2022.09.14

日本が成長の階段を昇り続けた予選リーグ/車いすバスケ男子U23世界選手権

“死のグループ”を4勝1敗で勝ち上がり、準々決勝に駒を進めた [写真]=斎藤寿子
フリーライター

 9月7日、タイ・プーケットで車いすバスケットボール男子U23世界選手権が開幕し、出場12カ国が2つのグループに分かれての予選リーグが行われた。東京2020パラリンピックで銀メダル獲得に導いた京谷和幸HCが指揮する男子U23日本代表は初戦から4連勝を飾るも、予選最終戦のスペインに敗れた。その結果、4勝1敗でスペイン、トルコと並び、3チームがそれぞれ対戦した2試合の得失点差により、3位での予選通過となった。これはトップ通過、最低でも2位通過を狙っていたチームにとっては悔しい結果だ。それでも全5試合それぞれでチームが成長する姿があった。その予選リーグを振り返りたい。

救世主となった2人のシックスマン

オフェンスでチームに流れを呼び込んだ古崎倫太朗 [写真]=斎藤寿子

 鳥海連志、赤石竜我、髙柗義伸と3人の東京パラリンピックメンバーに加えて、今年度の強化指定選手に選出されている宮本涼平というA代表クラスの選手たちを擁したU23日本代表。彼らが目指すのは、日本の車いすバスケットボール界では男女あわせて全カテゴリーにおける史上初の金メダルだ。

 その初陣となったトルコとの予選リーグ初戦では、鳥海が19得点13リバウンド12アシストのトリプルダブルを達成。髙柗はいずれもチーム最多の26得点16リバウンドでダブルダブルを達成した。

 一方、この試合で忘れてならないのが、2人の“シックスマン”の存在だ。第1クォーター、開始3分半で2-12と大きくビハインドを背負った中で古崎倫太朗と伊藤明伸が投入された。まず一つは、ディフェンス。スピードを持ち味とする2人が入ったことにより、日本はハーフコートのディフェンスからオールコートのプレスディフェンスへと切り替えた。

 すると流れが一気に好転した。相手の得点が止まり、ディフェンスでリズムをつかんだ日本は、オフェンスでも得点が生まれ始めた。こうした流れをつくった要因の一つが、伊藤のプレーにあった。クラス1.5で小柄なローポインターの伊藤が、トルコのビッグマンたちに攻防に渡って果敢にピックをかけて思うようなプレーをさせなかったのだ。

 そしてオフェンスで存在感を示したのは、古崎だった。「(外れた)1本目で調整した」という古崎は、第1クォーターの終盤から第2クォーターの序盤に高確率でミドルシュートを決め、逆転へと導いた。

 2人の“シックスマン”の活躍で流れを引き寄せた日本は、第2クォーターの前半で逆転したあと一度もリードを許さなかった。逆にトルコは苛立ちを募らせてミスを連発して自滅していった。こうした相手の特徴を熟知していた日本は、淡々と自分たちのバスケを遂行することに集中。最後は突き放す形で69-54と逆転勝ちを収め、白星発進した。

シューターとして開花した赤石

アウトサイドシュートを磨いてきたという赤石竜我 [写真]=斎藤寿子

 第2戦のフランス戦で新たな存在価値を見出し、勝利の立役者となったのが赤石だ。赤石と言えば、守備の要として絶大なる信頼を寄せられている選手だ。しかし東京パラリンピック以降、より注力して磨いてきたのがアウトサイドシュート。それをフランス戦では遺憾なく発揮し、チーム最多の17得点を叩き出した。

 特に大きかったのは、相手の猛追に遭った後半。33-22と2ケタ差で試合を折り返したものの、第3クォーターの前半で一気に追い上げられて36-36とされてしまう。この苦しい状況からチームを救ったのが、赤石だった。彼の連続シュートで40-38とリードした状態で第3クォーターを終えると、続く第4クォーターには開始早々に3ポイントシュートを炸裂。さらにミドルシュートも決めて、一気に突き放した。これで主導権を握った日本は、57-47で快勝した。

