2019.04.09

八村塁の言葉でたどる成長の軌跡(前編)『英語習得、エースへ成長、ゴンザガ愛への塁語録』

八村塁が過ごした飛躍のシーズンを自身のコメントで振り返る [写真]=小永吉陽子
スポーツライター

 八村塁の大学3年目のNCAAトーナメントは、エリート8でテキサステックに敗戦して幕を閉じた。2年前に進出したファイナル進出の成績を超えることはできなかったが、八村自身は全米にその名が知れ渡り、徹底マークを受ける選手へと飛躍を遂げるシーズンになった。その背景には、語学を習得し、コーチやチームメイトから信頼を得て、ひとつひとつの経験を積み上げて自信をつけていったゴンザガ大での3年間がある。

 この1年、八村を取り囲む取材では必ずといっていいほど、NBAのことが質問にあった。しかし本人が目標としてNBAについて語ることがあっても「僕の耳にもドラフトがどうとか、いろんな話が入ってきますけど、僕はこのチームでプレーするのが好きなので、いま心がけているのは自分のやるべきこと、チームの目標に集中するだけ」という発言を繰り返すだけだった。そのチームの目標がNCAAトーナメントでのファイナル4進出であり、その先の全米制覇だった。

 それだけに、トーナメントに懸けていた思いは大きく、敗れた直後には「生まれてはじめて」という悔し涙があふれて止まらなかった。この涙の意味は、負けた悔しさや、大好きなゴンザガでのシーズンが終わってしまう喪失感など、様々な思いが詰まったものだった。大舞台で懸命にプレーしたからこそ見えた課題も明白になり、今後さらなるステップアップを目指す八村にとって、成長の糧となる涙になったはずだ。

 ゴンザガと日本代表のエースへと躍進を遂げたこの1年。日本とアメリカで発した言葉の数々から八村塁の『成長の軌跡』をたどり、記録しておきたい。前編は自身が感じたゴンザガでの成長について紹介しよう。

ゴンザガ大での成長

★大好きなゴンザガ大ブルドッグスはどんなチーム?

八村が「一言で楽しいチーム」と語った今シーズンのゴンザガ大学。八村はチームリーダーに成長した [写真]=小永吉陽子

 一言で言うと楽しいチーム。本当にこのチームが好きですね。僕、こっちに来た頃、ゴンザガの練習を見たときにビックリしたんです。チーム内で言い合いをするようなケンカが始まったり、それがしょっちゅうで、みんな練習でも試合でも言いたいことを言う。でも、そうやってケンカみたいのをして、だんだんチームワークが良くなっていくのが楽しかった。バスケ以外でもチームメイトと一緒にいることが多いし、バスケ以外もすごく楽しいチームです。

 バスケに関しては、アメリカではあんまり背が大きいほうではないですけど、僕とBC(ブラントン・クラーク)の4番と5番が動けて、4年生のジョシュ(パーキンス)がコートの中でも外でもリーダーになってくれたので、みんなが司令塔のジョシュについていって、どこからでも走れて点が取れるのが持ち味。どこからでも攻める中でボールをシェアするので、チームワークが僕たちの誇りです。お互いを信じ合っていたので、いいシーズンになったんだと思います。

★プレー向上の裏にある語学習得の努力
 英語が話せるようになったことは、絶対に自分のプレーの上達につながっています。1年生のときは「まったく」だったけど、2年生では「だいたい」でやっていて、3年生になって「ほぼほぼ」何を言っているかわかりますし、コミュニケーションも取れるようになり、自分のやりたいことを意見として出せるようになりました。3年生になってからは「チームの中心選手としてリーダーとしてやってほしい」とコーチたちに言われているので、そうなると声をかけていかないといけないので、語学が上達したことが役に立っています。

★大学で得た自信と成長
 1年生のときから辛いこと、楽しいこと、いろいろあったんですけど、いろいろな経験をしたので自分の持ち味ややるべきことがわかるようになって自信がついてきました。1年生の時はわからなかったことも、3年目の今ならコートで何が起きているかだいたいわかるので、今では言いたいことをチームメイトに言えるようになりました。これまで僕にいろいろ教えてくれたコーチやチームメイトに感謝していますし、ゴンザガに来て本当に良かったと思う。

英語習得によりコミュニケーション力も高まり、取材を受ける表情にも余裕が見られるようになった [写真]=小永吉陽子

★チームリーダーになれているか
 このチームは僕がアグレッシブにやらないと回らないし、試合の中で僕が流れを持ってくることが今まで何回もありました。それに、プレーだけでなく、声をかけることでもリーダーになれていると思います。

★アメリカで伸びたフィジカルの強さと身体の使い方
 アメリカに来て、フィジカルが強くなって、体が大きくなりました。それに、体が大きくなっただけじゃなく、ジャンプ力やディフェンスのフットワークとか、オフェンスでは体の使い方がうまくなったので、今までよりもっと動けるようになったんじゃないかと思います。当たりの強さは日本とアメリカでは全然違うんですけど、でも慣れてくれば、当たりが強い中でもやれます。

日本だけでなく、アメリカでも注目される存在に
 正直、ここまで注目されるとは思ってなかったんですけど、こっちはスポーツの存在が日本よりも大きくて注目を浴びているので、そういう環境にもだんだん慣れてきました。注目されることで責任が出てきたんじゃないかと思います。

日本代表とゴンザガのエースとして背負うものの大きさ
 背負うものの重さは感じるんですけれど、それを感じてもしかたないし、考えてもしかたない。あまり考えすぎると自分のやるべきことが絡まったりするので、そういう重さみたいなものは横に置いといて、あまり考えないようにしています。僕が心がけているのは、自分とチームの目標に向けて、毎日毎日やるべきことをやるだけ。

ゴンザガ大学の応援は熱狂的で知られている。八村は「スポーツの存在は日本以上」と感じていた [写真]=小永吉陽子

取材・文・写真=小永吉陽子

後編はこちら

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