【この一足~バッシュへのこだわり】小野龍猛「大きなケガから復帰する時に履いた『ZOOM KOBE 4』は、その不安を忘れさせてくれたバッシュでした」

スニーカー好きでも有名な小野龍猛選手がどんなバッシュを選択するのか?

Bリーガーにバッシュへのこだわりを聞いていく連載、第5回。今回登場するのは、小野龍猛選手(千葉ジェッツ)。チームにアドバンテージを生み出し続けるビッグマン、そのプレーを支えるバッシュとは一体?

取材協力=千葉ジェッツ
文=CARTER_AF1

軽く、ほどよい”遊び”もあるバッシュ、『KOBE A.D. MID』

今シーズン、小野選手は『KOBE A.D. MID』をメインに履いてプレー[写真]=B.LEAGUE


――現在履かれているバッシュを教えてください。
小野
 NIKEのKOBEシリーズが全般的に好きで、今は『KOBE A.D. MID』を主に履いています。ただ、その日の気分でいくつかのバッシュを履き替えてもいまして(笑) 今なら他に『AIR JORDAN 32 LOW』と『JORDAN WHY NOT ZERO.1』も履いています。

――NIKEの『KD 10』も履かれていましたよね? 確か『JORDAN WHY NOT ZERO.1』を履かれた次の試合で。
小野
 そうです、そうです。『KD 10』も履きました。

――まさかの、履き心地が全く違うバッシュのリレー(笑)。
小野
 そうですね(笑) ですので、そこはやはり気分次第で変えています(笑) 僕は何というか、新作が好きなんです。新作バッシュが出たら、「それを試合で履いてみたい」というのが(自分の中で)最初の選択肢なので。

――そうなると、 NIKE KOBEシリーズは新作が出れば履く、ということでしょうか。
小野
 それは間違いなく。KOBEシリーズは、『ZOOM KOBE 1』からずっと履いてきました。でも実は、『ZOOM KOBE 5』は(合わなくて)ダメだったんですよ。

――なんと、それはあまり聞こえてこない感想です。『ZOOM KOBE 5』はシリーズ中で屈指の名作だとの評も多いですから。
小野
 僕にとっては1つ前に履いていた『ZOOM KOBE 4』が良すぎて、逆に『ZOOM KOBE 5』がしっくりこなかったのです。でも、『ZOOM KOBE 6』以降もKOBEシリーズは履いていきました。そして昨シーズンに履いた『KOBE 11 ELITE』は、また(ZOOM KOBE 4以来に)グッと来たんです、これはいいバッシュだなと。続いて出た『KOBE A.D.』も、僕の中では同様でした。ですから基本的に、KOBEシリーズはずっと好きです。

――そうして今シーズンも、メインで履いているのは『KOBE A.D. MID』になると。
小野
 そうですね。(今年1月の)天皇杯もこれで優勝しましたし、本当に履きやすいです。

――では、『KOBE A.D. MID』はどんなバッシュなのか、優れている部分なども教えてください。
小野
 僕は軽いバッシュが好きなのですが、『KOBE A.D. MID』はミッドカットの割に軽いんです。グリップもしっかりしていますし、インソールも足に合います。あとは、ミッドカッドとは言ってもほぼローカット(の感覚)。(足首の上まで覆うような)カットが高いものはあまり好きではないのですが、『KOBE A.D. MID』は高さもほどよいなと。やはりローカットが好みだという部分も合わせて、このバッシュの履き心地は好きです。

――小野選手の体格からして、アウトソールの強さや硬さにこだわりは?
小野
 それにはこだわらないですね、逆にソールが硬すぎるのはあまり好みではないぐらいです。他には、『KOBE A.D. MID』には中の作りにほどよく”遊び”があるところがいいですね、僕は(フィッティングで)そこまできつく締め上げたくはないので。

