2019.11.30

富樫勇樹と河村勇輝…和歌山の地で実現した夢のような司令塔対決

天皇杯2次ラウンド初戦で実現した富樫vs河村の司令塔対決
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第95回天皇杯・第86回皇后杯 全日本バスケットボール選手権大会」2次ラウンドの組み合わせが発表されたのは2019年9月25日のこと。同日の21時20分、千葉ジェッツ富樫勇樹はツイートボタンを押した。

「えー!!!!!!!!!」

「組み合わせを見た時にびっくりして。僕はアメリカの高校に行ったので、正直、対戦することはないのかなと思っていました。もし、日本の高校に進学していたら福岡第一に行っていたという思いもあるので、特別な思いというかすごく嬉しかったですね」

https://twitter.com/YukiTogashi/status/1176833838770573312

 現在、天皇杯3連覇中でリーグ戦の平均入場者数トップ(第9節終了時点)の千葉ジェッツと、昨年のウインターカップから圧倒的な強さで全国大会2冠を果たしている福岡第一高校。プロと高校でカテゴリーは違えど、ともにナンバーワンとも言える人気を博している両チームの対戦が同ラウンドの初戦で決定した。

 そして何と言っても、それぞれのチームの中心にいる富樫、河村勇輝(3年)という2人の司令塔対決が真剣勝負の場で実現することに、開催前から多くのバスケファンがワクワク感に包まれた。

千葉ジェッツは天皇杯3連覇していて、今のBリーグではナンバーワンと言われるようなチーム。その中でも富樫選手は憧れであり、目標である選手です。マッチアップできることは自分の人生の中でとてもいい経験になりますし、チャンピオンとやれることは全てにおいて学べることがあると思います。千葉ジェッツにとって高校生とやるのはモチベーションが上がるかわからないですけど、自分たちは全身全霊でぶつかっていくので、全力で戦ってプロのレベルの高さを見せつけてほしいです」

 千葉、そして富樫との対戦を約2週間後に控えた福岡第一の体育館で、河村はそう意気込んでいた。「自分より少し小さい」(河村)167センチの富樫は、172センチの河村がプロでも活躍できることを後押しした存在だ。

「プロを目指し始めた高校2年生の時に、富樫選手がプロですごく活躍しているのを見て『自分も身長は言い訳にできないな』とか、『自分もがんばればプロに行けるんじゃないか』という気持ちが芽生えて。ある意味プロになる夢を決断した、覚悟したっていうのは富樫選手の影響が大きいと思います」

「井手口(孝)先生とも子どもの時から仲良くさせていただいて、すごく楽しめました」と富樫

 30日の試合当日、チケットは前売りの時点で完売(車いす席を除く)。注目の一戦の前後には高知中央高校(高知県)vs紀陽銀行ハートビーツ(和歌山県)、レバンガ北海道vs横浜ビー・コルセアーズのカードも組まれていたが、大半のファンが14時15分ティップオフの千葉vs福岡第一に合わせて会場に訪れた。事実、会場のノーリツアリーナ和歌山が立ち見がでるほど超満員で溢れかえったのは第2試合のみ。前日には日本バスケット協会(JBA)が『2人の”ユウキ”が激突』とつづり、公式SNSでこの一戦だけを取り上げて投稿するなど、“空前の注目度”の中で試合を迎えた。

 注目の一戦も、終わってみれば千葉が100点ゲームで圧勝。マイケル・パーカーが24得点16リバウンド、ニック・メイヨが23得点、原修太が3ポイント4本を含む21得点をマークした。高さ、フィジカル、シュート力で福岡第一との差を見せつけ、最終的には109-73という大差がついた。

 しかし、この試合で最も輝きを放ったのは福岡第一の司令塔・河村勇輝だった。

 第1クォーターから「富樫さんが出た時は意識しました」と、果敢にゴールへアタックした河村。高校生との普段の試合のように、抜群のテクニックとスピードでコートを駆け回り、プロ相手に21得点。相手を欺くノールックパス、隙きを突いたスティールで10アシスト6スティールも記録し、随所に福岡第一の真骨頂である“電光石火のファストブレイク”を引きだした。

河村のプレーは、千葉が相手だろうと“いつもどおり”だった

「対戦する前から彼はゲームを支配できる選手だと思っていたので、今日も彼の視野の広さだとか、大きい選手相手にもパスを出せるスキルはすごいなと思いました。あそこまでできるのは高校生では確実にいないですし、体の当たり負けもなかったです」

 試合後、富樫は河村とのマッチアップについてこう話し、「高卒でプロになってほしいなと思います」とエールを送った。河村も試合に負けたことに対しては「悔しいです。その一言に尽きます」と表情が暗かったが、最後は「前日からしっかり準備して、モチベーションやコンディションもばっちり合わせてきました。『人生を賭けてがんばるんだ』と思った試合はこの試合が初めてです。これからの人生にいい経験になりました」と笑顔を見せた。

 約37分間コートに立った河村のトリプルダブル級の活躍に対し、富樫は約22分の出場で0得点。しかし、12アシストを稼いだ。

「『全力でやった』と富樫選手は話していましたけど、高校生相手でやりづらいところもあったと思います。高校生とプロという立場で戦えたことはすごく嬉しいですけど、まだ自分の実力がないので、憧れという感じです。目標は富樫選手を抜ける選手になること。自分がプロになったら、“本当の本気の勝負”でやり合えるようにがんばりたいと思います」(河村)

最後は健闘を称え合った

 真剣勝負の場で、2人が再び対戦する日はいつなのだろうか――。

 富樫が望むように、高校卒業後、河村がBリーグの世界に飛びこむ可能性もなくはない。もしそうなれば、今シーズン中に再びどこかのコートで相まみえるかもしれない。さらに、その加入先が千葉ジェッツならば富樫との“共演”だってある。

 妄想は膨らむばかりだが、2人は一先ずそれぞれの目標に向かって歩き出す。富樫は天皇杯4連覇へ向けて明日も負けられない試合に、河村は高校生活の最後に手にしなければいけないウインターカップのタイトル獲得のために。

『勝敗以上の価値がある』

 あらゆる勝負において使い古された表現かもしれないが、令和元年11月30日に和歌山の地で実現した夢のような司令塔対決は、勝敗以上の価値があった。

写真・文=小沼克年

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