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冬に向けての課題は“経験不足の解消”…「日本一を目指してこれからも練習していきたい」

6人の選手に指示を送る和歌山南陵の和中コート [写真]=佐々木啓次
バスケットボールキング編集部

 8月5日、福岡県福岡市で開催されている「令和6年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」は2日目を迎えて男子2回戦が行われ、シード校も登場するとあって、メイン会場となった福岡市総合体育館(照葉積水ハウスアリーナ)には立ち見が出るなど、ファンの熱気がアリーナを包んだ。

 第3試合に登場したのが6人で予選を勝ち抜いてインターハイにコマを進めたことで話題になっている和歌山南陵高校(和歌山県)。1回戦では全国制覇の実績を持つ九州の強豪、延岡学園高校(宮崎県)を75−67で破り、さらに注目を集めていた。

 迎えた2回戦の相手は関東王者でシードチームである八王子学園八王子高校(東京都)。1回戦を終えたあと、キャプテンの二宮有志(3年)は、「相手のペースにならないように」と、八王子学園戦への展望を語っていた。それは基本的にスローなテンポで戦うスタイルであり、スタミナの消耗を抑える“急がないバスケ”だ。

 しかし、対戦相手は1回戦で戦った延岡学園同様、インターハイの優勝経験があり、全国の舞台で幾度となく上位進出を果たした強豪校だ。和歌山南陵のスタイルなどお構えなしに持ち前の高さとスピードを生かしたスタイルを前面に押し出してきた。

 U18日本代表の十返翔里や身長203センチのンジャイパプ ンデリ セクらのタレントがリングを目指して攻撃の手を緩めない。第1クォーターを11−25とリードを奪われた和歌山南陵は、第2クォーターで11−13とし相手の得点ペースを落とすことに成功したが、攻撃の手を緩めない八王子学園に54−96で敗れた。

 試合後、和歌山南陵の和中裕輔コーチは、「一言で言えば経験不足でしょうか。相手が激しいディフェンスを仕掛けてきたとき、それに対応できませんでした」と、振り返った。さらに「ただこういう経験は全国大会に出なければできないこと。ウインターカップに向けて課題が見つかりました」と前を向いた。

 キャプテンの二宮は、「試合を通して八王子の流れだったと思います」と振り返り、前日ポイントにあげた「自分たちのペースで」は遂行できなかったと明かした。「相手に飲まれてしまいました。でも最後まで諦めずでみんなで頑張れたことはウインターカップにつながると思いますし、大会自体はとても楽しかったと思っています」と笑顔を見せた。

「相手に飲まれてしまった」と語った二宮有志 [写真]=佐々木啓次


 様々な環境下でインターハイやウインターカップなどの全国大会出場を目標にする部活生はいるだろう。しかし、学校の経営難や生徒募集ストップという前代未聞の事態の中、6名の3年生が部活を続けてつかんだインターハイの舞台だ。“普通”の高校生であれば、おおよそ経験しなくてもいい事態の中、日々の生活を送っている。それだけ厳しい環境に置かれているからなのか、選手たちの表情にはどこか大人びたものを感じた。

 それを和中コーチに問うと「皆さんの前に出たときはそのように感じられるかもしれませんが、学校に戻ればやんちゃ面を見せてくれますし、かわいいところもあります」と話してくれた。「メンタル的に強いかもしれませんが、それはバスケに対してもののではないです。今後は勝つためのメンタルが足りないので、それも課題の一つですね」と答えてくれた。

 ベンチの端までギリギリにテレビカメラが寄ったり、タイムアウト中の会話にマイクが向けられたりと、ちょっとやりすぎではないかと思えるほど和歌山南陵への報道も熱を帯びる。それでなくても周囲の目はプレッシャーになるのではないか。普通の高校生であれば経験しなくてもいいことだと言える。

 しかし、二宮は「もう慣れてしまったかもしれませんね」とちょっと時間を置いて答えてくれた。そして「でもみんなで話しているのは背負い過ぎないようにしようということ。これは6人の共通認識です」と、自分たちで対処の仕方を学んだようだ。

 取材の最後に3年生として最後の全国の舞台となるウインターカップに向けての目標を二宮に聞いた。

「高校3年間の集大成の大会となるので、日本一を目指してこれからも練習していきたいです」

 学校の経営母体が変わり、状況は少しずついい方向に向かっているという。6人の高校生がただただ純粋にバスケに打ち込める日が遠くないことを願いばかりだ。

文=入江美紀雄

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