2023.02.24

ウインターカップ優勝やオリンピアンも生んだ大阪桐蔭・森田久鶴コーチのラストゲーム

数々の実績を残し、大阪桐蔭を勇退する森田久鶴コーチ [写真]=田島早苗
フリーライター

「選手たちが向かっていく気持ちを持って戦ってくれたと思います」

 2月18、19日と2日間にわたって滋賀県にて行われた「第33回近畿高等学校バスケットボール新人大会」。大阪桐蔭高校(大阪府)の森田久鶴コーチは、京都精華学園高校(京都府)との準決勝を終えてこう振り返った。

 準決勝は、京都精華学園の高さを生かした攻撃に序盤から苦戦し、前半を終えて28点のビハインドを追う。しかし、前から当たる激しいディフェンスを貫いた大阪桐蔭は、第3クォーターでは失点を10に留め、攻めては思い切りの良いシュートで点差を縮めていく。だが、第4クォーターで再び引き離されると、そのまま追いつくことはできず。最後は59ー97で敗れた。

 ベスト4で終えた今大会、森田コーチは「新チームは、背が低いので脚力で勝負しないといけない。その中で今大会は選手の成長を感じることができました」と、選手たちの頑張りを称えた。

ルーズボールも大阪桐蔭の持ち味 [写真]=田島早苗


 そして敗れた準決勝は、今年度で勇退する森田コーチが指揮を執る最後の公式戦ともなった。

 森田コーチは、25年近く樟蔭東中学校(大阪府)の指導にあたり、全国中学校大会で準優勝など全国大会でも好成績を残してきた。その後、4年間は中学に加えて樟蔭東高校のコーチにも就任。2010年からは大阪桐蔭高校に指導の場を移した。

 大阪桐蔭では樟蔭東時代と変わらず、攻防において脚力を生かしたタフなチームを作り上げ、2017年にはウインターカップで初優勝を達成。大学やWリーグで活躍する選手も多く、2021年の東京オリンピックでは3x3女子日本代表メンバーに同校のOG・西岡里紗(三菱電機コアラーズ)が選出された。

「中学を指導していた後半ぐらいから全国大会にも出られるようになり、選手たちのおかげなのですが、そこでいい経験をさせてもらいました。そして樟蔭東と大阪桐蔭とで約17年、高校でも永井雅彦アシスタントコーチとともにウインターカップ優勝など、すごく楽しく、素晴らしい経験をさせてもらいました。本当にありがたかったです」

 まだ実感はわかないとしながらも、試合後にはこれまでの指導者人生を振り返った森田コーチ。さらに、「西岡や永井唯菜(三菱電機)がWリーグで頑張っているし、ああいったバスケットで輝いている選手たちだけではなく、別の世界でも、いろんなところで頑張っている卒業生がいるのは教師冥利につきます。特に『目配り、気配り、思いやり』というスポーツを介して感謝の気持ちを持てる人間になってもらうこと。そういった人としての成長の手助けを少しはできたかなと思うので、それを誇りに感じながら一線を退いていくのが私にとっては良いのかなと思っています」とも語った。

 冒頭でふれたように新チームは近畿新人大会のエントリーメンバーでも一番大きい選手が175センチと、全国で見れば小さい方。だが、そういったチームを森田コーチは、これまでも幾度となく全国でも戦えるチームへと押し上げてきた。粘りのディフェンスやスピードあふれるオフェンス、そして果敢に飛び込むリバウンドなど、泥臭いプレーは森田コーチの指導するチームの特長ともいえる。

準決勝では16得点を挙げた1年生の唐原 [写真]=田島早苗


 忘れられないのは2005年の岐阜県高山市で行われた全中。決勝では間宮佑佳(現姓・大﨑/元ENEOSサンフラワーズ)、篠原恵(元富士通レッドウェーブ)と、180センチを超える2人のセンターを要する東京成徳大学高校(東京都)に対して、樟蔭東は10センチ以上小さい選手が間宮らをマーク。それでも、体を当てたボックスアウトや機動力などで対抗し、敗れはしたものの大きなインパクトを残した。

「選手たちと信頼関係を持って頑張っていけば、いいときも悪いときも乗り越えていけるというのは指導の中で実感しています」と、森田コーチ。指導者人生としては一区切りとなったが、4月以降は「チームを継承してもらいながら、そのバックアップができれば」と、しばらくは後任のコーチを支える立場になるという。

 横断幕にも書かれている『目配り 気配り 思いやり 感謝』というモットー。名将の思いは、新指揮官や選手たちがしっかりと引き継いでいく。

写真・取材・文=田島早苗