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3月2、3日、千葉ポートアリーナでは「車いすバスケットボール全国選抜大会」が行われた。8回目を迎えた今大会には、強豪6チームが参加した。なかでも大きな変貌を遂げていたのが、今大会決勝までの全4試合を2ケタ差で勝利し、2年ぶりに優勝した埼玉ライオンズだ。これまでとは明らかに違う強さを手に入れたチームの姿に迫る。
近年、日本選手権(2018年より天皇杯を下賜)では毎年のように優勝候補の一角に入るライオンズ。15年は決勝進出を果たし準優勝。17、18年は2年連続で3位と好成績をあげている。
これまでライオンズは、スピードを最大の武器とし、「日本一の得点力」を謳ってきた。だが、今年のライオンズは違う。選手の誰もがまず口にするのが「ディフェンス」だ。実際、試合ではこれまでオールコートでのプレスディフェンスだったのが、一転、ハーフコートでのディフェンスを中心とするバスケへと変わっていた。
最大の要因は、新指揮官として迎えた中井健豪ヘッドコーチの存在だ。中井HCは、日本選手権で過去準優勝3回の強豪NO EXCUSE(東京)を、現在男子日本代表の指揮官を務める及川晋平ヘッドコーチの後を継ぎ、昨年まで2シーズン指揮してきた。そのNO EXCUSEで学んだことを今度はライオンズで発揮していこう、という思いでチーム作りに着手したという中井HC。現在目指しているのは「ハーフコートディフェンスでボールプレッシャーを強くかけてリバウンドを制し、オフェンスへの速いトランジションへとつなげていく」スタイルだ。
また、中井HCの選手起用にもチーム作りがうまくいっている要因があるように感じられた。
日本選手権では初の栄冠まであと一歩のところで悔し涙をのみ続けてきたライオンズ。その最大の要因は、選手層の薄さにあった。しかし、今年のライオンズには3人のハイポインターが加入し、選手層が非常に厚くなった。プレータイムをシェアすることで、より選手たちが力を発揮しやすくなっている。
そして新たに加わった3人全員が、健常者であるということも注目に値する。実は日本車いすバスケットボール連盟では、昨年7月より健常者の正式登録が認められている。健常者の参加が、プラスとマイナスの両面があることも事実だが、ライオンズでは今、非常にプラスに働き、チームが活性化している。今大会での中井HCの選手起用を見ていると、あくまでも既存の選手たちを柱とし、もともとの強みを活かしながら、そこに3人の健常者が厚みを加えているという構造が成り立っていた。これがチームのまとまりを生み出しているのだろう。
そしてもう一つは、健常者の選手たちのモチベーションとスキルの高さだ。
今大会、既存の選手たちとともに優勝に大きく貢献したのが、新加入したうちの1人、大山伸明だ。埼玉県立大学入学後、車いすバスケに魅了され、大学の車いすバスケサークルに入部。大学選手権では3連覇を達成するほどの実力の持ち主でもある。
現在、看護師として働いている大山だが、「仕事以外の時間は、ほとんどトレーニングと練習に費やしている」という。そのストイックさに、リオパラリンピック代表の永田裕幸も「こっちも負けていられないという気持ちになる」と語る。
大学卒業後は「日本の車いすバスケのレベルを上げる手伝いをしたい」という気持ちでトレーニングを続けてきた大山。その胸の内では「いつか自分も日本選手権に出場したい」という思いも抱いていた。だからこそ、昨年、登録が解禁となったことを受け「ついに、この時が来た」と喜びはひとしおだったという。
実際、大山を含めた3人のスキルや知識は、日本代表クラスの選手たちが認めるほど高い。聞けば、大学時代は現ライオンズ監督の森田俊光に師事し、卒業後はいずれも及川HCが中心となって創設された、車いすバスケのキャンプを開催している「Jキャンプ」や、NO EXCUSEの練習に参加してきたメンバーたちなのだ。
車いすバスケへの情熱、日本一へのモチベーション、そして実際のスキルや知識の高さ。いずれにおいても、ライオンズの選手たちが「仲間」として受け入れるだけの要素が十分にある。だからこそ、チームがうまく機能しているのだろう。健常者が加わることによって最も影響のあるハイポインター陣の大舘秀雄と篠田匡世も「プラスにしかなっていない」という。
「練習から切磋琢磨して強化できるようになったことが何より大きい。でも、絶対に負けるつもりはありません」と大舘。篠田も「彼らはフィジカルが強いし、クイックネスもあって、レベルがとても高い。そんな彼らとの競争意識が、代表12人を目指す自分にとってはプラスになっている」と語る。
そのほか、昨年10月のアジアパラ競技大会でA代表デビューを果たした18歳の赤石竜我も著しい成長を見せるなど、数々の新たな強みを手にしたライオンズ。3カ月後の日本一決定戦での戦いに注目が集まる。
文・写真=斎藤寿子