4月15日(現地時間14日)から、計16チームによる今シーズンの王座を懸けた激闘、「NBAプレーオフ2018」が幕を開ける。そこでバスケットボールキングでは、プレーオフ出場チームやシリーズ勝敗予想に加え、これまでのプレーオフにおける名シーンや印象的なシリーズ、ゲームなども順次お届けしていく。
<プレーオフ特別企画⑦>
2000年代ベストアップセット
2007年ウエスタン・カンファレンス ファーストラウンド
ゴールデンステート・ウォリアーズ×ダラス・マーベリックス
シーズン終盤にピークを迎えたウォリアーズ
2002-03シーズンに、プレーオフのファーストラウンドが現行の4戦先勝制となった。それまでは3戦先勝で、下位シードのチームが上位シードに勝利するというアップセットがいくつもあったが、現行の4戦先勝では本当に強いチームが勝ち上がることができるシステムになったと言っていいだろう。
そんな中、2007年のプレーオフで現行体制では初となる、第8シードが第1シードを破るというアップセットが起こった。
06-07シーズン、リーグトップの67勝を挙げてウエストのトップシードとなったマブスは、意気揚々とプレーオフを迎えていた。前年のNBAファイナルで、マイアミ・ヒートに2連勝から屈辱の4連敗を食らって優勝を逃していたことが、最大のモチベーションとなっていたのである。
対するウォリアーズは、94年以来のプレーオフ出場。しかもシーズン成績は42勝40敗と、マブスとは25ゲームも離れていた。そのため、ウォリアーズのアップセットをシリーズ開始前から確信していた人は少なかった。
しかし、久々のプレーオフ出場となったウォリアーズには、失うものなど何もなかった。このシーズンのウォリアーズは、シーズン途中にトレードを断行し、スティーブン・ジャクソンやアル・ハリントン(共に元ウォリアーズほか)といったスコアラーを獲得。エースのバロン・デイビス(元ウォリアーズほか)が3月6日(同5日)にケガから復帰し、ベストメンバーがそろった後は16勝5敗、ラスト10試合で9勝と、勢いに乗っていたからだ。さらに、ウォリアーズの指揮官には05年までマブスで8シーズン、ヘッドコーチを務めていたドン・ネルソンがいたため、マブスが圧倒的有利と言う者も、それほど多くはなかったのである。
■GAME1 ウォリアーズ 97-85 マブス
デイビスが33得点と大活躍しウォリアーズ先勝
前半を38-38の同点で折り返すと、第3クォーターでデイビスが大暴れ。このクォーターだけで19得点の集中砲火を浴びせるなど、ウォリアーズは後半に59-47とマブスを圧倒し初戦を制した。デイビスはいずれもゲームハイとなる33得点14リバウンド8アシストと殊勲の活躍。ジャクソンが23得点、ジェイソン・リチャードソン(元ウォリアーズほか)が13得点と続き、エースをサポートした。マブスはジョシュ・ハワード(元マブスほか)が21得点13リバウンドを挙げるも、エースのダーク・ノビツキーが16投中12本ものショットをミスする大ブレーキで初戦を落とす。
■GAME2 マブス 112-99 ウォリアーズ
マブスがトップシードのプライドを見せつけて勝利
第1クォーター、モンタ・エリス(現未所属)が13得点したウォリアーズが30-28でリードするも、この試合でマブスは本来のパフォーマンスを発揮し、シリーズを1勝1敗のタイに戻す。ジェイソン・テリー(現ミルウォーキー・バックス)がチームトップの28得点、ノビツキーが23得点、ハワードが22得点11リバウンド5スティール、シックスマンのジェリー・スタックハウス(元デトロイト・ピストンズほか)が17得点8リバウンド4アシストを挙げる活躍を見せた。ウォリアーズはジャクソンが30得点、エリスが20得点したものの、デイビスが13得点と不発に終わる。
■GAME3 ウォリアーズ 109-91 マブス
ホームのウォリアーズがマブスを圧倒し2勝目
ホームのオラクル・アリーナに戻ったウォリアーズのオフェンスが爆発。リチャードソンが30得点、デイビスが24得点、ジャクソンが16得点をマークするなど計5選手が2ケタ得点を残し、試合の大部分をリードするという、ほぼ一方的な展開でシリーズ2勝目を挙げた。マブスはノビツキーとハワードがそれぞれ20得点を記録したものの、チーム全体でフィールドゴール成功率38.8パーセントに抑え込まれて大敗を喫した。
■GAME4 ウォリアーズ 103-99 マブス
試合終盤に連続得点したウォリアーズが王手!
なんとしてでもシリーズをタイに戻したいマブスは、第1クォーター中盤から主導権を握る。しかし何度もウォリアーズを引き離しにかかるも、なかなか振り切れず、前半残り2分14秒にミカエル・ピートラス(元ウォリアーズほか)の3ポイントシュートが決まり42-42の同点に追いつかれる。その後は互いに点を取り合い、前半を49-49で折り返す。後半に入るとマブスが最大8点をリードするが、ウォリアーズの粘りの前にリードは徐々に縮まっていく。第4クォーター残り2分33秒、マブスはハワードのターンオーバーからデイビスの得点で逆転を許すと、ウォリアーズにそのままペースをつかまれて惜敗。ウォリアーズがシリーズ突破に王手をかけた。ウォリアーズはデイビスが33得点、リチャードソンが22得点、ジャクソンが19得点をマーク。マブスもスタックハウスが24得点、ノビツキーの23得点を挙げるなど計4選手が19得点以上を挙げたが、早くも瀬戸際に追い込まれてしまう。
■GAME5 マブス 118-112 ウォリアーズ
終盤の9点ビハインドを覆したマブスが逆転勝利
シリーズ敗退へと追い込まれたマブスが、第4クォーター残り3分21秒、9点ビハインドという窮地から抜け出し、なんとか2勝目を挙げた。デイビスに3ポイントシュートを決められ、103-112というピンチから、マブスはノビツキーが12得点を挙げる猛攻などで決着をつけた。試合をとおしてノビツキーは30得点、ハワードが23得点を加え、ほか4選手が11得点以上を記録。対するウォリアーズはデイビスが27得点、リチャードソンが23得点と続き、計5選手が2ケタ得点したものの一歩及ばず。
■GAME6 ウォリアーズ 111-86 マブス
後半に爆発したウォリアーズがアップセット達成!
