2023.10.01

宿敵韓国に会心の勝利、D組1位で準々決勝に進出…「ほぼ完璧に作戦を遂行してくれた」とコーリーHC

韓国線勝利に喜びを爆発させる男子日本代表 [写真]=小永吉陽子
スポーツライター。『月刊バスケットボール』『HOOP』編集部を経て、2002年よりフリーランスの記者に。国内だけでなく、取材フィールドは海外もカバー。日本代表・Bリーグ・Wリーグ・大学生・高校生・中学生などジャンルを問わずバスケットボールの現場を駆け回る。

■予選ラウンドの大一番で勝利

 アジア競技大会男子予選ラウンド3戦目は韓国との一戦。勝ったほうかグループ1位となる重要な決戦は、韓国に一度も逆転されることなく83−77で勝利。予選ラウンド全勝を飾り、準々決勝へと駒を進めた。

 日本はインドネシア戦で負傷したセンターの平岩玄アルバルク東京)をロスターから外し、その平岩の代わりにスタメンに入った佐藤卓磨名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)がチェンジングディフェンスの要となって奮闘。得点では今村佳太琉球ゴールデンキングス)を主体に3ポイントを重ねて出足で13-0と先行。この先制パンチが最後まで効いた。

 リバウンドで奮闘した佐藤は「韓国を最初から乗らせたらいけないので、出足からディフェンスとリバウンドを頑張ることが重要でした」と語り、得点源となった今村は「僕らの考えでは韓国は格上と見ていたので、その相手にアグレッシブさをなくしてしまうと最初の5分で試合が決まってしまうので、出足から全員で共通意識を持ってアタックしました」と試合の入り方を特に重要視していたことを明かす。

 対して韓国は開始早々にエースガードのホ・フンが打撲のアクシデントを負う重い立ち上がりから試合がスタート。前半は動きに切れがないまま散漫なディフェンスで試合が進み、日本のノーマークを作り出す動きの前に後手に回っていた。シュートタッチが冴えていた今村はこう話す。

「今日で3試合目ですが、試合をすればするほどスクリーンの精度が上がってきています。自分が3ポイントを打つフォーメーションでは、いいスクリーンからオープンが作れたので、いいタイミングで気持ちよくシュートが打てました」

今村は22得点をマーク [写真]=小永吉陽子


 日本の3ポイントは前半だけで11/25本(44パーセント)という高確率。内訳は今村の3本を筆頭に、赤穂雷太熊谷航(ともに秋田ノーザンハピネッツ)、西野曜横浜ビー・コルセアーズ)、佐藤、市川真人ベルテックス静岡)、川島悠翔(NBAグローバルアカデミー)、細川一輝三遠ネオフェニックス)、米山ジャバ偉生富山グラウジーズ)が各1本ずつ決め、コートに送り出された選手たちが次々と仕事をやってのけた。

 前半を43-37と6点リードで折り返した日本は、後半に何度も韓国の反撃にあい、第3クォーターには同点、第4クォーターには1点差に迫られるが、そのたびにオフェンスリバウンドやこぼれ球に跳びつき、3ポイントにつなげる粘りを見せて83-77で勝利。最終的には3ポイントが17/41本の成功で41パーセントを記録。これはトム・ホーバスHCが求める日本のスタイルができたことを示している。

■なぜ格上相手に勝てたのか?

 今村が「格上」と語っていたように、日本にとっては会心の勝利を収めたといえるだろう。韓国側からの情報で言えば、大会前に攻守ともに要となっていた195センチオーバーの選手を故障で2名欠き、さらに希望していた選手を数名負傷で招集できなかったことから、ガードの選手を補強。そのため、「大型フォワード主体のバスケから、ガード主体のバスケにスタイルを変更した」(韓国代表チュ・イルスンヘッドコーチ)と大会前に語っており、懸念を抱えていたことは事実である。

 ただ、それでも個々の顔ぶれを見れば、大学生1名を除く招集された11名はKBLでトップの技量を持つ選手たちであり、7月の日韓戦当時から「アジア大会で金メダル」を公言していたのだから、日本に敗れた衝撃は大きいと言える。

 では、逆にそんな格上相手になぜ日本が勝利できたのだろうか。それは、韓国が個々に技量がある選手だったとしても、チームとしては機能していなかったからである。韓国にとってみれば、日本のメンバーは「ワールドカップに出ていない格下メンバー」と刷り込まれており、予想外の日本の選手たちが、予想外の攻防を遂行したことに、対応できなかったのだ。コーリー・ゲインズHCは試合後「選手たちがオフェンスでもディフェンスでも計画したことをほぼ完璧に遂行してくれた」と褒めたたえるほどの出来だった。

 遂行力の一番手にあげられるのが、韓国の帰化選手でインサイドのラ・ゴナを物量作戦と足を使った機動力で封じたことだ。韓国にとっては、インサイドで主導権を握ってアウトサイドに波及する攻撃が作れなかったことは誤算だったはずだ。

川島の3ポイントシュートも勝利を引き寄せた [写真]=小永吉陽子


 またもう一つの誤算は日本の3ポイント。日本が3ポイント主体の攻撃であることは想定内であっても、出てくる選手が次々と決めたことは想定外だったことだろう。チュHCは「日本が3ポイントでくることはわかっていたが、ビッグマンが外に出たときの3ポイントにやられ、全体的にきめ細かな対応ができなかった」と敗因を語っている。それを象徴するシーンは、第3クォーターに市川が連続で3ポイントを決めた場面であり、終盤に齋藤拓実(名古屋Dを)が2本のディープスリーを打つことで、ディフェンスを乱れさせたことにも表われていた。

「きめ細かな対応」という言葉に現れているように、この試合に限っていえば、韓国は本当に無策だった。強い時の韓国は、オールコートでハードに当たってくるがそれもなく、得意のチェンジングディフェンスも準備されていなかった。日本の3ポイントがいつか落ちると思っていたのか、あまりにも散漫なディフェンスだった。日本からしてみれば、「韓国はフラストレーションを溜めていっているように見えた」(市川)、「困らせることができたと思う」(齋藤)と相手を機能させずに自滅させたことが勝因だ。チームとしても、個々としても成長していることを示した会心の試合だった。

■準々決勝で中国との対戦を回避

 この試合に勝った意味は非常に大きい。負ければ、準々決勝で中国と対戦する可能性が高いからだ。だが日本としては「相手のことよりも、自分たちのやるべきことにフォーカスしている」とゲインズHCは語る。「私たちはワールドカップに出たチームと同様に、自分たちの良さを最大限に引き出すバスケを試みている。それを発揮してチャレンジするだけだ」と今後の展望を示した。キャプテンの齋藤も大一番を制したことを自信にしていた。

ゲインズHCは「ほぼ完璧に遂行してくれた」と選手たちを褒めたたえた [写真]=小永吉陽子


「僕たちはサイズが小さいから、3ポイントを武器にしなければならず、そうしないとペイントも攻められない。オフェンスでは自信を持って打ち、ディフェンスではチェンジングしながらやったことがうまくいき、相手を困らせたことで、いいスタートダッシュができたことが勝因だと思います。若いチームなのでカタール戦もインドネシア戦も悪い時間帯はあったけれど、この2試合で学んだことはとても多くて、その学びを韓国戦に出せたと思います。まだ予選ラウンドが終わっただけで大会は続くので、これからもチャレンジしていきます」(齋藤)と先を見据えた。

 日本の次戦は10月3日、B組2位とA組3位の勝者と準々決勝を戦う。

文・写真=小永吉陽子

BASKETBALLKING VIDEO