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『B MY HERO!』
2008年北京以来、3大会ぶりのパラリンピック出場となった女子日本代表は、12人中9人が初出場。さらに18年世界選手権の出場も逃しているチームにとって“世界一決定戦”自体が、7年ぶりという状況だった。そんななか、しっかりと決勝トーナメント進出を果たし、メダルゲームまであと一歩に迫る6位という成績は大健闘に値する。これまでとは明らかに異なる姿を見せたチームの戦いを振り返りたい。
15年以降、公式戦での勝利に飢え続けてきた女子日本代表。そんなチームにとって、今大会の初戦となったオーストラリア戦は、まさにその後を占う意味でも重要な試合だった。あえて厳しいことを言えば、現在のオーストラリアに勝てないチームがメダルを口にすることは憚れる状況だったと言っても過言ではなかったからだ。
9位に終わった18年世界選手権を機に、オーストラリアは完全に24年パリ大会へと舵を切っている。世代交代が進み、19年には同年に開催された女子U25世界選手権で準優勝に導いた指揮官が、A代表のヘッドコーチを兼任するようになったことからも、それは明らかだ。
ところが、19年アジアオセアニアチャンピオンシップスでは、そのオーストラリアに3戦全敗を喫した。チェアスキルやシュート力など、チーム全体での実力は確実に日本の方が上回っていた。しかし、17年以降続いていた実力を本番のコート上で発揮できないという課題を克服できずにいたのだ。
だからこそ、東京パラリンピックの初戦に選んだオーストラリア戦を勝ち切って終わらなければ、メダルへの挑戦が始まらないことはチームの誰もが感じていたことだろう。コロナ禍の1年半でクラス分けの問題などもあり、19年AOCからさらに主力が抜け、HCも何らかの事情で男子の指揮官が兼任するという状況のオーストラリアに負けるわけにはいかなかった。
結果は、73対47という圧勝だった。いくらチームビルディングが道半ばのオーストラリアとはいえ、これだけの大差、しかも70点台というハイスコアでの勝利は日本の実力の高さを示すのには十分だった。同じくグループリーグでオーストラリアと対戦した世界選手権2位のイギリス(75点)、同3位のドイツ(77点)、アメリカ大陸選手権覇者のカナダ(76点)と比べても遜色ないオフェンス力だったと言えるだろう。
そのオーストラリア戦で、最も日本らしさが見えたのは、速攻からの得点の多さだ。大会通算では全6試合で49得点、1試合平均8.2点を速攻から叩き出した日本。これはオランダ、カナダに次ぐ3位の数字で、そのうち16点をオーストラリア戦で決めている。
その余勢を駆って、第2戦では18年世界選手権で銀メダルを獲得したイギリスからも勝利を挙げた日本。そして敗れはしたものの、これまでの日本にはなかった強さを見せたのが、グループリーグ最終戦のドイツ戦だった。
これまでは「スレット」と呼ばれる最も警戒すべき選手への対策を重視するディフェンスをしてきた日本。しかし、それだけではスレットの選手にジャンプアップした際にできる“隙間”を狙われ、ローポインターにピックアンドロールでシュートを決められることも少なくなかった。逆にそのピックアンドロールを警戒すれば、アウトサイドからのシュートへのチェックが甘くなってしまう。
そんなジレンマに陥ることも多かった日本だが、このドイツ戦ではそれがなかった。その要因は、5人の統率のとれた“ローテーション”が見事に決まっていたからにほかならない。ボールサイドでの2対2のシチュエーションでアウトサイドからシュートを狙うハイポインターに対し、ダブルチームのような状態になった際、その隙をついてインサイドにカットインしようとするローポインターをトップの選手が素早く止める。すると、オフサイドの1人がトップへ、さらに3人となったボールサイドの1人がオフサイドへと素早く移動するのだ。
これは、言うは易く行うは難しだ。5人の息が合わなければならないことはもちろん、1人1人が頭で考えるよりも先に体が反応するというレベルに達しなければ成立しないテクニックだ。
延期となったこの1年半、多くの女子日本代表選手から聞こえてきていたのは「“合わせ”が良くなってきた」という言葉だった。ローテーションは、その1つであり、最重要課題とされていたに違いない。
惜敗となったドイツ戦は、日本がリードしていた時間は、36分間。一方、ドイツがリードしていたのはわずか35秒間だった。最後の最後、40分が経過した時にリードしている状況をつくるには、何が必要なのかは今後の課題だろう。だが、このわずかな差まで来たことこそが、成長の証であることは間違いない。
もう1つ挙げたいのは、修正能力の点だ。たとえば最後の5、6位決定戦は、グループリーグでも一度対戦していたカナダとの再戦だったが、49対68で敗れた。しかし、同じ敗戦でもグループリーグとは内容が全く違っていた。例えば、速攻からの得点はグループリーグでは6点だったのに対し、最終戦は17点にまでアップしている。さらに相手のターンオーバーからの得点も、8点から17点へと激増。いかに日本のディフェンスがカナダを手こずらせていたかがわかる数字だろう。
これまでの日本は、連戦の中での修正がなかなかできずに、悪い流れを引きずったまま大会を終えることも少なくなかった。しかし、今大会では修正能力の高さがうかがえる試合がいくつもあった。こうした経験を積み重ねていくことが、今後の勝利につながっていくはずだ。
長らく世界から遠のいていた日本にとって、まずクリアすべきハードルは、世界の舞台に上がり、勝負することだったはずだ。そして東京パラリンピックでは、そのレベルに達していることがしっかりと証明された。13年の時を経て、ようやくスタートラインに立った女子日本代表。勝負はここからだ。
文=斎藤寿子