2021.05.23
思い返すと、その幕開けは実に印象的なものだった。2016年9月22日、他カードに先駆けて国立代々木競技場第一体育館で開催されたリーグ最初の公式戦だ。コートにLEDパネルを敷き詰めるという史上初めての試みがなされ、9000人を超える観衆が集まったことも話題になったが、その顔合わせも同様に大きな注目を集めた。かたや旧NBLから、屈指の強豪として何度も頂点を極めてきたアルバルク東京。そして旧bjリーグからは、直前の2015-16シーズンを含むリーグ最多の4度の優勝を成し遂げた琉球ゴールデンキングス。過去に多数の日本代表選手を輩出したA東京はエリート軍団と称され、一方の琉球は雑草軍団と例えられた。それぞれのリーグを代表したチームでありながら対照的なカラーを持つ両者が開幕カードに選ばれたことを覚えている人も多いはずだ。
それから約4年半の月日が流れ、その間にA東京は2度のリーグ制覇を果たし、思いがけず途中で打ち切りとなった昨シーズンもリーグ全体の最高勝率を残すなど、Bリーグでも強烈なインパクトを残している。一方の琉球はというと、リーグ初年度の2016-17シーズンはA東京との開幕カードで連敗を喫し、その後レギュラーシーズン最終戦の劇的勝利でチャンピオンシップの8つ目のイスに滑りこんだとはいえ、そのCSではクォーターファイナルであえなく敗退。しかし、無念を晴らすべく積極補強に動いた翌シーズンからは3シーズン連続で西地区優勝と、今やその強さはすっかり安定した。
そこに至るまでには紆余曲折もあった。日本代表クラスの選手の獲得は血の入れ替えを意味し、チームの歴史を紡いできた選手の多くが退団。今では、リーグ初年度の開幕戦の舞台を経験しているのは岸本隆一と田代直希だけになった。さらに、積極補強で獲得したはずの選手もほとんどが1シーズンないし2シーズンでチームを去り、昨シーズンには、チームを2シーズン連続地区優勝に導いた佐々宜央ヘッドコーチがシーズン途中で退任するという出来事もあった。ここまで順調にきているかというと、必ずしもそうとは言いきれない。
それでも、従来の3地区制から2地区制に再編されて迎えた今シーズンもシーホース三河以下9チームを抑えて西地区首位の座を堅持。琉球以外に3シーズン連続地区優勝を達成したチームはないが、その記録をさらに伸ばす可能性が高い。
そして、地元・沖縄出身であり、bjリーグ時代と合わせて9シーズン目となる生え抜きの岸本は、リーグ全体を見渡しても数少ない、フランチャイズプレーヤーと呼ぶにふさわしい選手の1人。得意の3ポイントシュートは年々進化し、ステップバックスリーやディープスリーといった世界のトレンドもいち早く取り入れた先進派だ。何よりもチームにとって心強いのは、ハードスケジュールのBリーグで最初の3シーズンの全試合に出場した頑健さ。昨シーズン終盤に潰瘍性大腸炎という大きな病を患って戦線離脱したが、オフの間にしっかり治してみせ、今シーズンも現時点で全試合に出場している。もはや岸本の存在そのものが、琉球が苛烈なリーグ戦を戦う上での大前提にまでなっていると言っても過言ではない。
改めて今シーズンのここまでの成績をひもとくと、チームは第27節を終えた時点で34勝10敗。同一カード連敗を喫したのは開幕節の宇都宮ブレックス戦だけで、その後はただの一度も連敗を喫していない。同じ西地区でスタートダッシュを切った三河をシーズン中盤に追い抜くと、その後は着実にその差を広げ、地区内の対戦に限れば20勝4敗と圧倒的な成績を残している。また、個人でも岸本は3ポイントシュートの成功率が38.6パーセントでリーグ13位、フリースロー成功率は規定数に達していないが87.2パーセントという高確率だ。田代も3ポイントシュートで規定数不足ながら成功率は40.5パーセントと岸本を上回る数字。岸本は18試合、田代は19試合で2ケタ得点をマークし、1試合平均82.0点という琉球の得点力の一翼を担っている。
チームが4シーズン連続の地区優勝とその先にあるリーグ初制覇に向けて突き進む中、岸本と田代の2人にとっては前述したBリーグ初年度の開幕戦が少なからず原点になっているはずだ。Bリーグ3シーズン目の2018-19シーズン、ディフェンディングチャンピオンのA東京をアウェーの地で撃破した際に岸本はこんなことを語っている。
「今はもう雑草軍団ではないかもしれないが、エリート軍団ではない。僕は琉球の在籍年数も長いですし、チームへのプライドも持っている。(エリートと言われていた相手に対し)今日勝てたことは感慨深い」
あの開幕戦を「いろいろと背負い込みすぎて、できれば2度とああいあう環境ではやりたくないと思っていた」という岸本も、その後の2年間で「もう1回晴れやかな大舞台に立ちたいと思えるようになった」とのこと。「自分たちの力を証明したいし、リアルに大舞台に立つ姿を想像できる」という想いは、結局そのシーズンではCSセミファイナルでA東京に屈して叶わなかったものの、さらに進化した姿を見せている今はより現実的な目標として視野に入っているに違いない。
新型コロナウイルスという目に見えない敵とも戦いながら、快調に白星を積み重ねている今シーズン。琉球、そして岸本と田代はこの勢いを殺すことなくチャンピオンシップに向かって走り続ける。
文=吉川哲彦
※順位・記録は3月23日現在のもの
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