――そうすると、試合に臨む際にもシューレース(靴ひも)はゆるく締めるイメージでしょうか。
小野
 はい、きつく締めるのは(甲の上の)数か所だけです。

――なるほど、ボディやソールの作りが硬いバッシュで足をがちがちに固めるというのでなく、少しルーズな方がいいということですね。そうなるとやはり『AIR JORDAN 32』よりは『KOBE A.D. MID』を選ぶことが多くなりますよね。
小野 はい。ただ『AIR JORDAN 32 LOW』も本当にいいバッシュなんです、グリップがしっかりききますし、重量はありますがその分足が安定しますし。そちらも意外に好きになりました。

小野選手はバッシュの履き方にはこだわりを持つ[写真]=イケメン広報

――ここまでお聞きして疑問に思ったのですが、何度か履かれている『JORDAN WHY NOT ZERO.1』は小野選手の好みとはかなり違っていませんか?
小野
 そう、そうなんですよ。これを履いたのは正直な話、見た目です(笑)。

――見た目(笑) いいコメントいただきました、見た目って大事ですよね(笑)。
小野
 『JORDAN WHY NOT ZERO.1』は、とにかく見た目で履きたい!と思って履きました。

――実際試合で履いたら、『JORDAN WHY NOT ZERO.1』の硬くてがっちりしたアウトソールのおかげで普段よりもポストムーブがしやすかった、ということは?
小野
 え~っと、あまりなかったです(笑) ただ、これを履いた試合では結構活躍できました。履きづらそうに思える見た目ですけど、予想よりもずっと履きやすかったですね。クッションの柔らかさもありましたし。

――活躍できたというゲンの良さもありますし、今シーズン中に再登板があるかもしれませんね。
小野
 はい、あるかもしれません、それも気分次第ですから(笑) あとその、これを履いたらラッセル・ウェストブルック(オクラホマシティー・サンダー)みたいになれるかも、というのも少しはあるかな……いやウソです、僕はそんなプレーヤーじゃないんで(笑)。

『ZOOM KOBE 4』は、大きなケガをしていたことを忘れるほどの履き心地だった

――なるほど、ありがとうございます(笑) それでは一旦現在からさかのぼり、小野選手のこれまのバスケキャリアについてお聞きします。バスケを始められたのはいつからですか?
小野
 中学1年生の時からです。

――それからこれまで、どんなバッシュを履かれてきましたか。
小野
 その前に、まだバスケを始める前の小学生の頃に『AIR JORDAN 8』のバックスバニーカラーを父に買ってもらったんですよ。父はスニーカーやバッシュをよく知っていた人だったんですけど、それで買ってもらえた『AIR JORDAN 8』が初めて履いたAIR JORDANでした。それから中学生になって、バスケを始めた時はビンス・カーターのバッシュを履いた記憶があります。

――『SHOX』ですか?『SHOX BB4』でしょうか、それとも『SHOX VC1』?
小野  『SHOX VC1』の方ですね。『SHOX BB4』も多分履きましたけど、『SHOX VC1』は確実に。僕がバスケを始めたのは、ビンス・カーター(サクラメント・キングス)がNBAのダンクコンテストで優勝した2000年なんです。そのあと彼がNIKEと契約した時にSHOXが出て。「あれ履いたら、(カーターのように)跳べるんじゃないか」と思えて、とても履きたかった(笑) 正直言えば、当時はそこまでバスケは見てなかったですし、ビンス・カーターのこともそこまで詳しくは知らなかったですけど、SHOXは中学生の頃はずっと履いていました。

――高校生になってからは、どんなバッシュを?
小野  当時は僕もあまりバッシュに詳しくなくて、親が買ってくれたものを色々履きました。高校に入る時には、ADIDASを履いたりして。それもすごく(履き心地が)よかったんですけど、少しの間しか履かなかったです……今と同じですね(笑) 他にはAND1の『TAICHI MID』も履きましたし、国体の時はチームメイトとそろえてASICSを履きました。あとはほぼNIKEでしたね。大学生になってからだと、マジックテープで留めるタイプのLEBRONシリーズのバッシュや、田臥(勇太/栃木ブレックス)さんモデルの『ZOOM BRAVE 2』でもプレーしました。他は記憶が曖昧ですけど、大学時代は全てNIKEでした。

