2019.07.29

見守ることで成長につなげた岡山商大附属の全国初勝利

岡山商科大学附属高校を率いる納谷幸二コーチ[写真]=佐々木啓次
本格的に取材を始めたのが「仙台の奇跡」と称された2004年アテネ五輪アジア予選。その後は女子バスケをメインに中学、高校と取材のフィールドを広げて、精力的に取材活動を行っている。

「令和元年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」には男子6校、女子2校の初出場校がある。そのうち男子の6校が第1日目の1回戦に登場した。結果は2勝4敗。勝利した2校のうち1校は初出場同士の対戦となったため、どちらが勝つにせよ1勝がマークされるわけだが、もう1校は3年連続3回目の出場となる八戸学院光星高校(青森県)を破っての2回戦進出である。勝ったチームは岡山商科大学附属高校(岡山県)。率いるのは就任11年目の納谷幸二コーチである。

 その名前を聞いて、すぐにピンと来る読者もおられよう。納谷幸二。埼玉県出身の45歳。北陸高校(福井県)から拓殖大学へ進み、トヨタ自動車(現アルバルク東京)を経て、アイシンシーホース(現シーホース三河)でもプレーしたポイントガードである。

 その納谷がコーチとして初めてインターハイに出場し、教え子たちを全国初勝利へと導いた。納谷コーチは試合後、勝因についてこう振り返っている。

「昨年、初めて出場したウインターカップの経験が大きいです。特別なことをしたわけではありません。ただ今年のチームは第3クォーターに崩れることが多かったので、そこをポイントに挙げていました。結果としてその10分間が同点だったので、クリアできたのかな」。経験をベースにしながも、自分たちの課題を克服してきたことがインターハイ初勝利へとつながった。

 納谷コーチ自身としては1991年の浜松インターハイ以来の出場となる。

「実は当時のことをよく覚えていないんです。洛南(高校/京都府)に負けたような気はするんですけど……。それよりもこのチームのヘッドコーチとして全国に出るまでの思いのほうが大きいです。やっとインターハイに出られて、やっと全国で1勝ができました。何度も負けてきて、1勝の重みを強く感じています」

 初めて全国大会に出場した昨年のウインターカップでは前橋育英高校(群馬県)に敗れて、初勝利はお預けとなった。それ以前、昨年度のインターハイも十分に狙える圏内にいたが、県内予選の最後の壁を越えられなかった。納谷コーチはその要因を「経験値が足りなかった」と振り返る。

「昨年までは我慢ができていませんでした。中学、高校は心の我慢ができるかどうかがすごく大きい。ウチは厳しく、スパルタでというチームではありません。楽しみながら、一生懸命をスタイルにしています。でもそこで私が言うことだけをやっているだけでは、選手も成長しません。黙って見守ることも成長につながると思って、指導しています」

 日本代表にも選ばれたことのある、かつての名ポイントガードは、過去の栄光や、その時代に捉われることなく、今の時代に即したチーム作りを施している。11年という長い時間も要したが、それでも全国に出るという経験が今後につながると納谷コーチは改めて実感している。だから勝ったことを素直に「うれしい」とも明かす。

 明日は土浦日本大学高校(茨城県)との対戦となる。コーチこそ代わったものの、経験豊富な古豪である。プレーヤー・納谷幸二がいれば、もしかすると、ひねりつぶせたのかもしれない。しかし今、コートでプレーするのは15歳から18歳の発展途上の高校生である。自分ではない。どれだけ強く、優しく見守ることができるか。

「胸を借りて、100パーセント、チャレンジしたいです」

 就任11年目とはいえ、全国レベルの大会ではまだまだルーキーに近い。初戦を勝ち抜いたチームをどう見守り、どう導くのか。ヘッドコーチとしての力量が改めて問われる夏である。

文=三上太

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