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『B MY HERO!』
「今日は澤田がいまいちでしたけど、明日からは復活してくれると思います」
開志国際高校(新潟県)を率いる富樫英樹コーチのこの“予言”が、見事に的中したような試合だった。
7月29日に高松市総合体育館で行われた「令和4年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の男子3回戦、開志国際は東海大学付属諏訪高校(長野県)に75-68で競り勝って準々決勝進出を決めた。好カードと目されていた一戦は、試合が進むに連れてゴール下での肉弾戦や球際のせめぎ合いが一層熱を帯び、期待どおりの白熱した展開。それでも開志国際は、第1クォーターで得た7点リードを最後まで守り抜き、追いすがる相手を振り切った。
この日、殊勲の活躍で勝利へ導いたのは、2年生の澤田竜馬だ。167センチの先発ポイントガードは3ポイントシュート5本を含むチーム最多の19得点をマークした。
今大会の初戦となった九州学院高校(熊本県)戦では、冒頭の富樫コーチの言葉にもあるように本人としても満足のいくものではなかった。「個人的には出だしが良くなくて、自分が得意とする3ポイントもあまり入らなかったです。ガードとしても、もっと自分から仕掛けて相手のゾーンディフェンスを崩すべきでした」と、3ポイントも5本中1本の成功に終わり、自身の得点は「3」。「ガードとして一番やっていけないのはターンオーバー」と常に心がけていながらも、4つのターンオーバーを犯してしまった。
しかし、「気持ちの切り替えが大事だと思っていたので、昨日の試合が終わってからは悩むのをやめました」と澤田。東海大諏訪との試合では迷いを捨てた。
相手には澤田と同様、攻撃を得意とする髙山鈴琉、石口直(ともに3年)のニ枚看板と言えるガードがいたが、開志国際の司令塔は彼らに引けを取らない堂々したプレーで試合をコントロール。39分45秒とほぼフル出場ながら1つのターンオーバーにとどめ、アシストは「5」を記録した。前半最後の攻撃ではトップの位置から1人、2人、3人とキレキレのドリブルで相手を置き去りにし、ゴール下に辿り着いた時にはフリーの状態。最後は落ち着いてレイアップを沈め、会場をどよめかせた。
圧巻だったのは10点リードで迎えた第4クォーター。開志国際は立ち上がりから連続得点を奪われ、一気に点差を詰め寄られた。残り約8分を残して55-51。しかし、直後に澤田は迷わず長距離砲を撃ち抜いて負けん気の強さを見せると、3本連続で3ポイントを沈めた。このビックプレーでチームは落ち着きと勢いを取り戻し、最後はベンチメンバーをコートに立たせることができた。
試合後、「昨日の試合は入らなかったですけど、シュートタッチ自体は悪くなかった。練習中は入っていたので『自信を持って打て』と言いました」と富樫コーチが話せば、澤田も安堵の表情を浮かべながら自身のプレーを振り返った。
「『思い切り打て』と言われていました。マークが空いていたので、自信を持って打ちました。昨日は迷いながら打ってしまいましたが、今日は落ち着いて打てたと思います」
入学当初はケガで出遅れたが、澤田は「167センチですけど得点が取れる選手。あとは意外と度胸がある」と富樫コーチから評価を受けてきたポイントガードだ。昨年は1年生ながらインターハイとウインターカップでも先発を担っており、学年が上がった今年は「3年生に対してもやってほしいプレーがあれば、遠慮せずに伝えるようにしています」と、さらにコミュニケーション能力を磨いていると澤田は言う。
開志国際はエースを担う介川アンソニー翔、U17日本代表の武藤俊太朗を筆頭に、センターには205センチのバシール ファイサル モハメッド(いずれも3年)、さらにはスーパールーキーの平良宗龍と、スターティングメンバーには豪華な顔ぶれが名を連ねる。彼ら4人に比べれば、澤田は目立つプレーヤーではないかもしれない。だが、彼らをコート上でまとめているのは紛れもなく澤田である。富樫コーチもたくましくなった背番号10を手放しで讃えた。
「去年から見違えるくらい成長しています。1年生たちが入ってきて、奮起したんじゃないですかね。本当に彼の成長がチームを救っています。それは間違いないです」
文=小沼克年