2019.02.27

香西宏昭、ドイツ・ブンデスリーガの地でつかみ始めた「自信」

今シーズンはベンチスタートが続く中、“救世主”とも言える活躍でチームに貢献している香西 [写真]=斎藤寿子
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。2011年よりパラリンピック競技を中心に、国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドン、16年リオ、18年平昌、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

日本人唯一のプロとして車いすバスケットボールのドイツ・ブンデスリーガでプレーしている香西宏昭。スタメンを張り続けた昨シーズンとは違う役割を求められている今シーズンは、特に厳しい局面での投入が多く、“救世主”とも言える活躍でチームに貢献している。そんな中、彼は以前とは大きく違う自分に出会っていた。

試合の流れを変える存在であるワケ

プレーで引っ張り、常に声をかけ続けてチームを鼓舞 [写真]=斎藤寿子

 2月23日、リーグが佳境を迎える中、香西が所属するRSVランディルは後半戦最大のヤマ場となるRSBテューリンギア・ブルズ戦に臨んだ。ここまで全勝と首位を走り、リーグ連覇に向けて加速しているテューリンギア。一方2位のランディルは、そのテューリンギアに唯一の黒星を喫していた。

 今シーズン2度目の“ライバル対決”は、テューリンギアのリードで進んだ。しかし、第2クォーターの序盤にはテューリンギアのシュートがリングに嫌われ続けるなど、完全に試合の主導権を握るまでには至っていなかった。

 それでも第2クォーターの後半、同点の場面でランディルのミスが続く中、テューリンギアが立て続けに得点を重ねた。ランディルとしてはこれ以上引き離されたくない場面、切られたカードはやはり「香西宏昭」だった。すぐに1本目のシュートを決めると、香西はさらに相手が一瞬、こぼしたボールをすかさず奪い、速攻での得点へとつなげるなどチームに貢献した。

 その後、第3クォーターの後半で再びコートに立つと、そのまま第4クォーターの最後までプレーし続けた。結果的にチームは72-80で敗れはしたものの、この試合でもやはり香西の存在は大きかった。16分半のプレータイムでチーム最多得点(14)に次ぐ13得点、フィールドゴール成功率はスタメンの誰よりも高い55パーセントの数値を残した。

 中でも最も強く印象に残ったのは、第4クォーターのあるシーンだ。リバウンドボールの激しい争奪戦、味方の選手が必死にボールに食らいついて奪うと、苦しい体勢の中、アウトサイドで待っていた香西にパスを出した。すると香西は、その懸命なプレーに応えるかのように、見事にミドルシュートを決めてみせたのだ。

 香西が決めたこの1本のシュートが、チームメートを鼓舞したことは想像に難くない。こうしたプレーが選手たちの意欲をかきたて、次への好プレーを生み出す。そしてその積み重ねがコート上の雰囲気を変えていくのだろう。もちろんプレーだけではない。常に声をかけ続けている姿もだ。なぜ、香西が試合の流れを変える力を持っているのか。その理由が垣間見られた試合だった。

「実感」の積み重ねが「自信」へ

2020年に向けて異国の地で成長を続ける [写真]=斎藤寿子

 とはいえ、ベンチスタートが続く今シーズンは、プレータイムが短かったり、最も大事な局面でベンチを温めることもある。そんな自分の置かれた状況にも、香西はずっと「淡々と」自分がやるべきことをやり続ける姿勢を貫いてきた。

 ただ、そこには変化が感じられる。シーズン序盤はどちらかというと、「なぜ、起用してくれないのだろうか」と歯がゆい思いを抑えながらベンチで過ごしていた。一方、現在はというと、どんな状況下に置かれても、「ベンチだろうとコートだろうと、チームのためになることをやるだけ」という気持ちにブレが生じることはない。

 その理由を香西はこう語る。

「実際に途中交代をして、チームのリズムを変えることができたり、相手のエース格の選手にアジャストできたりしているなと実感しています。その積み重ねが自信になってきたかなと。だから今は、『いつでも出られる準備はしているし、しっかりと自分の仕事をする自信があるので、どうぞいつでも声をかけてください』という気持ちでいます」

 そして、少しはにかんだ様子を見せながらこう続けた。

「こんなふうに自分に自信があることが嬉しかったりするんです。どちらかというと、僕は自信が持てない性格なので」

 自分自身に対しては常に謙遜するタイプで、自分に厳しいという印象が強かった香西の口から「自信」という言葉を耳にしたのは、今回が初めてのこと。決して驕りから出た言葉でないことは明らかだ。自信は、自分で自分を認め、自分自身に信頼を置くことができていることの証でもある。ようやくそんな自分に出会えたことが、香西には嬉しいのかもしれない。

 日本が9位に終わった2016年リオデジャネイロパラリンピックの後、強く抱いたエースとしての「覚悟」。あれから2年半、努力を重ねてきた香西が、ついに「自信」をつかみ始めた。2020年東京パラリンピックまで残り1年半。どこまで成長した姿を見せてくれるのか、期待に胸が膨らむばかりだ。

文=斎藤寿子