同点7回、リードチェンジ11回を記録したこの試合、マブスがリードを奪ったのは前半まで。ウォリアーズ2点リードの50-48で迎えた第3クォーターに、シリーズの決着はついたようなものだった。同クォーターでウォリアーズは36-15と一気に突き放し、マブスの優勝への望みを早々に打ち砕いた。ノビツキーはフィールドゴール13投中成功わずか2本。3ポイントシュートは6本すべてミスし、シリーズワーストとなる8得点。自身初のシーズンMVPに泥を塗ってしまう形でシーズン終了。ウォリアーズは3ポイントシュートを8投中7本も決めたジャクソンの33得点を筆頭に5選手が2ケタ得点をマーク。リーグトップの67勝を挙げたマブスを6戦で下したことで、歴史的アップセットを完遂したのである。
短期間の全盛期ながらも歴史を変えた勇敢な戦士たち
シリーズ敗退後、ノビツキーは複数の現地メディアに対し「このシリーズで、私は自分本来のプレーを見せることができなかった。自分自身にとても失望している」と語り、唇をかんだ。
ノビツキーとしては、マッチアップしてきたウォリアーズの選手が自身よりも小柄で、ジャクソンを筆頭に身体能力が高く、フットワークと手の使い方が巧みな選手だったことから、リズムを狂わされたと言えるだろう。この敗戦後、マブスはファイナルの舞台へ戻るまで、4年間待たねばならなかった。
一方、シリーズトップの平均25.0得点を残したデイビスは、ジャクソンについて称賛。「彼(ジャクソン)が俺を導いてくれた。誰がなんと言おうと、彼はこのチームのリーダー。俺たちのハート&ソウルでもある。それに勝負所で活躍することができ、ゲームにおいて重要なことを知っている。このチームで唯一チャンピオンリングを持っている男だから、俺たちは彼の声に耳を傾けたのさ」。
デイビスに次ぐシリーズ2位の平均22.8得点を挙げたジャクソンは、自身のパフォーマンスについてこう語っていた。
「俺はアグレッシブになりたかった。俺とバロンはここ数年、いい友人関係を築いていたから、お互い良いプレーができたと思う。俺はこういったチャレンジが大好きなのさ」。
また、シリーズに対して聞かれると「俺たちはシリーズをとおして、彼ら(マブス)のことをリスペクトしていた。そしてまだまだやるべきことがたくさんあるということも理解していたんだ。(アップセットできたことは)この町にとってすばらしいことだし、この組織、そしてチームにとっても最高なことだね。シーズン途中から皆で一緒になって取り組んできたからなおさらうれしい」と、ジャクソンは語った。
マブスに勝利し、ユタ・ジャズとのカンファレンス・セミファイナルへ進んだウォリアーズだったが、ジャズの前に1勝4敗であっけなく敗退。翌07-08シーズン、ウォリアーズは48勝34敗という成績を収めたものの、このシーズンのウエストは8チームが50勝以上を挙げたため、プレーオフ出場を逃してしまう。
それからというもの、07年のプレーオフでアップセットを果たした選手たちは徐々に退団。12-13シーズンにステフィン・カリーを中心とした布陣でプレーオフへ返り咲いた時のロースターには、センターのアンドリス・ビアドリンス(元ウォリアーズほか)しか残っていなかった。
歴史的快挙を達成したウォリアーズは、1シーズン、いやマブスとのプレーオフを戦った2週間ほどで、最盛期を終えることとなった。新陳代謝の激しいNBAでは決して珍しいケースではないものの、ファンと一体化し、チーム一丸となってシリーズに勝利したことは、ウォリアーズについて語る際、決して忘れてはならない瞬間の1つと言っていい。
WOWOW NBAキャスター 長澤壮太郎が語る「2007年ウォリアーズ×マーベリックス」
「史上初のアップセットを記録した“We Believe”ウォリアーズ。確かに、当時のウォリアーズの勢いは凄かったです。しかし、マーベリックスは67勝もしていましたし、エイブリー・ジョンソンHCはコーチ・オブ・ザ・イヤーを獲得していました。しかも前年、マーベリックスはファイナルに出場し、悔しい負け方をしていただけに一回戦敗退はまったく予想もしていませんでした。ウォリアーズはアル・ハリントン、スティーブン・ジャクソンらをトレードで獲得し、元UCLAのチームメイト、バロン・デイビス、マット・バーンズなど個性的(問題児的な)キャラとも言えるメンバーが、コート内外でも一気に結束を固めていました。そのせいか、ものすごい勢いがチーム全体に伝染し、真面目で優等生なマーベリックスをパニックに陥れました。そんなイメージが今でもあります」。