Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
Wリーグ新記録となる11連覇を達成したJX-ENEOSサンフラワーズ。そのチームを強いリーダーシップを発揮してけん引したのがキャプテンの吉田亜沙美だ。
言わずと知れた日本女子バスケット界の顔ともいえる司令塔。これまでJX-ENEOSのみならず、リオデジャネイロオリンピックをはじめ、日本代表としても国際大会で活躍を見せてきた。その吉田は今シーズン、後継者と指名する藤岡麻菜美に正ガードの座を託し、バックアップメンバーとして戦うことを決意。新たな挑戦と位置付けたシーズンをどのように戦い抜いたのか、喜びの声とともにシーズンを振り返ってもらった。
※なおこのインタビューは吉田亜沙美選手が現役引退を発表をする前に収録された
取材・文=田島早苗
写真=兼子慎一郎
――改めて優勝の感想をお願いします。
吉田 無事に“2冠”をして、目標を達成できたので安心したのが一番です。(昨シーズンから)スタートが2人変わったからこそ優勝したいというのは私自身も強く感じていたので、今までで一番うれしい優勝でした。
――優勝後は泣いていました。
吉田 やり切った感があったし、スタートの2人変わって、最初の方はなかなかフィットしなくて、(新司令塔の)麻菜美が苦しんでいるのも見ていまいた。その中で皇后杯を優勝したことがチームとして一つの自信になり、そしてWリーグの後半戦に入って今シーズンからスタートのジュナ(梅沢カディシャ樹奈)と麻菜美が本当に頑張った。後から試合に出るユラ(宮崎早織)やアコ(石原愛子)がチームを救ってくれたし、今年はこのメンバーで優勝したい、勝ちたいという思いがすごく強かったので、やり切ったという感情も含めて………(涙が)出ちゃいました(笑)。優勝するといつもはホッとして笑顔。泣いたのは昨シーズンと今シーズンだけですね。
――ここ2シーズンは、それまでとは少し違った感情だったのですね。
吉田 はい、今年は特に。「このメンバーで」という思いが強かったです。麻菜美がスタートになったことも私の中では大きかったし、ジュナが日に日に上手くなっているのを間近で見れたし、他にも選手みんなが自主練を頑張っているのを見ていたから、なおさらでした。
――今シーズンは、控えとして試合に出ていましたが、心がけていたことは?
吉田 流れを変えることだったり、本来のJX-ENEOSサンフラワーズのバスケットを引き出すこと。速い展開に持っていくというのが自分の役割だと思っていました。それと、何より私が出た時にみんなが安心してプレーができる、精神的にも「リュウさんが出てきたからもう大丈夫だ、自分のプレーができる」と、思ってもらえるようなサポートを常に心がけていました。その中で周りから「流れが変わったね」と言ってもらったことは自分の評価だと思うし、控えに回って良かったなとも感じています。今シーズンは、新しいことにチャレンジしてすごく楽しかったので、やりがいを感じたシーズンでした。
――控えから試合に出たというと、いつ以来ですか?
吉田 うーん、初めてに近いぐらいですよね。
――試合の最初をベンチから見ていたわけですが、どんな景色でしたか?
吉田 新鮮だったかな。ベンチから試合を見るのはケガをした時以来だったし(2013‐14シーズン)。今、何が足りなくて、何をすべきなのかを客観的に見れる時間は私にとって必要なことでもありましたね。試合に出たらこうしようとか、この選手が調子がいいからここにボールを集めようとか考えながら見ていたので、毎試合、景色は違って見えましたし、自分自身の経験値を上げる意味でもとても良い時間だったと思います。
でも、一番見ていたことは麻菜美が本来のプレーができているか。悩みながらやっているとそれが他の選手にも伝わって、みんなが迷うので、思いっきりやってほしいと思っていました。それに、私が出る時間が減る、減ってくれという思いは常に持っていたかな(笑)。
――ベンチにいて、試合に出たいとウズウズはしなかったのですか?
