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5月21日、ドイツでは車いすバスケットボールのブンデスリーガ(1部)プレーオフファイナル第2戦が行われ、東京パラリンピックで銀メダルを獲得した香西宏昭、藤本怜央が所属するRSVランディルが、RSBテューリンギア・ブルズに64-63で競り勝った。第1戦に続いて連勝としたランディルは、5シーズンぶりに宿敵から王座を奪還。香西、藤本にとってはともに初のリーグ優勝となった。
まさに因縁のライバル同士の戦いにふさわしい激闘が繰り広げられた。
第1戦と同じく、この日も香西、藤本、ブライアン・ベル(アメリカ)、サイモン・ブラウン(イギリス)に、女子のカタリナ・ヴァイス(ドイツ)という守備力の高いラインナップでスタートしたランディル。そのディフェンスはやはり強固で、最も警戒しなければならなかったブルズのハイポインター2人にインサイドで全く仕事をさせなかった。
しかし、ランディルもシュートシチュエーションをつくることはできていたものの、フィニッシュを決めることができず、得点が伸びなかった。フィールドゴール成功率は、ブルズが16パーセントに対し、ランディルも21パーセント。第1クォーターは9-10と想定外のロースコアとなった。
この展開は、どちらかと言えば、ディフェンス重視のランディルのペースと言って良かっただろう。だが、第2クォーター以降、ブルズは高さではなくスピードで対抗。トランジションの速さを武器に、ランディルのディフェンスを崩してきた。さらに試合が進むにつれて、エースのアレクサンダー・ハロースキー(ドイツ)が調子を上げてきていた。第2クォーターの終了間際に連続でミドルシュートを決めると、第3クォーターでは開始早々に連続で3ポイントシュートを炸裂。このエースの働きに呼応するかのように、他の選手にも得点が生まれたブルズは、じりじりとランディルを引き離し、残り3分40秒の時点で、この試合最大となる16点の差が開いていた。
大敗を喫したユーロチャンピオンズカップを彷彿させるかのような混沌とした状態を落ち着かせたのが、一度ベンチに下がっていた香西とブラウンだった。ゲームコントロールに長けた2人の投入によって、相手に合わせるのではなく、自分たちのバスケットを取り戻したことが大きかった。さらにこの試合ではチームで最も当たっていた香西が、残り1分半で3本のシュートを決めて猛追。ランディルは、42-49と1ケタ差とした。
迎えた最終クォーター、序盤にトーマス・ベーメー(ドイツ)、香西と立て続けに3ポイントシュートが決まり、一気に流れを引き寄せたランディルは、序盤に1点差に詰め寄った。そこからは一進一退の攻防が続き、残り3分、ついに同点に。さらにその30秒後にはベーメーの3ポイントシュートで逆転した。しかし、ブルズも簡単には引き下がらない。残り5.2秒で、同点シュートを決めた。
最後はファウルゲームをしかけてきたブルズ。ようやく5つ目のチームファウルを数えた時には、残り1.8秒。ここでフリースローを得たベーメーが、1本目こそ落としたものの、2本目を決めてみせ、ランディルが1点をリードした。最後はブルズのヴァヒド・ゴーラマザド(イラン)がハーフライン付近から捨て身のシュートを放つも、そのボールはバックボードに当たって大きく跳ね返った。その瞬間、ランディルにとっては5シーズンぶり、香西と藤本にとってはそろって初めてのリーグ優勝が決まった。
2017-18シーズンにランディルに移籍して2シーズンを過ごし、今シーズンに再びチームにカムバックして今回で3回目のプレーオフファイナルだった香西。すでに退団を発表している彼にとっては、最後のチャンスだった。その優勝を決める大事な一戦で、チーム最多の24得点をマークし、攻防にわたって勝利に大きく貢献した香西は、次のように語った。
「全員が試合に出られたわけではなかったけれど、ベンチのメンバーもコート上の選手に声をかけてくれて、とても心強かったし、そういう意味ではチーム全員で勝ち取ったゲームだったと思います。個人的には最後のシーズンで優勝することができて、しかも1点差で勝つなんてちょっとできすぎかなぁと思いますが(笑)、なんとか一つ持って帰ることができるので良かったです」
一方、ランディルに移籍1年目で頂点に登りつめた藤本。これまではプレーオフセミファイナルまでが最高で、ファイナルは初めての経験だったが、第1戦ではチーム最多得点をマーク。第2戦は得点こそ8と伸びなかったが、リバウンドとアシストではチーム最多を誇るなど、しっかりとチームを支えた。その藤本は、初めてのファイナルを戦った感想を次のように述べた。
「相手のキーマンをきちんと止めるというディフェンスを40分間、チームのみんなでやり続けたからこその1点差での勝利だったと思います。移籍1年目から多くのプレータイムをもらえるとは思っていませんでしたが、こうやってチームに自分の存在を浸透させることができ、勝利に貢献できる場を与えてもらえたというのは、非常に価値のある、収穫の多いシーズンになりました」
東京2020パラリンピックが幕を閉じて、わずか2週間後に渡独し、世界最高レベルのブンデスリーガでプレーしてきた香西と藤本。彼らが東京からつなげてきたものの大きさは計り知れない。そして、頂点をつかむ経験をしたベテラン二人の存在は、日本の車いすバスケットボール界のさらなる追い風となるに違いない。
取材・文・写真=斎藤寿子