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土壇場で立て直す力は経験の差か――。富士通レッドウェーブが第4クォーターに再逆転をしてトヨタ紡織サンシャインラビッツを跳ねのけ、セミファイナル進出を決めた。
レギュラーシーズンの失点においてリーグ唯一の50点台(58.7失点)を誇る富士通。対してトヨタ紡織も失点61.8点でリーグ3位。手堅いディフェンスを持ち味とする両者の戦いは「ディフェンスの勝負になるので我慢が必要」(BTテーブスヘッドコーチ)「リーグでの戦いを通じてディフェンスが我々の強みになっている」(知花武彦HC)とどちらも譲らない戦いになった。
先手を取ったのは富士通。引き締まったディフェンスでトヨタ紡織のミスを誘い、7本の3ポイント(7/15本)を決めて前半を9点リードで折り返す。だが、後半開始からトヨタ紡織が反撃に転じる。ここで爆発したのは前半に鳴りを潜めていた東藤なな子だ。
「必ず自分たちのリズムが来ることを全員で共通認識を持って戦い、後半開始でそれが来た時に『このタイミングだ!』と思って攻めました。そこで決め切れたことは自信になりました」と語る若きエースが3連続ゴールで流れを呼び込むと、第3クォーター終了時には平末明日香がドライブを決めてチームにさらなる勢いをつける。富士通は5分半もノーゴールで攻めあぐみ、第3クォーターを終了して48−55で7点のビハインドを背負う。
「まだ時間はあったので焦りはなかったけど、HCの指示にこだわりすぎて自分たちのフロー(流れ)を作れていなかったので、自分が入ったらフローを大事にしてゲームコントロールをしようと思った」と言う町田と宮澤がコートに入ったのは残り8分41秒。ここからが富士通の真骨頂だった。
ディフェンスから立て直した富士通は町田の速攻や宮澤のここ一番での3ポイントなどで流れを取り戻す。さらにゲーム終盤でも運動量が落ちずに走り回る町田と篠崎澪の速攻で得点を重ね、第4クォーターはトヨタ紡織を6点に抑える堅守を発揮。やるべきところで仕事をこなす日本を代表する選手たちの意地と底力を見た再逆転劇だった。
敗れたトヨタ紡織の東藤は、プレーオフで得た気づきをこう語っている。
「第3クォーターで自分たちのペースがつかめた時に、もっと自分たちのペースに持ち込んだり、富士通のシュートが入った時にもっと我慢をしてプレッシャーをかけることができればよかった。今までの練習では体感できなかったベスト4になるためのレベルを感じられたのは成長だと思いますが、チャンスをつかむ力が違ったところに富士通との差を感じました」とベスト4への壁の高さを痛感していた。
トヨタ紡織は勝ち点「40」でレギュラーシーズン4位。富士通の勝ち点は「37」で5位。ただし、勝率では17勝3敗(85.0パーセント)の富士通が、16勝8敗(66.7パーセント)のトヨタ紡織を上回る。しかもシーズンの対戦成績では富士通が2勝0敗。プレーオフのシードを逃した富士通だが、新型コロナウイルスの影響で不成立が4試合あっての順位であるため、この勝利はアップセットではない。土壇場で再逆転できたのは、まさしく修羅場をくぐり抜けてきた経験の積み重ねの差だった。
富士通の経験が際立っていたのは、プレーオフに向けてピーキングを合わせてきた宮澤の浮上にも表れている。
宮澤は今年1月中旬からの日本代表の活動の前にヒザを痛めたこともあり、コンディションを作ることが課題だった。3月6日に勝利したENEOSサンフラワーズ戦では19得点、15リバウンドと今シーズン一番の活躍で調子を上げてきたが、その後は試合が中止になったことで、練習で調整するしかなかった。そんな中でセミクォーターファイナルでは、日立ハイテククーガーズ相手に27得点、9リバウンドで勝利に貢献。その活躍ぶりを見た司令塔の町田は、「今シーズンに移籍してきたことで、これまでシューターとして迷っているところがあったけど、今日が一番アース(宮澤)らしいプレーでパスをしていても気持ち良かった。(調子が上がるのが)ちょっと遅かったけど、プレーオフに上がってきて助かりました。チャンピオンを経験していて、自信を持っている選手なのでメンタル面でも心強い」と信頼を寄せている。
宮澤自身、プレーオフにピタリと照準を合わせた要因については「自分を信じること」だと言い切る。
次なる相手は皇后杯の覇者であるENEOS。「ENEOSは勝ち方を知っているけれど、自分たちもこの2試合で自信がついた」とオコエ桃仁花が語るように、リーグ5位から2試合もの激闘を制したタフな経験は、セミファイナルに向けてチームを一つにしている。
文=小永吉陽子