バスケを始める前からいろいろなバッシュを履いてきたという小野選手[写真]=イケメン広報

――逆に、中学校時代や高校時代に、「これは履きたかった」と憧れたバッシュなどはありましたか。
小野

 意外とそういうものはなかったですね。履きたいバッシュは意外に履けちゃったな、という感じでした。父の存在が心強くて、(欲しいバッシュを)買ってくれましたから。

――おぉいいですね~、私もそんな家に生まれたかったです(笑)。
小野  (笑) あと僕には中学2年生の頃に知り合った、バスケットボールショップのスタッフさんもいてくれて。その人の知恵も借りつつバッシュを選んでいました。色々教えてもらえました、僕がこんな風に(プロバスケットボール選手に)なるとは、その人も多分思っていなかったでしょうけど。

――なるほど、そうしてその方からバッシュの知識を吸収し、履きたいものを選んでいったと。
小野  はい、中学生の頃からずっと。それで高校の最後にウィンターカップに出場する時には、そのスタッフさんがNIKEiDのバッシュをプレゼントしてくれたんですよ。「ウィンターカップに出るんだから」って。その人のことは今でも大好きです。

――貴重なお話、ありがとうございます。続いて、過去履いたバッシュで特に印象に残っているものを、そのエピソードも添えて教えてください。
小野  大学4年生の時に履いた、『ZOOM KOBE 4』【注1】ですね。実は大学3年生の時、前十字靭帯を断裂して1年間全休しまして。それで4年生になり復帰した時に履いたのが、『ZOOM KOBE 4』でした。ケガからの復帰で不安を抱えたままコートに戻ったんですけど、あまりの履き心地の良さに(ケガ明けの)不安を忘れていたんです。それまでローカットのバッシュはあまり履いていなかったですけど、とにかくフィットしてくれて、とても好きでした。

【注1:10年ほど前にNIKEが生み出した『ZOOM KOBE 4』は、当時はまだ少なかったローカット形状のバッシュ。「ローカットではケガのリスクが高まるのではないか」との批判も当初はあったが、着用者であるコービー・ブライアントが素晴らしいパフォーマンスを見せたことでそうした声は収まり、バッシュ市場にローカットのトレンドを呼び込む一足となった】

――ローカットのバッシュは当時はまだ多くなかったですよね。そんな中でも、『ZOOM KOBE 4』を履いたことでケガへの不安は全くなかったと?
小野  全くなかったです。復帰の時は『ZOOM KOBE 4』さまさまでした。

小野龍猛が参考にするポール・ピアースのクレバーなプレースタイル

2008年、ボストン・セルティックスのリーグ優勝に貢献したポール・ピアース(写真右)[写真]=Getty Images


――そうだとすると、『ZOOM KOBE 4』は現在もお持ちだったり?
小野
 今はもう持ってないですね~。本当に好きだったから持っておきたかったのですけど。

――じゃああと4年くらい待ってください。(過去のKOBEシリーズを現代版にアップグレードした)PROTROでの復刻があると思いますから。
小野
 (笑) そういえば今日はスニーカーの話はしないんですか、バッシュの話だけ?(笑)

――今日はバッシュの話だけです。スニーカーの話は長くなるのでまた別の機会で(笑) それでは、小野選手がこれまでのバスケ人生で憧れた、参考にしたNBA選手を挙げるとすれば?
小野
 好きな選手はポール・ピアース【注2】(元ボストン・セルティックス他)なんです。彼は多くのNBAプレーヤーとは違ってそれほど速くはなくて、巧さだけでやっているように見えますよね!? そこが参考になるというか、すごく好きなプレースタイルなんですよ。もちろんコービー・ブライアント(元ロサンゼルス・レイカーズ)だったり、レブロン・ジェームズ(クリーブランド・キャバリアーズ)だったり、ケビン・デュラント(ゴールデンステイト・ウォリアーズ)だったり、それこそウェストブルックのような(身体能力を駆使した)プレーもしてみたいとは思いますけど、到底無理じゃないですか。だからポール・ピアースですね。

