2019.07.31

「力はもっとあるんです」…3回戦で敗退した中部大第一の“ラストチャンス”

インハイは3回戦で姿を消した中部大第一。常田健コーチは冬に向けてチーム改革に乗り出すつもりだ [写真]=佐々木啓次
本格的に取材を始めたのが「仙台の奇跡」と称された2004年アテネ五輪アジア予選。その後は女子バスケをメインに中学、高校と取材のフィールドを広げて、精力的に取材活動を行っている。

「チームを抜本的に変えるときなのかもしれない」

 中部大学第一高校(愛知県)の常田健コーチは試合後、そう口にした。

 7月30日に行われた「令和元年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の男子3回戦、中部大第一は開志国際高校(新潟)に62-65で敗れた。昨年度のインターハイ決勝の再戦となったが、中部大第一はまたもその壁を乗り越えることができなかった。

 しかし常田コーチが嘆いているのはその結果ではない。いや、もちろん負けたからこそ言える言葉なのだが、常田コーチは「同じ負けにも良い負け方と、悪い負け方があると思うんです」と語る。

「今のチームはこのチームになってずっと同じ負け方をしています。その責任がどこにあるかといえば、もちろん私にもありますが、選手に目を向けると少なくとも1年生はないと思います。3年生が大事なところで声を出せなかったり、責任が取れない。これはずっと言い続けていることなんですが……敵は身内にあり、です」

 ゲームは3点差で決着を見ている。傍から見ればナイスゲームと思われるかもしれないが、常田コーチはそう考えていない。そこに成長の証が見られるかどうかを指摘するわけだ。

 では誰が抜本的な改革を受け、チームの柱になっていくのか。常田コーチは「2年生もいますけど、やはり彼らも1年生の頑張りを見て、自分もやろう、となっている。そう考えると1年生かもしれません」と言う。

 今年の中部大第一には有望な1年生が入ってきている。中でもシューターの福田健人と、ポイントガードの谷口歩は入学と同時にスタメンに起用されるほどの選手だ。2人について、常田コーチはこう言っている。

「健人は昨日の試合で左目の上を3針縫うケガをしました。本来であれば出さないほうがいいんでしょう。でも彼はずっと努力をしてきた。それを上級生たちにも示すメッセージでもあったんです。谷口もガードとしてはまだまだですが、昨年の3年生(現在の大学1年生)と同じ背中を持っているんです。高校から先、大学やプロとして選手でやっていけるのはそこだと思うんです」

頭に包帯を巻きながらプレーした福田健人 [写真]=佐々木啓次

 昨年との比較をしているわけではない。それが無意味であることを常田コーチはわかっている。しかしチームをずっと率いてきて、ようやく伝統らしきものを積みあげてきたと思っていたところに、思わぬ落とし穴が待っていたのだ。

 福田自身に話を聞いても、彼は多くの課題を口にしている。得意の3ポイントシュートが入らないときは他のプレーでどう対応していくか。ドライブに行こうとするとミスになるし、ディフェンスもまだまだだ。そうした課題を克服していきたいと言う。

 むろんそれは2年生でも3年生でも同じような考えを持っているはずだ。しかし1年生のそれと、2年生、3年生のそれとでは立場が変われば、要求されることも変わってくる。ただプレーがうまくなればいいというものではない。チームの中で何をすべきか。それを考え、実践してほしいと常田コーチは考えている。

 福田はこんなことも言っている。

「試合に出していただけるのはありがたいと思っています。でも僕は1年生だからミスをしても仕方がないとは思いたくないんです。(常田)先生がよく言っているのは『点差が開いてからシュートを決めても意味がない。接戦のときに学年関係なく決めるのがいい選手だ』と。僕はそうなりたいんです」

 まだどこかで幼さが抜けきれない福田だが、それでもそれをきちんと口にできることはある種の覚悟の表れでもある。

 開志国際戦も、わずかに逆転のチャンスがある時間帯に福田はパスミスを犯している。常田コーチからすれば、そのミスがボールから目を離した3年生にあると言うが、彼はあくまでも自分のミスだと責任を引き受けようとしている。

13本放った3ポイントは2本の成功にとどまった [写真]=佐々木啓次

 最後に常田コーチが「記事にできるんだったら、本当に書いてほしい」と言ったのは、それでもどこかで3年生が本気で変わるのを待っているからだろう。

「あいつら(主力の3年生)はまだ本来の力を半分も出していないんです。彼らがそれを出していれば、あるいは開志国際にも勝っていたと思います。力はもっとあるんです。でもその力を出す前にいい加減さが出てしまう」

 大量に噴き出す汗を拭いながら、常田コーチはそう言っていた。

 学年に関わらず、努力した選手にチャンスを与えるのは指導者として当然のことである。もちろん、そこに自身の反省点も含みながら、常田コーチはウインターカップまでの数カ月を本気でチームの改革に乗り出すつもりだ。

 3年生たち、変わるなら今しかない。

文=三上太

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