選手をベンチから出場させることが大半で、1月中旬からは先発起用となってそこからさきほどおっしゃっていた大活躍がありました。
ホイバーグ そうですね。シーズンの初めのほうは学年が上の選手たちに先発をさせていて、また啓生に少し脚をつってしまう問題があってベンチからの起用になっていたのですが、その最初に先発をさせていた選手たちに故障者が出て、それで啓生を先発にしたのです。啓生もその機会を見事に生かして、活躍をしてくれました。

 啓生の今シーズンの数字は良くなっていますが、脚の問題というのもあったわけで、彼の本当のパフォーマンスはシーズン最後の1カ月半、6週間ほどに集約されています。この間の彼の活躍ぶりはビッグ10でもベストのものの1つで、それは最終的に大学最優秀選手(National Player of the Year)に選ばれたザック・エディーのそれにも劣らないものでした。彼はこの活躍で大いに自信を深めたと思いますし、それは次のシーズンにも生きてくるでしょう。

――啓生は仲間にとって良いチームメートになったという感触もありますか。
ホイバーグ 彼はネブラスカ大のキャンパスに来た最初の日から良いチームメートでしたよ。皆、彼がバスケットボールを心底、楽しんで、情熱を持ってプレーしているところに尊敬の念を抱いてきました。それは他のチームからも感じられたことで、私が他校のコーチなどと会話をしていても、彼らは啓生のバスケットボールに臨む姿勢や懸命にプレーする姿に感銘を受けていました。
ファンも同様で、例えばわれわれがビッグ10トーナメントに出場した際には、啓生がボールをもらうたびに会場がどよめくんです。それはなにもネブラスカのファンだけではなくて、相手のファンからもそういう反応がありましたし、皆、啓生のプレーぶりを注視していました。

シーズンの終盤、富永がボールを持つたびに会場がどよめいたという [写真]=Getty Images

NBAドラフトにアーリーエントリーした理由とは

――富永選手はNBAドラフトにアーリーエントリーをしました。どのような経緯でこの決断に至ったのか、また彼とはどのような話をしたのでしょうか。
ホイバーグ 彼とどんな話をしてこういった決断となったのか、詳細は話せなのですが、啓生のためには意義のあることだと考えています。我々としても彼がドラフト前のワークアウトに参加できるように最大限の手助けをしているところです。

 NBAドラフトコンバイン(5月16日から18日にシカゴで開催。今年は78選手がエントリー)の前にワークアウトが行われることはそう多くはありませんが、コンバインから1週間後くらいから今度はエージェント主催のワークアウトなどが始まります。いずれにしても、啓生にはいくつかのワークアウトに参加できるよう動いていますし、ワークアウトに参加し、啓生自身も各チーム等の選手獲得の決定権のある人たちと話をすることで、彼にどういうものが求められるか等を知ることもできますし、その上で大学に戻る、戻らないの決断も下しやすくなります。

 啓生はすでにいくつかのNBAのチームとコンタクトを取っていて、NBAのロスター入りするためにはどういったことが必要になってくるか等、情報を集めているというところです。

 これは啓生にとってすばらしいチャンスですし、われわれも彼を全面的にサポートしながらワークアウトが順調に進むことを願っています。私としても彼にできるだけのアドバイスを授けたいと思っていますし、チームに彼のことを紹介することもやぶさかではありません。

――ホイバーグHCとしては富永にNBAに行ってもらいたいという気持ちと、自分のチームにいてもらいたいというちょっとした複雑な気持ちもあるのでないですか。
ホイバーグ そうですね。啓生は5月31日までにNBAドラフトにエントリーするか取り下げるかを決めるわけですが、彼には自分のためにベストな決断を下してほしいと正直に伝えています。もちろん我々全員が、彼がチームに戻ってくるなら歓迎します。ですが、まずはNBAのチームとの動向を見届けたいです。いずれにしても、啓生のこの夏の動きについては私も楽しみですよ。

「啓生のこの夏の動きについては私も楽しみですよ」とホイバーグHC [写真]=バスケットボールキング


――富永選手はNBA以外にも、このオフシーズンにはワールドカップへの出場へむけての日本代表での活動もあります。国際舞台での彼にはどんなことを期待されますか。
ホイバーグ 啓生はネブラスカで自身の成長のためにできるだけのことをしてきましたし、それはウェイトルームで多くの時間を費やしながらわれわれのストレングスコーチと体の強化に務めるといったオフコートの努力もそうです。今年の春などは、6月に日本代表の合宿に入ることを念頭に、彼は食事の面でも頑張って、体を強く、大きくすることに努めていました。

 啓生は昨年の夏にも日本代表でプレーし、出場した試合で日本代表のリーディングスコアラーになったかと思いますが、沖縄で行われるワールドカップへの出場は、彼が去年から積み重ねてきたものを披露する良い機会になると思っています。昨年の代表での活躍は今シーズン、ネブラスカでのシーズンに入るにあたっても彼に自信を与えてくれましたし、今年、ネブラスカで見せたパフォーマンスは彼にさらなる自信をもたらしていると信じています。今年も代表で良い経験を積むと思いますし、私としても彼が世界の舞台でより多くの勝利に貢献してくれたらうれしいですね。

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