2019.03.27

車いすバスケットボールのアスリートとコンサルティングファームの新たな取り組み

大阪カップではアビームコンサルティングのコンサルタントがデータ収集・分析を行った
バスケットボールキングプロデューサー(事業責任者)。学生バスケをテーマにしたCM制作に携わったのがバスケに関する初仕事。広告宣伝・マーケティング業務のキャリアが一番長いが、スポーツを仕事にして15年。バスケどころの福岡県出身。

開催地決定のニュースが飛び込んだときには”まだまだ遠い未来の話”と思っていたが、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会までいよいよ500日を切った。陸上や、国内で人気の柔道、体操など普段からスポーツニュースで扱われるようなスポーツを除く、その他の競技にとって、認知度向上や理解の促進の格好のチャンスがオリンピック。ましてやこの機会が自国開催と言えば尚更だ。

そしてこれはオリンピックに留まらず、パラリンピックにも言えることで、大会本番に向けてテレビCMでもパラアスリートを活用した企画も多く、日常的に情報に触れる機会もこれまで以上に増えている。パラリンピックの中では認知度が高いとは言え、車いすバスケットボールもこの機会を最大化したい競技のひとつ。大会本番に向けた競技を知ってもらう機会も、真剣勝負の舞台も限られていることもあり、一つ一つのイベントをしっかりと活かしていきたい。

文=村上成

車いすバスケットボールへの支援が障がい者が暮らしやすい環境を生み出す

 2月15日から17日の3日間、丸善インテックアリーナ大阪で行われた『2019国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会』、通称大阪カップは、オランダ、イギリス、オーストラリアなど世界の強豪と真剣勝負を行う格好のチャンス。この大会で日本は世界ランク1位のオランダ、2位のイギリスに惜しくも敗れはしたものの、素晴らしい戦いを繰り広げた。あと一歩まで世界の強豪を追い詰めた原動力となったのが全試合でスターティング5となった萩野真世(宮城MAX/SCRATCH)だと言えよう。この大会、萩野は持ち点が1.5点のローポインター(4.5点までクラス分けされる障がいに応じた持ち点が2.0以下の選手。障がいが重い方が、持ち点は小さい)でありながら、フルタイムに近い出場時間を得ると、ディフェンスにオフェンスにと八面六臂の大活躍を演じた。

 萩野は昨年の7月まで仙台市の会社に勤務し、所属する宮城MAXで練習を重ねていた。しかし、競技に打ち込める環境を求めて、日本オリンピック委員会の就職支援制度「アスナビ」を通じて、同年8月に経営コンサルティングを主業とするアビームコンサルティングに入社した。萩野は大阪カップ期間中の取材に応じ、環境の変化を求めたことについて「(アビームコンサルティング)入社前は週5日のフルタイムで働きつつ、日本代表としてもプレーしていましたが、自分が大会参加などで(業務を)抜けてしまう期間が多くなります」と仕事と日本代表の二足の草鞋を履く苦悩を口にした。さらに、「今の会社はアスリートとして代表での活動を優先しながらも、中長期的な社会人としてのキャリア形成にも取り組んでいける環境があり、これまで以上に競技に専念できると思います」と笑顔で語る。集中して練習時間をとれるようになったことで、日本代表としてこれからさらにレベルアップしていける環境を手に入れたことが、この大阪カップでも見せた素晴らしいパフォーマンスにもつながっている。

 一方アスナビ制度で萩野を採用したアビームコンサルティングも、アスリートを支援するに留まらず、萩野の採用をきっかけに車いすバスケットボールのサポートに本格的に乗り出した。

 アビームコンサルティングは4年前にスポーツ、エンターテインメント業界の知見をもつコンサルタントを集めた部署を立ち上げ、サッカー、フットサル、ヨット、モータースポーツなどの主催団体やチーム、選手に対しコンサルティングサービスを提供している。スポーツのコンサルティングは一般的にイメージが湧きにくいが、簡単に言うと、経営面などのスポーツビジネスという側面に加え、競技面においてはデジタルテクノロジーなどの数字、データの分析を行うアスリートのパフォーマンスの底上げに貢献しているという。

 アビームコンサルティングP&T Digitalビジネスユニットダイレクター竹井昭人氏は、社内で車いすバスケットボールをコンサルティングするという方向性を決める過程について「まず実際に萩野さんと話してみたんですよ」と本人の意向を確認しながらのスタートであったことを明かす。その上で、竹井氏がモータースポーツを支援する際に感じていた車いすバスケットボールとの類似点について萩野にも意見を求めたと言う。「競技用語、使う言葉がすごくモータースポーツと似ていると感じました。例えばタイヤのキャンバーの角度、タイヤの内圧がどうこうとか」と笑顔を見せた。

 一方で「とはいえ、モータースポーツと比較しても、より選手自身がフィジカルを使うところもありましたし、難しさも感じてはいました」と当初の不安も明かした。最後は「車オンリーというだけではなく、マシンとアスリートの肉体という掛け算になる部分を分析するという意味では、とても興味がありましたし、やりがいを感じていました」と、その当時の想いを語る。この熱意が通じたのか、新たな挑戦として社内でも実施の承認が下りたという。

 竹井氏は「車ベースでお話をすると、速く走るための分析というのは裏を返せば、安全に走るための分析であり、燃費を良くするための分析とも言えます」と語ると、続けて「ちょっと角度を変えて考えてみるとそれは、例えば保険会社とアライアンスを組むことで、長距離バスの事故防止のための社会貢献活動に応用することも可能になります」と視点の切り替えについて述べる。そして「車いすバスケットボールの延長線上にも、障がいを持つ方々がより良く暮らせるようなデータ活用にはつながっていくのではないかと思っています」と、アビームコンサルティングが踏み込んだ新しい領域へのコンサルテーションの意義を語った。

「車いすバスケットボールの延長線上にも、障がいを持つ方々がより良く暮らせるようなデータ活用にはつながっていくのでは」と竹井氏は語る

 再び支援を受ける側の萩野の話に戻ろう。萩野は、競技での頑張りを仕事に活かせますかとの問いに対し「今は競技に専念できる環境の中で、車いすバスケットボールで会社に貢献したいと考えています。まずは会社のみなさんにもバスケをしている姿を見て興味を持っていただき、さらに社会に貢献できるような人材になっていきたいです」とトップレベルのパラアスリートだからこその貢献を誓う。その萩野を支えるアビームコンサルティングは個人に留まらず、競技全体の支援そしてその先にある更にノーマライゼーション(障がいをもつ者ともたない者とが平等に生活する社会を実現させる考え方)の発達した社会作りを目指している。支える側と支えられる側の幸せな関係が、スポーツを超えてより良い社会を作るという同じベクトルに向かうのは、大変意義のあることだ。CSR(企業としての社会的責任)の一環として、広告塔としてという役割以上の価値と期待を相乗効果で高めあうアスリートとサポートパートナー。今後も萩野とアビームコンサルティングというお互いを高めあう幸せな二人三脚に注目したい。