2022.07.28

「最後は自分が」…沖縄の“美来モンスター”佐渡山楓、不完全燃焼の夏を糧にさらなる飛躍へ

1回戦で涙を飲んだ美来工科高校の佐渡山楓[写真]=小沼克年
フリーライター

 最終クォーターで9-20と試合をひっくり返され、まさかの逆転負け。沖縄県代表・県立美来工科高校の「令和4年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」は、あまりにも悔しい敗戦となってしまった。

 大阪桐蔭高校(大阪府)との初戦、前半の出来は上々だった。全国的に見て高さで劣る美来工科だが、全員が粘り強いディフェンスとリバウンドに飛び込んで相手を守り、攻撃ではスピードと機動力を生かしてテンポよく加点。38-26でハーフタイムを迎えた。

 しかし、後半に入ると運動量が落ちはじめ、カウンターパンチを食らうかのように大阪桐蔭の堅いディフェンスと速攻から徐々にペースを握られてしまう。第4クォーター中盤に逆転を許してからはシーソーゲームとなり、試合終了残り20秒で1点ビハインド。逆転を狙った最後の攻撃は、比嘉一竣のキックアウトからコーナーで待ち構えていた宇地原佑仁(ともに3年)が3ポイントシュートを放った。だが、このシュートはリングを弾き、無情にもタイムアップを迎えた。

 美来工科の宇地原尚彦コーチは、最後のオフェンスでの指示をこう明かす。

「絶対に66番にマークが寄るだろうなと思いましたので、58番の比嘉にボールを出してそこから1対1。切り込めきれなければパスをさばいてシュートで終わろう、という話をしました。最後はシュートで終われたから良かったとは思うのですが、やっぱり悔しいですね。勝ちきる力というのでしょうか……。それがまだ足りないです」

 宇地原コーチが言う“66番”とは、シューティングガードの佐渡山楓(3年)。身長は179センチと決して高くないものの、身体能力を生かしたダイナミックなプレーで得点源を担うチームの絶対的エースだ。スポーツ界では『最後はエースに託す』というパターンが多く見受けられるが、宇地原コーチから見たこの日の佐渡山は、「すごく対策されていた」。だからこそ、最後の局面では佐渡山に“おとり”になってもらい、周りの選手たちを信じたのだろう。

 最後を託されなかったエースは「やっぱり最後は自分が行きたかったという気持ちもありました」と、正直な気持ちを打ち明ける。しかし、「今日はシュートタッチも悪くて自分がやりたいプレーが全然できなかったので仕方ないです」と続け、チームを勝利に導けなかった自身の出来を悔いた。

自身の出来を悔いながらも、18得点10リバウンドとダブルダブルを達成[写真]=小沼克年


 それでも、この日の佐渡山はゲームハイとなる18得点10リバウンドをマーク。オフェンスでは彼の真骨頂とも言えるフィジカルの強さと抜群の跳躍力を生かしたドライブでアタックし続け、たとえ相手が2人来ようとも、お構いなしに得点やリバウンドを奪う姿を随所に披露。全国レベルでも十分に通用することを示した。

 試合後のミックスゾーンでは、時おり笑顔も見せていた佐渡山。その理由を問うとこう答えた。「笑ってはいるんですけど、涙が出そうだからごまかしているだけです。悔しいっす……」

 垂直跳びでリングに手が届き、ダンクシュートも叩き込める。「もともとジャンプ力や突破力はありましたので、『パスしろ』なんて言ったことがないです」と、宇地原コーチも佐渡山の類まれな能力を絶賛しており、その指揮官からは“未来モンスター”という異名をつけられた。ただ、宇地原コーチは内面の弱さを指摘し、佐渡山のさらなる成長を求める。

「あの子は自分がダメになると泣くんですよ。そういうタイプなので精神面でどこまで成長できるか。簡単なことですけど、自分の調子が悪いときでも周りを盛り上げるとか、そういうこともこれからやってほしいなと思います」

 報道陣の前では、今にもこぼれそうな涙を堪えてインターハイを去った。沖縄が誇る“美来モンスター”が、一回りも二回りも大きくなってまた全国の舞台に戻ってくることを期待したい。

そのポテンシャルから、さらなる成長が期待される佐渡山(写真中央)[写真]=小沼克年


取材・文=小沼克年