吉田 全然。それは選手としてはダメなことかもしれないけど、私の中では麻菜美とユラでゲームが作れるのであればそれがベストだと思っていたし、それでうまくいかなかったらバックアップするよ、フォローするよという感覚でいました。
――吉田選手はコート上ではいつもギラギラしている選手。昨シーズンまではスタートでティップオフの時からギラギラしていたのが、今シーズンから控えに回ったことで、どうなるのかな?と。でも、一度コートに立ったらやっぱりギラギラしていました。
吉田 (笑)。オンとオフの切り替えがしっかりできたとは思います。ベンチではみんなと応援しながら笑ったり、喜んだりして。そんな時間をベンチメンバーと共有できたことは楽しかったし、うれしかった。だからこそ、私が試合に出た時は、ベンチメンバーの分まで頑張ろうという思いもありましたね。
――“ギラギラスイッチ”はどのタイミングで入れていたのですか?
吉田 (交代で)呼ばれた時かな。呼ばれて、ユニフォーム姿になってコートに入った時ですかね。
――その気持ちの切り替えは難しいと思うのですが。
吉田 難しいとは思いますよ。だから私がすごく思ったのは、アコやユラ、リト(大沼美琴)たちは毎シーズンこれをしている。その大変さをより知れたし、パッと試合に出て仕事をするという難しさは、もしかしたら後から出ていく方が大変なのかなと。もちろんスタートには大きな責任があるので、それもそれで大変だけど、ベンチから試合に出て流れを変えないといけない選手の大変さも計り知れない。それを改めて知ることができました。
――ある意味、吉田選手が新境地を切り開いたようにも感じました。
吉田 自分が出て、流れを変えられたらそれは楽しいし、やりがいありますよ。もちろん、期待されて試合に出るわけだからプレッシャーもあるけれど、新しいことに挑戦するという意味では今シーズンは充実していました。
今シーズンは、ユラとツーガードで出ることが多かったのですが、その時は本当に楽しかった。ユラはボールを持ったらプッシュするし、彼女自身も速い。そして必ず私を見てくれているので、走ればパスが来ましたね。
――吉田選手自身もプレーヤーとしての幅が広がったのでは。
吉田 ポジションも2番や3番をやれたし、ここ何年かで一番幅は広がったと思います。1番ポジションが中心でしたけど、バックアップに回って何を求められていて、何が自分の仕事なのかというのを考えることができて、本当に考えながら戦ったシーズンでした。
――ただ、ベテランの域に入っての新たな挑戦ということに抵抗はなかったですか?
吉田 近年毎シーズン同じことの繰り返しになっていたところもありました。私は何か頑張るためのモチベーションが必要なタイプ。何かに挑戦し続けたいという気持ちは常に持っていたかったので、今の自分自身に必要なものは何か、挑戦したことのないことは何かと考えたら、スタートを預けて、若手を育てることに徹するということでした。
もちろん、スタートにこだわっていた時代もありましたけど、ユラや麻菜美は、私がいることによってスタートで出られない、出場時間も限られるというのは…。それこそ、町田(瑠唯/富士通レッドウェーブ)や本橋(菜子/東京羽田ヴィッキーズ)は、自チームではスタートで、スタートの大変さを経験しています。でも同じ日本代表でも麻菜美はその経験をしていないとなると、その差ってすごく大きいと思うんです。今後、麻菜美が日本代表で引っ張っていく立場になったとしたら、スタートを経験しないまま東京オリンピックに向かうのかと。そう考えた時に、私は日本代表を何年も経験して、スタートやキャプテンもやらせてもらって、オリンピック予選で自力で切符を取った経験もしたので、もういいと。経験が必要な選手に経験させてあげたい、育てたいと思いました。
