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6月21日から25日の5日間にわたって行われたアメリカ、スペインとの親善試合、日本は0勝6敗に終わった。2016年リオデジャネイロパラリンピックの金メダル、銀メダルチームは、やはり強かった。特に“世界最強国”と言っても過言ではないアメリカとは、現段階では同じステージにはいない。しかし、1年後の東京パラリンピックで史上初のメダル獲得を目指す日本にとって、得たものの大きさは計り知れない。チームには下を向いている者は誰一人いない。あるのは、さらなる過酷なトレーニングへの覚悟と、必ずメダルを獲得するという信念だ。
5日間の戦いを終えて、及川晋平ヘッドコーチはこう述べた。
「メダルを取るということがどういうことなのか、この遠征で具体的に肌で感じとったはず。メダルへの希望が見えた、それを経験することができた遠征になったと思います」
昨年の世界選手権で2点差で敗れたスペインとの試合は、第4クォーターに最も得点力のあるラインナップを起用した第1戦、そして現段階でのベストメンバーで臨んだ第3戦は勝ちにいっただけに、大事なところでの決定力不足が露呈した試合となった。
だが、逆に言えば、世界選手権での“2点差”が単なる“マグレ”ではなかったことが証明されたとも言える。そして、リオで銀メダルを取ったスペインに、9位だった日本が、この3年の間に大きく近づき、そして今、越えようとしている実情がある。
一方、アメリカとの差は、決して小さくはない。特に第2戦は、彼らを乗せた時の怖さを思い知らされた試合となった。日本は、第1戦を踏まえてしっかりとディフェンスを修正してきていた。そのため、アメリカのシュートシチュエーションは、決して楽なものではなかったはずだった。ところが、タフショットさえも見事に決めきる強さが、アメリカにはあった。
だが、第3戦はしっかりと2試合を分析した上で修正を加え、さらにアメリカのスピードにも慣れてきた日本のディフェンスは、明らかに効いていた。一方のオフェンスも、第1戦より第2戦、第2戦より第3戦と、徐々にコート上の5人の連携がどのラインナップでも取れるようになってきていた。
「もちろん、まだまだ。今のままでは勝てないことははっきりとしています」と及川HC。帰国後は、さらに過酷なトレーニングを課すつもりだ。
チームで最もアメリカの強さを知っているのが、香西宏昭だ。数多くのアメリカ代表を輩出してきたイリノイ大学でプレーし、卒業後はドイツ・ブンデスリーガでアメリカ代表クラスの選手たちとしのぎを削ってきた。現在、アメリカの主力であるマイキー・ペイ、ブライアン・ベル、ジェイク・ウィリアムズ、マット・スコットなどは、ブンデスリーガでチームメートやライバルとしてプレーしてきた選手たちだ。
その香西にアメリカとの初戦後に感想を訊くと、彼は開口一番にこう答えた。
「山は高いなと……」
3年ぶりとなったアメリカとの初戦、第1クォーターこそ香西の3ポイントで先制し、食らいついていった日本だったが、第2クォーターは4得点、第3クォーターは香西の3ポイント1本にとどまり、一気に引き離された。
「きれいに整ったバスケットをやってくるなと思いました。ボールプレッシャーもうまいですしね。僕たち日本がやりたいこと、やろうとしていることをすべてやっているのがアメリカ。日本が目指す姿はここだなと。ただ、それだけでは勝てない。アメリカとはまた違う日本独自のものも必要です」
一方、アメリカの強さを再確認したと同時に、香西は自分自身の成長も感じていた。3年前に対戦した時には感じていた速さは、その時ほどではなくなっていたという。
「確かに速いけれど、十分に追いつくなと。アメリカ戦で感じる疲労感も以前とは全然違う。3年前はすぐに肩で息をしていたけれど、今はそういうことはありません。いろんな部分で自分が進化していることを感じられたのはうれしかったですね」
だが、これから日本が登ろうとしている山は高く、そしてその道のりは険しい。そのことを最も感じているのも、世界を知る香西なのかもしれない。しかし、その香西もまた今回の遠征は「失うものなんてない僕たちにとって、この経験はプラスにしかならない」と語る。
1年後に向けて“希望”が見えたという及川HCは、最後の試合を終え、円陣の中で選手たちに向かってこう叫んだ。
「メダルを取るということは、こういうことだ! 忘れずに、しっかりと心にしまっておいてほしい!」
帰国後、さらに過酷な“ベリー・ハードワーク”がスタートする。
文・写真=斎藤寿子