 赤石は、第3、4戦でもチーム最多得点をマーク。それぞれ17得点、13得点を挙げた。これまで公式戦での最多得点は、2019年アジアオセアニアチャンピオンシップス3位決定戦での9得点。今大会がシューターとして大きなターニングポイントとなるに違いない。

 カナダとの第3戦では、今大会初めて12人全員が出場。今大会が公式戦では国際大会デビューの選手たちにも初得点が生まれ、チームは勢いに乗った。なかでもチーム最年少の18歳、現役高校生の渡辺将斗のシュートが決まった瞬間にはベンチから大歓声が上がるなど、チームの雰囲気の良さがわかる一戦でもあった。

第4、5戦で伸び悩んだ得点力

指揮官はオフェンスでの課題を口にした [写真]=斎藤寿子

 一方、ブラジルと対戦した第4戦は、我慢の時間帯が続く苦しい試合となった。実力からすれば引き離す試合展開になってもおかしくはなかったはずだったが、日本のシュートがリングに嫌われ、得点が伸びなかったのだ。フィールドゴール成功率は、わずか28パーセントにとどまった。

 それでも51-45で勝利を収めた。勝因は、ディフェンスに尽きた。特に第4クォーターで一貫してやり続けたプレスディフェンスは、日本の強さを象徴していた。今大会出場12チーム中、ダントツでトップレベルにあるスピードとクイックネスを活かしたプレスで、ファウルやターンオーバーなどミスを誘う形で相手の攻撃の芽をつんだ。まさに「ディフェンスで世界に勝つ」を体現した一戦だった。

 ただ試合後の京谷HCの表情は険しかった。ディフェンスに対しては「得点が伸びない中でも、集中力を切らさずに粘り強くやり続けたということに関しては合格点を与えたい」としながらも、「今日はなんとかディフェンスで凌ぎ切ったが、こんなことは何度も続かない。オフェンスは水物とはいえ、これだけ得点が伸びない状態が続けばメダルは難しいと言わざるを得ない」と厳しい言葉を口にした。それだけ指揮官がチームに寄せる期待は大きく、実力があると踏んでいる証拠でもある。

 しかし、予選リーグ最終戦のスペイン戦では京谷HCの予想が的中した形となった。またも第1クォーターから日本のフィールドゴール成功率は23パーセントと伸び悩んだ。一方、スペインは50パーセント。特にエースのイグナシオ・オルテガが60パーセントの高確率で、わずか10分で12得点を叩き出していた。結局、この試合のシュート本数は両チームともに71本。そのうち45パーセントを成功させたスペインに対し、日本は30パーセント。52-71で今大会初黒星を喫した。

 だが、ただ負けたわけではない。今大会で課題としてきたハーフコートのディフェンスに関しては、3人のビッグマンを擁するスペインに対して効果を発揮していた時間帯も少なくなかったのだ。ハーフコートのディフェンスで失点を重ね、その悪い流れをオールコートのプレスディフェンスで断ち切るということが多かった中、スペイン戦ではハーフコートで守り切って得点につなげるというシーンが多く見られた。試合を重ねるごとに5人の“合わせ”がフィットしてきたに違いない。

日本のバスケットで史上初の快挙へ

 日本は、同じグループAのスペイン、トルコと4勝1敗で並んだ。大会の規程により、3チーム同士がそれぞれ対戦した2試合の得失点差で順位が決定。日本はスペインに負けても14点以内であればトップ通過、15点から18点差なら2位だった。しかし19点差で敗れたため、トルコに1点届かず3位に。14日の準々決勝では、グループBで2位となったイスラエルと対戦する。

 イスラエルはグループBの中でも最も強豪とされるチームで、厳しい試合になることは必至だ。自分たちのバスケットをするためには、まずはディフェンスでリズムをつくれるかがカギを握る。そのうえで武器である速いトランジションからオフェンスへと転じ、ゴールに積極的に向かう姿勢を崩すことなく、取りこぼしのない攻撃をできるかが重要となる。

 3位通過とはいえ、“死のグループ”を4勝1敗で勝ち上がった日本の実力は、金メダル候補に値する。まずは準々決勝でその実力を遺憾なく発揮し、メダルゲームへと進みたい。

金メダルを目指して決勝トーナメントに挑む [写真]=斎藤寿子

取材・文・写真=斎藤寿子