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溢れ出る感情を抑えることができなかった。優勝へのカウントダウンの中、エースで司令塔の瀬川琉久(3年)はボールを大きく投げ上げた。程なく、試合終了のブザーが鳴り、瀬川をはじめとする東山のメンバーが喜びを爆発させた。
8月9日に行われた「令和6年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」男子決勝は、ともに全国タイトル初制覇を目指す美濃加茂高校(岐阜県)と東山高校(京都府)が対戦した。一進一退の第1クォーターを終えると、第2、3クォーターにリードを広げた東山が優位に試合を展開。第4クォーターでは美濃加茂の反撃を振り切り78−62で勝利、東山が初の日本一に輝いた。
昨年のインターハイでは準優勝、ウインターカップでは優勝した福岡第一高校(福岡県)に残り25秒のところで逆転を許し、ベスト8に終わった。結局、優勝には手が届かなかったが、昨年からスタートを務める瀬川、佐藤凪(2年)を擁する東山は優勝候補の一角として注目を集めていた。
前評判どおり、東山は4月に行われた飯塚カップで優勝を果たす。しかも参加チームは今シーズンの高校バスケ界をリードすると予想されている開志国際高校(新潟県)、福岡大学附属大濠高校(福岡県)、そして福岡第一の3校。東山はこの大会を全勝優勝した。
しかし、5月のゴールデンウィークに開催された能代カップに出場した際、大澤徹也コーチの表情は冴えなかった。「調子の波が一定しない。自分たちのバスケができれば強いけど、そうでないときに脆さが出る」。夏のインターハイに向けてチーム作りが順調に進んでいないことに頭を悩ましていた。
その原因の一つに瀬川の不在があったとも言えるだろう。瀬川は2月にNBAオールスターが開催されたインディアナポリスで開催された「バスケットボール・ウィズアウト・ボーダーズ・グローバルキャンプ」に日本代表として参加、3月末にはU18日本代表の一員としてドイツ遠征へ。5月には日本代表のディベロップメントキャンプに高校生として選出され、Bリーガー、大学生と汗を流した。その他、個人的に海外へ赴いたりと多忙を極めたと言える。
大澤コーチは瀬川の不在をチーム作りが遅れている原因とは言わなかった。逆に期待したのが、瀬川以外のメンバーの成長だ。それが見え始めたのが近畿大会。瀬川とダブルキャプテンを組む松島慎弥(3年)を中心とするセカンドユニットが躍動することで勝つだけでなく、試合内容にも満足できるものが出てきた。大澤コーチも手ごたえを感じていた。
決勝戦が終わったあとの取材で瀬川は「自分が不在の間に一番成長したと思ったのは凪です。そして、チームを支えてくれたのは凪と(松島)慎弥(3年)だと思っていて、この2人は僕がいない間に本当に成長したなと思っています」と、手放しで喜んだ。
対して松島は「(瀬川)琉久が代表活動などで抜ける時間がいっぱいありましたが、その中で琉久以外のメンバーが成長することでチームの底上げにもなるし、琉久へも刺激を伝えられることができるので、その時間をみんなで大事にしようと話をしていました」と振り返る。
「今大会でも小野寺(星夢/3年)がいい仕事をしてくれました」(松島)とセカンドユニットの1人、小野寺が決勝戦で3本の3ポイントを含む15得点をマークするパフォーマンスを発揮。そして、「僕と南川(陸斗/3年)が泥臭いプレーを徹底できました」と胸を張った。
松島は瀬川について「頼りになる存在ですね。ダブルキャプテンですが、チームに一番大きな影響を与えられるのが琉久なので。あいつの一言だったりがチームにプラスに働くので助かっています」と信頼を寄せる。
インターハイは終了した。選手たちの目は日清U18トップリーグ、そしてウインターカップに注がれる。夏を制した東山であっても成長を止めてしまえば、ライバルたちの後塵を拝することになるのが常だ。今年も高校バスケから目を離すことはできない。
文=入江美紀雄