2022.08.15

ホーバスHCの評価を上げる井上宗一郎「眼前の目標を1個ずつ潰していく」

試合を重ねるごとに評価を高める井上 [写真]=伊藤 大允
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、20219ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 14日、「FIBA ワールドカップ2023 アジア地区予選 Window4」へ向けたイランとの強化試合、「SoftBank カップ 2022」の最終第2戦に臨んだ日本代表は、80-58で勝利し連勝で大会を終えた。

 ワールドカップアジア地区予選のWindow3から選出されている井上宗一郎サンロッカーズ渋谷)が、前日に続いてこの試合でも先発出場を果たし、また経験値を上げた。

 最注目の若手が河村勇輝横浜ビー・コルセアーズ)であることに異論はないと思われるが、井上は中学、高校時代から全国的な知名度を得てきたと言える。世田谷区立梅丘中学、福岡大学附属大濠高校、筑波大学とバスケエリートを歩んできたが、それでも代表で先発を務めると想像できた人がどれくらいいただろうか。

 井上は、特別指定の時も含めてBリーグで3シーズンを送って、出場は計43試合。先発は一度もない。1試合の平均出場時間も5.9分でしかない。6月のディベロップメントキャンプに招集された際、井上曰くホーバスHCからも「どういう選手か知らないからどんどんアピールして」と言われている。

 そんな201センチの若手ビッグマンが今、日本代表という場所で光を放ちつつあるのだ。

「自分もまだ若手の部類に入るわけだし、そんなに経験がないというのは(ホーバスHCも)わかってくれていると思います」

 2試合連続の先発出場と平均約30分の出場時間は同指揮官からの期待の高さの表れだ。それに対して気負うことはなかったかと問われた23歳の井上は朴訥と、しかし気持ちのこもった口ぶりでそう答えた。

「チャレンジ精神というか、ベテラン勢みたいに落ち着いてやるわけじゃなくて、ミスもあると思うんですけども、もっとガツガツやっていこうっていう気持ちでは臨んでいました」

 井上が今の立場にある大きな理由の一つは、3ポイントシュートの力量の高さにある。彼の名前を見る者の脳裏に刻むこととなった7月のアジアカップでは、50パーセントの成功率を残した。

「ファイブアウト」のオフェンスを敷き、コートに立つ全員に3ポイントが打てることを求めるホーバスHCのスタイルでは「空いたら打つ」が合言葉だが、大きくステップを踏んだり、膝を曲げることなく素早くシュートへ移行できる技術を生かしながら、ボールをもらえば躊躇なくそれを放つ。

 イランとの強化試合では2試合で3ポイントの成功率は25パーセント(12分の3)と低調で、井上本人も「タッチは良くなかった」と振り返ったものの、「何本連続で外していても最近はそんなに焦らないようにと自分で心がけています」と続けた。

「マイケル・ジョーダン(元シカゴ・ブルズほか)が言うじゃないですか。『(シュートを)外しても次の1本が入ったらそこから連続で決まるかもしれない』みたいな。本当にそうだと思いますし、それができたら大丈夫だと思って打ち続けているので、そんなに迷いなどはないです」(井上)

 最初にどういう選手か「知らない」と言われたホーバスHCからの評価も、上昇を続ける。その理由も井上の3ポイントの力量によるものだけではなく、アジアカップなどを経て経験を積むにつれて向上してきたディフェンス力によるところもある。

「アジアカップに行く前の井上は、脚は動かないし手も使えなかったけど、今日は相手のスイッチディフェンスをされた時に相手の一番上手な選手を相手に素晴らしいディフェンスを何度もやって、本当に良くなりました」

 13日のイランとの試合後、ホーバスHCはこうコメントしているが、その話しぶりからは真に井上の成長に感嘆しているところがうかがえた。

 しかし、井上自身はそんな指揮官の言葉を知らされて「褒めてくれるのはうれしいですけど」と、浮かれる様子はない。

「できていると言っても、ほんのちょっとのところだけなので。全体で見たらミスも多いし、できていないところのほうがまだまだ多いので。褒めてもらえることは嬉しいですが、できていないところにフォーカスしていきたいなと自分では思っています」

 13日の試合の後には「50点くらい」と慎重な自己評価を自身に与えた井上。14日の試合後には「今日も昨日も、もっとリバウンドに絡めていたらチームももうちょっと楽になっていたのかなという気はしているので、そういうところが課題だと思っています」と冷静に自身の現状を分析した。

 それでも、井上への期待感は高まる一方だ。1年後にあるワールドカップ本戦のロスターにこの男が名を連ねる可能性もあるのではないか、と思うのは早計なのだろうか。

 少なくとも、井上当人にとっては気が早すぎるということになる。彼にとってトライアウトはまだまだ序盤の段階であり「眼の前の目標を1個ずつ潰して」いく段階にすぎない。

 彼が目下のところ集中しているのはテヘランでのイラン戦(現地25日)と、30日に沖縄で行われるカザフスタン戦で、さらに成長した姿を披露することだ。

井上の存在感は代表の中でも大きくなっている [写真]=伊藤 大允


取材・文=永塚和志

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