――ピアースですか!? 私は小野選手のプレーで本当に素晴らしいと感じるのが、ポストからの視野の広さやパスのクリエイティビティなのですが。それができる小野選手の落ち着きは、やはりピアースを参考にしていたから発揮されるものなのでしょうか。
小野
 そうですね。元々、(プレーでは)頭を使え、と言われたことがあったんですよ。大学1年生の時、【Basketball Without Borders】Camp【注3】 に参加したことがあって。そのキャンプ内のオールスターに選ばれてプレーした時、キャンプのコーチに「ラリー・バード(元ボストン・セルティックス)みたいになれ」と言われたんです。「バードは身体能力はさほどでもなかったが、頭の良さと、シュート力と、パスセンスで成り上がったんだ」と。(それを聞いて)なるほど、と。その経験もあってラリー・バードが好きになって……セルティックスじゃないですか、バードは。それで(同じくセルティックスで長くプレーした)ポール・ピアースも好きになった、というのがありました。あとパスの部分でいえば、マジック・ジョンソン(元ロサンゼルス・レイカーズ)のプレーも好きでしたね。

【注2:ポール・ピアースは、速さや跳躍力といった身体能力面に抜きんでたものはなかったが、巧みなオフェンステクニックで得点を重ねたスコアラーであり、惜しまれつつ昨年引退した。その背番号34は名門ボストン・セルティックスの永久欠番となり、小野選手も選んでいる番号である】
【注3:『バスケットボール ウィズアウト ボーダーズ』は、バスケットボールのさらなる国際発展を期すNBAと国際バスケットボール連盟による支援プログラムであり、2001年から開催されている】

――彼らのクレバーさや巧みさを参考にして、今の小野選手のプレーがあると。
小野
 そう思います。僕はどうしても身体能力には欠けていると思うので、その分バスケットIQだったりシュート力だったり、そういう巧さでカバーしていきたいなというのがあります。彼らはもういないですけど、今もNBAを観るときはそういう頭のいい選手をよく観るようにしていますね。

――あといくつかの質問を。スニーカーは現在、プレー用のバッシュも含め何足ほど所持されていますか。
小野
 どれくらいだろう、40~50足はあるんじゃないですか。プレー用は6足程度ですね、あとは全部(ファッション用途で)スニーカーとして履いているものです。

――プレー用バッシュに、カラーリングのこだわりは?
小野
 それはもちろん、ジェッツカラーです。

――そうして多くのバッシュを履かれてきた小野選手ですが。Bリーグを見てバスケをプレーしてみようと考えるブースターの方々や、バスケを始めるお子さん達に、バッシュ選びについてどんなアドバイスを送りますか?
小野
 色や形といったデザインの面で、「これが履きたい」とパッと思えるような、自分の好みなものを選ぶのがいいかなと思います。あとは、「あの選手がこのバッシュを履いているからこれがいい」でもいいかと。もちろん上級者は履き心地だったり自分のプレースタイルだったりで選んだ方がいいでしょうけど、これから始めるという入口の段階なら、デザインだったり、色合いだったり、憧れの選手が履いているものだったりと、パッと自分の目を引いたものを選んでもいいのではないでしょうか。僕はそうでしたから、あの選手が履いているから履こう、と。そしてそこからバスケを続けていった中で、自分に(プレーに)合うものを探していって欲しいなと思います。

――最後の質問です。小野選手にとって、バッシュとはどんな存在ですか?
小野
 商売道具、でしょうか。バスケットボールはアメリカの文化で生まれたものなので、ヒップホップなどのカルチャーとしてのカッコ良さがベースにあるじゃないですか。加えて、そのカッコ良いものを履けて仕事ができるなんて、本当にうれしいことなので。オンコートもオフコートでも履ける可能性を持っているのって、バッシュだけなんじゃないかと。おしゃれの一部でもある商売道具。そんな唯一無二の存在だと思います。

小野選手の足元を支える『KOBE A.D. MID』(右から2足)と『JORDAN WHY NOT ZERO.1』

モバイルバージョンを終了