2019.09.19
1990年代のこと。NBAはフィジカルの強さを前面に押し出し、インサイドでは肉弾戦が繰り広げられていた。ペリメーターにおいても、ディフェンダーが激しいハンドチェックを繰り出し、ボールマンに対して厳しいディフェンスを展開。3ポイントは現代のように各チームが数多く放つこともなく、インサイドとミドルレンジを中心に得点を奪い合うゲームが中心だった。
そんな中、2メートルを超えるサイズを持ちながら、ポイントガードのようにボールをスムーズに操り、ボール運びから自らフィニッシュまでこなす選手がコート上に華やかさを持ち込んだ。
90年代に2度の3連覇を達成したシカゴ・ブルズではマイケル・ジョーダン(198センチ)とスコッティ・ピペン(201センチ/共に元ブルズほか)という攻防兼備のオールラウンダーがおり、90年代中盤からはアンファニー“ペニー”ハーダウェイ(元オーランド・マジックほか)やグラント・ヒル(元デトロイト・ピストンズほか)といった2メートルを超えるアスリートが頭角を現したのである。
ペニーは201センチの長身ポイントガードとして、シャックことシャキール・オニール(元ロサンゼルス・レイカーズほか)と共にマジックのけん引役となり、リーグに旋風を巻き起こした。鮮やかなボールさばきで司令塔役を務めたペニーは、ドライブやジャンパー、高さを活かしたポストプレーを中心に平均20得点以上を複数回記録。巧みなステップワークとフェイクは観る者を魅了し、リーグ屈指の人気選手に。
203センチのヒルはスモールフォワードというポジションではあったものの、自らボールを保持し、抜群のファーストステップとクイックネスを武器に華麗なドライブで得点を量産。アウトサイドシュートこそ苦手としていたものの、クロスオーバーやヘジテーションドリブルで相手ディフェンダーを抜き去り、リング下やミドルレンジから得点を重ねつつ、リバウンドやアシストなどオールラウンドなプレーでリーグ有数の選手へと上りつめた。
しかしながら、ペニーは90年代後半に膝を痛め、ヒルは2000年のプレーオフで足首を負傷。そこから徐々に両者は輝きを失ってしまう。キャリア中盤以降はどちらかと言うとロールプレーヤーとして活躍してきたものの、両者が全盛時に見せた魅力あふれるプレーは今でも強烈な印象を残している。
そんな中、ペニーとヒルが現代NBAに与えた影響について、バスケットボール殿堂入りを果たした名司令塔が発言していたので紹介したい。
男の名はアイザイア・トーマス(元ピストンズ)。80年代から90年代中盤にかけてポイントガードとして活躍したトーマスは、89、90年にピストンズを2連覇へと導き、キャリア平均19.2得点9.3アシスト1.9スティールを誇るレジェンドである。
5月30日(現地時間29日)、『NBA TV』の“Open Court”に出演したトーマスは、自身が現役の時に「ペニーやヒルのように2メートルを超える身長がありながらボールハンドリングに優れ、アスリート能力を持った選手はいなかった」と切り出し、このように続けた。
「マジック(アービン“マジック”ジョンソン/元レイカーズ/206センチのポイントガード)には身体能力こそあったが、クロスオーバードリブルはなかった。そこで(私が引退後に)ペニーとヒルがNBAに入ってきたんだ。彼らは私がこれまで見てきた中で、ベストなアスリートの2人だったよ。当時、あの2人のようなサイズでボールハンドリングスキルを持った選手はいなかった」。
ペニーについては、大学時代に1992年のバルセロナオリンピックへ出場した初代ドリームチームと練習試合を行った際、マジック自身が「まるで鏡で自分を見ているようだ」と絶賛するほど、注目を集めていた有望株。ヒルについても現代で言えばレブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)のようなオールラウンドなプレーを繰り出し、トリプルダブルを量産。
トーマスからすると、現代でプレーしている選手たちは、ペニーとヒルがケガをしていなければ両選手が熱望したようなプレーを見せているのかもしれないという。
「もしあの2人がケガをしていなければ、現代のNBAは異なったスタイルの選手たちばかりになっていたと思う。彼らがなりたいと想像する選手像が、まったく変わっていたはずだから」とトーマスは自身の考えを口にした。
今季のNBAで、2メートルを超えるサイズで先発ポイントガードを務めたのは、208センチのベン・シモンズ(フィラデルフィア・セブンティシクサーズ)のみ。198センチのスペンサー・ディンウィディー(ブルックリン・ネッツ)や新人シェイ・ギルジアス・アレクサンダー(ロサンゼルス・クリッパーズ)といった長身ポイントガードはいるものの、ペニーやヒルの系譜はフォワードの選手に見てとれる。
203センチのレブロンや201センチのカワイ・レナード(トロント・ラプターズ)に加え、パワーフォワードやセンターでもおかしくない身長を持つケビン・デュラント(ゴールデンステイト・ウォリアーズ/公称206センチ)、ヤニス・アデトクンボ(ミルウォーキー・バックス/211センチ)がフロアを駆け抜け、コート上ですべてをこなしている。ペニーやヒルが全盛時だった頃の役割を遂行する現代の選手たちは、さらに大型化していると言っていいだろう。
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