ガードとしてガードを育てるのはベテランの役目だと思っています。今シーズンはガードのみんなでこういう時はこうだね、こうした方が良かったねという話が多くできました。それはみんなが試合に出ていたからこそ。ガード同士がコミュニケーションを取り、刺激し合い、サポートし合えたのは昨シーズンにはなかったことで、私が控えに回ったことによってそういう環境が生まれたと思うので、そこも良かったです。
――後継者の藤岡選手に一番アドバイスしたことは
吉田 迷わずシュートを打つようにと常に言っていました。私も経験したことありますが、(外角シュートを捨てられて)ディフェンスに離されることがあったので、離されたら打てばいい、ドライブ行けるんだったら行けばいいと言っていました。悩んでジャンプシュート打っているのは分かっていたし、周りに点が取れる選手たちがいるからなおのこと迷ったとは思います。私も1、2年目は周りの選手が点を取るから私は点を取らなくていいという考えでした。でも、日本代表で国際大会に出た時に他のポイントガードとの差はシュート力だと思ったことで、積極的に打つ、それもゲーム中に打たないと感覚やタイミングが分からないということを経験しました。シュートが入らなくてもリバウンド取ってくれるし、それがパスにつながる。シュート打って落としたらそれもアシストだよとは伝えてはいましたね。
――吉田選手は今シーズン、本当に楽しそうにプレーしていました。
吉田 楽しかったですね~。本当に楽しかった。ポイントガードにこだわってやっていた時代もあったけど、2、3番ポジションで出た時は、自分の好き勝手攻めることができて、点にもより絡めたので、やっぱり楽しいなと思っちゃっいました(笑)。
1番ポジションになるとチームのこと、周りの選手を生かすゲームを作ることに徹するけれど、2番だとそこまで考えなくて済むというか、周りというよりは自分がガンガン攻めるので、とても楽しかったですね。
――東京成徳大高校時代のような感じが少しありましたよね。
吉田 そうですね。高校の時は自分が点を取らないといけないという状況だったから。今シーズンもユラと一緒に出た時は、ユラも私にボールを集めてくれたし、もう今シーズンは何度も言うように、楽しかったという言葉しか見当たらないです。
――どのポジションでも役割をこなし、控えで出ても高いパフォーマンスを発揮。神々しささえ感じました。今シーズンは新しい吉田亜沙美だったかなと。
吉田 ありがとうございます(笑)。でも、新しいポジションだったり、新しい居場所を見つけられたというのは大きかったのですね。
――改めて11回の優勝を振り返って印象に残ってるシーズンはありますか?
吉田 4連覇目(2011‐12シーズン)と今回ですね。4連覇の時は、レンさん(田中利佳)がキャプテンで、レンさんが付いていきたいというキャプテンだったし、この仲間で優勝したいという思いがありました。同期のクゥ(寺田弥生子)が一緒に試合に出ていたのもあって強く優勝したいと思ったシーズンでした。今シーズンがそれに似ている感じ。もちろん他の連覇の時もみんなのために頑張りたいと思っていたけれど、この2回の優勝は「このメンバーで勝ち取れた」という感覚です。今シーズンは、スタート2人が変わっても強かったというのを見せれたと思うし、チームにとっても今後の自信につながった。JX-ENEOSは、これからもっと進化して強くなるチームだというのを感じることができました。
――11連覇を経験している唯一の選手。かつての先輩たちの積み重ねがあっての新記録達成という思いもあるのではないですか?
