2024.03.21
ネブラスカ大学でプレーする富永啓生の目覚ましい活躍が日本でも報道されるなか、NCAAは「マーチ・マッドネス」を直前に控え、佳境の入口に立った。アメリカ大学バスケットボールの競争力の高さは言わずと知れたことであり、名門校でも成功が確約されているわけではない。
デマー・デローザン(シカゴ・ブルズ)やエバン・モーブリー(クリーブランド・キャバリアーズ)などを輩出した南カリフォルニア大学(USC)は、非常に厳しいシーズンを過ごし、NCAAトーナメントの出場権を逃した。今シーズン終了に伴い、選手たちは進退の決断を迫られているが、高校時代に世代最上位の実力者として評価を受けていたアイザイア・コリアーは、2024年のNBAドラフトにアーリーエントリーすることが予想されている。
同大にはもう1名、大きな関心を集めている選手がいる。それは、レブロン・ジェームズ(ロサンゼルス・レイカーズ)の息子ブロニー・ジェームズである。父が息子との共演を熱望しているなか、ブロニーは2023年7月のワークアウト中に心臓発作を発症し、5カ月ほどコートを離れていた。そして、チームに復帰して以降は、ベンチから1試合平均19.4分の安定した出場機会を与えられ、同4.8得点2.8リバウンド2.1アシストを記録。成績はお世辞にもワン・アンド・ダンをイメージするようなものではなく、『Klutch Sports』のCEOとして長年にわたってレブロンのエージェントを務めるリッチ・ポール氏も、ドラフトの予想順位より、正しい成長を見込めるチームからの関心を重要視しているとコメントした。
もし仮に、ドラフトエントリーを希望するのであれば、4月24日(現地時間23日)までに宣言をする必要があるが、実際にNBA球団はブロニーをどのように見ているのだろうか。『ESPN』は匿名を条件に、リーグのエグゼクティブに対して率直な感想を求めた。
イースタン・カンファレンスのとある球団幹部は、大学に戻ることを勧めている。以前はモックドラフトでトップ20付近に選出されることもあったブロニーだが、彼の所属する球団はその評価に否定的だった。具体的な役割が見えず、ハーフコートゲームでの起用法についても明確なビジョンが沸かないほか、ディフェンスでもアタックの標的となり、スピードのあるガードには苦戦を強いられるとの見解を示した。
何より、思うようなシーズンスタートを切れなかったことも大きい。肉体的、精神的には成熟している一方で、スキルならびにシュートについて及第点以下との評価。「大学のコーチたちはシーズンでの成功を求めているため、オフシーズンはかなりスキルを磨けるはずです。ジムで多くの時間を費やし、成長して、USCでさらに1年を過ごせば、今年エントリーするよりも明るいキャリアを送れるかもしれません」とし、父親や代理人との相談があるとはいえ、焦る必要はないとの意見を述べた。
もう1名のイースタン・カンファレンス・エグゼクティブも、評価は辛口だ。
並々ならぬ重圧と直近のコンディション不良を踏まえると、ブロニーは堅実かつ素晴らしい仕事をしており、2023年に参加したマクドナルド・オールアメリカンでも、同世代のスター選手たちを相手に15得点をマークし、自身の真価を示した。だが、身長193センチは、NBAのウイングでプレーするには攻守ともに若干のサイズ不足が否めず、活躍している選手は限られている。同幹部は待ち受ける茨の道を乗り越えていくために、選手キャリアの観点から大学へ戻ることを推奨しており、「健康が安定し、1年間集中してトレーニングできれば、期待という重荷の下りた彼はのびのびとプレーできるかもしれません。劇的な軌道修正になるとは思えませんが、想像以上にいい年になるでしょう」とエールを送った。
また、この幹部が所属する球団は、レブロンとブロニーのペアリングについても前向きではない。40歳にしてオールスター級のトップコンディションを維持していることについては舌を巻いているものの、“キング”の年齢がチーム作りに大きな影響を及ぼすのは事実。レブロンを在籍させるためにはロスターバランスをはじめ、多くの犠牲を伴い、「勝利の傍らには数々の“副産物”が発生するだろう」とリスクを提示した。
ウェスタン・カンファレンスの幹部は、ブロニーがほかの選手よりも厳しい目で見られることについて「少し気の毒に感じています」と言及。同氏は、ブロニーがもともと世代のトップ5に入る選手ではなかったこと、心臓発作の危機に直面して合流と調整が遅れたこと、USCが想像より機能しなかったことなどを例に挙げ、プロの視点からは過大評価も、過小評価もされていないと考える。
また、現時点におけるブロニーの実力はエースとはほど遠く、優れた選手たちを周りに置いてこそ魅力が発揮されるという。このエグゼクティブの見解では、彼はスマートなロールプレーヤーであり、守備に重点を置いた賢いパサーとしての未来を想像しているようで、サイズがない分、IQとスキルへの依存は避けられないとした。
さらに、結果論ではあるが、4カ月の成長と適応を逃して、機能していないチームの中央に送り込まれたことを考慮すると、バスケットボールの視点ではプレーがマイナスになったとの意見もあった。既出のエグゼクティブと同様に、大学に戻って丸々オフシーズンを過ごすのは、大きなチャンスと捉えており、1年目から2年目にかけて飛躍した例や、プレータイムが与えられる序列の優位性にも言及。USCのチームメートであるコリアーや、ブーギー・エリスがNBAに向かうことでアイソレーションへの依存度も低まり、5人の流動的なボールムーブメントが求められるようになれば、ブロニーの活躍の幅も広まる見込みだ。
以上のように、NBA内部の重役たちは、満場一致でブロニーに大学への帰還を推奨している。不幸にもタフな1年を過ごしたからこそ、オフで実力と自信をつけ、2シーズン目に臨むのが懸命との総意だ。
今シーズンの活躍からすると、レブロンの現役生活もあと数年は確実と見る。信頼できる父がいるからこそ、ブロニー自身も「急がば回れ」と心の中で言い聞かせているかもしれない。
文=Meiji
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