2022.04.06

成長と勢いが生んだ下剋上…走り続けたシャンソンが5シーズンぶりのベスト4へ/WリーグPO

5シーズンぶりにベスト4へコマを進めたシャンソン化粧品[写真]=W LEAGUE
スポーツライター

若いチームがつかんだベスト4の座

 若いチームのシャンソン化粧品シャンソンVマジック(リーグ6位)が、皇后杯準優勝のデンソーアイリス(リーグ3位)を81-71で下す下剋上を果たした。シャンソンのセミファイナル進出は5シーズンぶり。40分間走り続ける機動力を全面に出しての勝利だった。

 出足こそ拮抗した展開だったが、先に主導権を握ったのはシャンソン。開始5分で野口さくらがファウルトラブルに陥るものの、交代したルーキー佐藤由璃果の体を張ったディフェンスや千葉歩の思い切りのいいプレーで流れをこじ開けていく。第2クォーターに入ると吉田舞衣の連続3ポイントで突き放しにかかり、司令塔の小池遥とディヤイファトーの2対2が面白いように決まる。デンソーはシュートがリングを弾き、インサイドにもボールが入らず、前半でまさかの16点のビハインドを負ってしまう。

 後半に入ってもシャンソンの勢いは止まらない。ファトーが本川紗奈生のシュートをブロックし、そこから佐藤が走ってバスケットカウントを奪うと、その直後にはプレーオフに入って好調の吉田が3ポイントを決めて55-36。19点差へとリードを広げたこのシーンは、シャンソンの勢いを象徴していた。

 それでもデンソーはゾーンディフェンスで応戦し、スピードのある高橋未来を投入して追い上げを図る。髙田真希や赤穂さくらのシュートが決まり10点、8点と徐々に点差を詰めていくが、これを断ち切ったのが小池とファトーのホットラインだ。終盤には千葉のドライブと佐藤がバスカンでねじ込んでとどめを刺した。

小池とファトーのホットラインは大きなインパクトを残した[写真]=W LEAGUE

難しかったコロナ陽性判定後の調整

 シャンソンは司令塔の藤岡麻菜美が欠場したこともあり、小池、ファトー、吉田の3人はフル出場だった。だが、そうしたスタミナ面での苦しさよりも、自分たちがやってきたチームプレーを披露することが楽しくてしかたない。そんな躍動感がコートから溢れ出てくるような『今シーズン一番』の出来だった。吉田は「無我夢中でした」と表現したが、これが伸び盛りの勢いというものだろう。デンソーのマリーナ・マルコヴィッチヘッドコーチもその成長ぶりを讃えていた。

「シャンソンは序盤に2勝した相手だけど、若いチームなのでシーズンを通して成長するだろうと思っていましたが、実際に成長を遂げていました。勝利を讃えたいです」

 マルコヴィッチ体制2年目の今シーズンは、選手たちの経験値も高まり、今まで以上にスピードあるオフェンスとアグレッシブなディフェンスを強調してチーム作りをしてきた。しかし、プレーオフでは後手に回ってしまった。その原因について指揮官がみずから切り出した。

「正直に言って、今言えることは一つだけです。シーズンの大事な時期にコロナの影響を大きく受けてしまい、難しい状況を乗り越えることができませんでした。準備の時間が奪われたのは事実で、コロナの影響を受ける前の状況には戻りませんでした」

 デンソーは3月16日と18日の2回にわたり、選手12名とスタッフ2名、計14名が新型コロナウイルスの陽性判定者となったことを発表している。3月27日には回復して試合に臨んだが、ENEOSに完敗。シャンソン戦ではその悪い流れを引きずり、最後までチームは機能しなかった。

「普段から選手には言い訳をしても何も変わらないと伝えていますし、言い訳のように聞こえてしまうかもしれませんが、事実としてこういう難しい事態であったことは、ヘッドコーチとして選手を守るためにも伝えたいです」

最後までチームとして機能せず、苦しい戦いが続いたデンソー[写真]=W LEAGUE

 試合後、デンソーの選手たちは「準備不足」を口にする者は誰一人としていなかった。ただ、調整が難しかったであろうことは伝わってきた。力を出し切れなかったことを受け止めて髙田はこのように語った。

「リードされてもまだイケるという気持ちでやっていましたし、いつもそういう思いでプレーしています。ただ、その気持ちで補えないくらい相手の出来が良くて、自分たちはディフェンスでのいい判断が足りませんでした。それはこの試合で出せなかったというよりも、練習でも起きていたことです。自分たちの技術がヘッドコーチの求める部分まで達しなかった結果だと思います」

シャンソン李HC「選手はもっと良くなる」

 シャンソンにしても、イレギュラーな日程の関係でプレーオフまで約1カ月以上も空いてしまい、試合勘という意味では難しさがあった。ただ、その長い期間を「ディフェンス面で準備できた」と李玉慈HC。実戦から遠ざかったハンデは練習試合でゲーム勘を養い、対策としては「高さの差を補うリバウンドを強調してきた」(李HC)と言う。それが小池、千葉、吉田、大沼らアウトサイド陣が果敢にボールに食らいつく粘りにも表れている。そして大激戦となったセミクォーターファイナルの三菱電機戦を1点差で制したことで、若手選手の自信へと結びついたのだ。

 かつて、第6回、7回Wリーグ(2004、2005年)でシャンソンを連覇に導いている李HC。当時は永田睦子や相澤優子ら日本を代表する選手たちを擁しての優勝だったが、今はポテンシャルを秘めた伸び盛りの選手を指導することにやりがいを感じている。「簡単に勝てないことはわかっていますが、ウチの選手たちはもっと良くなりますよ」と李HCが言えば、司令塔の小池もチャレンジを誓う。「ベスト4が目標でしたがそれは達成できたので、まだまだ上を目指します」。

文=小永吉陽子

伸び盛りのチームはベスト4のさらなる上を目指す[写真]=W LEAGUE