2022.05.11

3位決定戦で見えたリーグ王座奪還へのポイント~ユーロチャンピオンズカップ~

ドイツのRSV Lahn-Dillでプレーする藤本怜央(左)と香西宏昭(右) [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 5月6~8日の3日間にわたって、ドイツでは車いすバスケットボールのヨーロッパクラブ王者を決める「ユーロチャンピオンズカップ」が開催された。同大会にはドイツ、スペイン、イタリア、フランスからランキング上位の8チームが出場し、トーナメント方式で優勝が争われた。東京パラリンピックで銀メダルを獲得した香西宏昭と藤本怜央が所属するRSV Lahn-Dill(ドイツ)は、1回戦では勝利を挙げたが、準決勝、3位決定戦で敗れて4位。香西にとっては3年ぶり2回目、藤本にとっては初となるユーロの表彰台とはならなかった。

最後に勝ち切る術を見せつけられた準決勝

 BIDAIDEAK BILBAO(スペイン)との1回戦では、藤本がチーム最多、自身にとってもシーズンハイの27得点をマーク。香西も次いで23得点を叩き出し、勝利に大きく貢献。Lahn-Dillが86-69と快勝した。

 続くCD ILUNION(スペイン)との準決勝は、両チーム合わせて13人が東京パラリンピックの代表メンバーが揃ったハイレベルな一戦となった。第3クォーターまでは、アウトサイドのシュート力を持つイギリス代表の2人をロースコアに抑え、Lahn-Dillの狙い通りの展開に。しかし、フリースローの2得点と影を潜めていたエースのテリー・バイウォータ―(イギリス)が、第4クォーターに本領を発揮。3本の3Pシュートを含む13得点を挙げる活躍を見せた。

一方、香西や藤本のほか、アメリカ代表のブライアン・ベル、ドイツ代表のトミー・ベーメーと好シューターがそろうLahn-Dillも粘りを見せた。しかし、終盤にバイウォーターが効果的に連続得点を挙げたILUNIONが最後に流れを引き寄せ、83-77で勝利。Lahn-Dillは決勝へと駒を進めることはできなかった。

 試合後、藤本はこう語った。

「(バイウォータ―の)3Pで相手を乗せてしまったと思うので、今考えるとたとえインサイドをやられても、3Pを止めた方がよかったかなと思います。それくらい苦しい時間帯に決められたのは痛かったです」

 2018年世界選手権覇者でもあるイギリス代表のバイウォータ―。シュートの決定力の高さは、今も健在だ。

藤本は「苦しい時間帯に決められたのは痛かったです」と振り返った [写真]=斎藤寿子

第3クォーターにあった勝機の芽

 3位決定戦の相手は、奇しくも同じドイツのRSB Thuringia Bullsとなった。両チームは、毎年国内リーグで優勝を争う因縁のライバル。今シーズンも4月に行われたプレーオフセミファイナルを勝ち抜いて、すでにファイナルで激突することが決定している。その前哨戦ともいうべき試合に注目がおかれた。

 レギュラーシーズンは1勝1敗と五分に終わっている両チーム。いずれもヨーロッパのクラブでは随一と言っていいほど、トランジションが速い。今大会も試合開始早々からスピーディな展開が繰り広げられた。そうしたなか、Lahn-Dillのプレーは全く悪くはなかった。ディフェンスではミスマッチの状態でも決して簡単にはシュートを打たせてはおらず、オフェンスでもいい形でのシュートシチュエーションを作り出していたからだ。

 しかし、Lahn-Dillのシュートがことごとくリングに嫌われ、我慢の時間が続いた中、Bullsはタフショットをも決めていた。そのため内容とは裏腹に、スコアは徐々に広がりを見せていった。

 それでも試合の潮目が変わるタイミングはあった。なかでも第3クォーターは大きなチャンスに思えた。香西が前半の4分間で立て続けにシュートを決め、その時間帯のフィールドゴール成功率は80パーセントを誇っていたのだ。前日の準決勝から得点が伸び悩んでいた香西が、ついに復調し始めていたのは誰の目から見ても明らかだった。だからこそ香西の4本目のミドルシュートが決まった瞬間、まだ18点リードしていたにもかかわらず、Bullsがタイムアウトを取っている。一番乗せてはいけない彼の存在感が増し始めていることに、きっと脅威を抱いたに違いない。

復調を見せた香西のシュートで追い上げを見せた [写真]=斎藤寿子


 ところがこの後、香西はベンチに下げられてしまった。もちろん競技の世界に“たら・れば”は禁物だが、それでも香西があのまま出続けていたらどうなっていただろうかと思ってしまうのは筆者だけではなかっただろう。彼が試合の流れを変える力を持っていることは、これまで何度も証明されてきているからだ。Bullsもまた、香西がベンチに下げられたことに安堵したのではなかったか。結果的に終始、優位に試合を進めたBullsが75-51で圧勝した。

 この試合、サードラインナップともいうべき組合せの出番が少なかったことも物足りなさを感じた要因の一つだ。香西が入る先発ラインナップと、藤本が入るセカンドラインナップのハイブリッドでもあるサードラインナップは、香西と藤本、そしてブライアンという世界が誇るシューター3人がそろう。例えば第3クォーターで香西をベンチに下げずにブライアンとともに残し、そこに藤本を加えてサードラインナップで勝負しても面白かったように思う。

ライバルとの熾烈な争いに不可欠なものとは

 RSV Lahn-Dillの次なる目標は国内リーグのプレーオフファイナルで、ここでも対戦するのがBulls。いずれにしろ、当然に簡単に勝つことはできないことは容易に想像することができる。おそらく大差での勝利はないだろう。我慢の時間帯をチーム全員で乗り切り、いかに40分間で勝ち切ることができるかが最大のポイントとなるはずだ。逆に接戦に持ち込むことができれば、高さがない分、地道に粘り強く戦うことを身上としているLahn-Dillの方に分があると言っていい。だからこそ、重要なのはベンチメンバーも含んでのチームワークだろう。

 その点で気になったのは、ベンチメンバーだ。今大会の初戦のように優勢の場合は勇ましい声が出るが、劣勢になると一転、味方が得点をしても声も拍手もないというシーンが何度も見られた。特に香西と藤本がベンチを不在にした時は、まさにお通夜状態だ。
 
 強豪と言われるチームは、ベンチの雰囲気づくりもうまいことが多い。そして、日本では当然のように「ベンチでもやるべきことがある」という認識がある。それこそ日本代表では声が出ているのが常となっている。Lahn-Dillのベンチメンバーにも、そうした認識が欲しいところだ。

 15日に行われるプレーオフファイナルの第1戦は、Lahn-Dillにとって今シーズン最後のホーム戦となる。それこそ現在のメンバーで戦うことは、ホームのファンの前ではもう二度とない。チーム力で勝利を挙げ、アウェー戦となる第2戦以降に弾みを付けられるかが、優勝のカギを握る。我慢強く戦いながら試合中に訪れる勝機を逃すことなく、チーム全員で目標に向かっていくことができるか。

「ここまできたら、やってきたことを出せるかどうか。自分たちの力が試されている。相手がどうというよりも、自分たちが残り1、2週間をどう過ごしていくかが一番のポイントになってくると思います」と香西。Lahn-Dillnにとって5シーズンぶりの王座奪還、そして香西と藤本にとっては初のリーグタイトル獲得へのカウントダウンは、もう始まっている。

5シーズンぶりの国内リーグ制覇に藤本、香西の力が不可欠だ [写真]=斎藤寿子


取材・写真=斎藤寿子

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