吉田 そうですね。レンさんとかイソミさん(林五十美)、ツキさん(内海亮子)たちは、苦しい時代を知っているし、チームが上手くいかない時も一緒に戦った仲間でもある。そういった先輩たちや同期、後輩に恩返しができたと思います。
もちろん、今回の優勝は今のメンバーで勝ち取ったのだけれど、その前にはたくさんの先輩たちがいて、伝統とか礼儀正しさとかバスケットに対しての思いとか、そういったことはかつての先輩たちが作り上げてきたもの。様々な歴史の中で11連覇ができて、仕事を果たせたかなと思います。
――吉田選手は、2年目のWリーグはファイナルで負けてますよね。
吉田 そうなんですよ。13シーズンで12回優勝しているので、それは幸せなことなのですが、(2年目で)負け経験をしてすごく悔しい思いをしたからこそ、今につながっていると思います。それは皇后杯も同じで1回負けてすごく辛い、苦しい思いをしたから、『この思いは2度としたくない』という気持ちが私やタク(渡嘉敷来夢)にはあると思います。
――1年目は“船橋の奇跡”と言われる、2連敗からの3連勝で優勝でした。
吉田 そうでしたね。レギュラーシーズンでは1度も勝てなくて、ファイナルでも1、2戦と負けて。誰もがやっぱり勝てないんだなと思っていた中での3戦目で1勝。あの勝ちは大きかったですよ、そこからチームは乗ったので。皆の経験として初戦を落としたら負ける、勝ったら優勝できると思っていたので、初戦に負けてヤバイと。そんな展開からの優勝。あれは奇跡ですよね、奇跡って言われてもしょうがない(笑)。
――そして今シーズンは過去11シーズンの中でも初となる三菱電機コアラーズとのファイナルでした。ガードの川井麻衣選手との“RYU対決”(ともに同じコートネーム)も注目されました。
吉田 周りが騒いでいるだけで本人たちはそんなに思ってないと思いますよ。特に私は、誰とマッチアップしたとかではなく、チームが勝てばいいと思っているので。自分が活躍したとか、誰との対戦が楽しいという思いは、試合になるとないんですよね。
でも、東京成徳大高校(東京)の後輩でもあるので、頑張っているのはすごくうれしかったし、対戦相手に成徳生がいるなんて、ましてやファイナルで。その楽しさはありました。彼女も日本代表に入れる位置に来ていると思うし、入ってほしいとも思っています。日本代表で麻菜美と勝負してほしい。可能性はたくさんあるから、この先、面白い選手になっていくのではないですかね。
――三菱電機には同級生の王新朝喜選手もいました。
吉田 いや~、嬉しかったですよ。スタートであれだけ40分近く試合に出て、自分の役割を把握して仕事をする。本当にTHE仕事人という感じでしたよね。リバウンドや得点、インサイドでしっかりと構えていると、味方にしたら頼もしいと思いますよ。同級生があれだけ頑張っているというのは刺激になったし、何よりうれしかったです。
――そのファイナルでは鮮やかなノールックのビハインドパスも決めました。
吉田 あれはもう信頼関係ですよ、渡嘉敷との。決まった瞬間に思いました、「やっぱりタクだな」って。あの場所にいて、絶対にパスが来ると思ってくれているだろうなというのと、少し前にパスが流れちゃったけどしっかりキャッチしてくれたこと。パスが来るって分かっていなかったらあのミートはできないし、あそこで待ち構えていることは絶対にできない。私の「タクだったら取ってくれるだろう」という思いとタクも「リュウさんならここにパスをしてくれるだろう」という思いがつながった、ベストプレーだと思います。
――デンソーアイリスとのセミファイナルではブザービーターのロングシュートも決まり、会場も盛り上がりました。
吉田 ブザビは(決めても)そこまで嬉しくないです。それよりは、ファイナルの今言ったタクへのバックパスと、タクがタップシュートを決めたやつは2人のプレーだなと感じましたね。
――これでシーズンは終了。オフは何をしますか?
吉田 リフレッシュをしに旅行にはいきたいですね。今年はそれまでなかなか会えなかった人たちに会いたいなと。同級生たちと会ってわいわいやりたいです。
――最後に、ファンに向けて一言お願いします。
吉田 今シーズンもファイナルまで応援し続けてくれてありがとうございました。チームが負けた時など、どんな状況でもいつも温かい言葉をくださり、最後まで一緒に戦ってくれたことは心強かったです。会場が黄色に埋め尽くされたのを見ると、胸が熱くなったし、日本一のファンに恵まれたと感じました。そういう環境の中バスケットができたというのは感謝しかないです。優勝できたのはファンの方のお陰だし、JX-ENEOSファミリーとして喜びを分かち合うことができてうれしいです。また、JX-ENEOSのファンだけでなく、他チームのファンも含めて、私たち選手のプレーで心を動かす何かがあったり、感動したり、勇気を与えたりすることができていたら幸せに思います。ファンの方がバスケットをまた好きになったというシーズンであったならばうれしく思います。