2024.08.11

全国初優勝を達成した東山・大澤徹也コーチ…恩師を思い「負けられない理由があった」

初の全国制覇に喜びを爆発させた東山 [写真]=佐々木啓次
フリーライター

準決勝後に明かした大澤コーチの覚悟

「(優勝が決まった)あの瞬間というのは味わったことのない体験でした。本当にうれしいの一言に尽きますね。選手たちがあれだけ一生懸命コートの中で頑張る姿を間近で見ることができて、今日(決勝)は東山らしさの出たバスケットだったのではないかと思います。すごく最高の景色でした」

 8月9日、「令和6年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の決勝を78ー62で勝利し、インターハイ初優勝に輝いた東山高校(京都府)の大澤徹也コーチは、日本一の感想を語った。

 瀬川琉久(3年)、佐藤凪(2年)と、昨年からスターターを務めるポイントゲッターたちを擁し、今年も優勝候補の一角に挙げられていた東山。第3シードで2回戦から登場すると順調に勝ち上がり、一つ目の山場といえる福岡第一高校(福岡県)との準決勝を迎えた。

 その準決勝では硬さの見られた第1クォーターこそ8-17とビハインドを負ったものの、第2クォーター以降に追い上げ。対策してきた福岡第一のプレスディフェンスに対するボール運びでも落ち着いた動きを見せ、攻めては気持ちのこもったプレーで佐藤が23得点。また、小野寺星夢、南川陸斗(ともに3年)らも積極的なプレーで加勢し、最後は68ー52で競り勝った。

選手の腕には喪章代わりの黒のラバーバンドが付けられていた [写真]=佐々木啓次


 これで昨年大会に続いて2年連続、ウインターカップを含めると5度目の決勝進出となった東山。準決勝後、過去の4度、決勝で敗れている大澤コーチは、優勝に関して問われてこのように語った。

「何度も何度も(決勝を)経験して、乗り越えなくてはいけないところで選手たちよりも僕が気負っていました」

 そしてこう続ける。「でも、今回は負けられない理由が僕にできたんです。8月1日に田中(幸信)先生、僕の恩師が亡くなって。そういった状態で(インターハイに)来ていて、だからもう覚悟は決まった。今回は負けられないので、悩むことも、気負うこともまったくないです」

 田中氏は東山の前コーチで、大澤コーチの洛西中学校(京都府)、東山高校の恩師でもある。それこそ、大澤コーチが大学卒業後に母校にコーチとして赴任したのは田中氏の誘いがあったからで、2020年に田中氏が同校のコーチを勇退するまでタッグを組んできた。

決勝戦では東山らしい戦いで勝利

 迎えた美濃加茂高校(岐阜県)との決勝戦。東山は第1クォーターこそリードはわずか2点だったが、第2クォーター以降はアグレッシブな攻めで主導権を握り、4人が2ケタ得点。最後も追いすがる美濃加茂を退けて頂点へと登り詰めた。

「第1クォーターの点数自体は離れていないですが、(試合の)入りは良かった。いつも通りにうちのバスケットができたのではないかと思います」と、大澤コーチは決勝戦を振り返った。さらに、「ブレない心というか東山といったらこれだよねというオフェンスが1、2回戦では鳴りを潜めたのですが、決勝は長所がすごく見えたと思います」と、大会を勝ち抜いた要因にも触れた。

 5度目のチャレンジでつかんだ優勝。かつて岡田侑大京都ハンナリーズ)や米須玲音(日本大学4年)らは決勝で悔し涙を流してきた選手たちだ。「気負っていたときは(選手に)本来の力を発揮させてあげられなかった。今まで東山を選んでバスケットをしてくれた選手たちが残してくれたものはすごく大きくて、そういったこともすべて含めてつかんだ優勝だと感じます」と、大澤コーチはOBたちへの感謝の言葉を口にした。

 特別な思いで臨むこととなった今年のインターハイだが、大澤コーチのもとに恩師の急逝の報が入ったのはインターハイに向けて出発する日のこと。「(亡くなった翌日の)2日はもう上の空でした。実感もなくて。寂しい思いもあるし、でも戦わないといけないし」と、大澤コーチの心境は複雑だったという。

 一方、選手に関しては、「田中先生は今でもポイントで教えに来てくれていたので、選手たちにとっては良いおじいちゃんのような感じで、すごくいい関係で教えていただいていました。だから、選手たちに背負わせるわけにはいかないけれど、他の人から聞くより、僕から伝えた方がいいと思って(ダブルキャプテンの)松島慎弥(3年)と瀬川に伝えました。そうしたら選手みんなでミーティングをして、黙とうもしてくれた。『先生、大丈夫ですか?』と聞いてきたりと、彼らはしっかりしていました」と、当時のことを教えてくれた。

 大澤コーチは指導者としての優勝は初となる。これまで決勝では高い壁にはばまれ、中には悔しい逆転負けも経験してきた。それだけに決勝後は「長かったぁ」と、喜びを噛み締めた。

「悔いが残るのは田中先生が生きている間に(優勝の景色を)見せてあげられなかったこと。本当に田中先生の力は大きかったと思います。それがなかったら勝てないのかとまた田中先生に怒られそうですが、しっかり優勝カップを見せに行きたいですね」

 どんな敗戦にも屈せず頂点へと挑み続けてきた大澤コーチ。今夏の戦いは、そんな教え子の背中を恩師がそっと押してくれたのかもしれない。

試合後のインタビューでは涙を止められなかった [写真]=佐々木啓次


文=田島早苗