2023.05.11

【あじさい杯】女子クラブチームに続々と誕生している新戦力

4戦全勝で優勝を飾ったカクテル(紺)[写真]=斎藤寿子
フリーライター

 5月6日、7日、兵庫県立障害者スポーツ交流館では「第29回あじさい杯争奪女子車いすバスケットボール大会」が開催された。チーム事情により不参加となったWing(関東)を除き、全国から5チームが参加し、総当たりのリーグ戦が行われた。8月の皇后杯に向けて最後の公式戦であり、前哨戦の意味合いもあった今大会で目立ったのは、各チームに誕生している新戦力だ。今、女子車いすバスケットボール界は過去にないほどの活気に満ちあふれている。

若手の成長で選手層に厚みを増す女王・カクテル

 2日間にわたって熱戦が繰り広げられた結果、4戦全勝で3大会ぶり13回目の優勝を飾ったのがカクテル(近畿)だ。女子日本代表のキャプテンを務める北田千尋(4.5)をはじめ、網本麻里(4.5)、清水千浪(3.0)、柳本あまね(2.5)と4人が、6月の世界選手権メンバーという強豪で、8月の皇后杯では前人未踏の8連覇を狙う。

 チームの指揮を務めるのは、東京2020パラリンピック後に女子日本代表の指揮官となった岩野博ヘッドコーチ。カクテルの指揮官に就任して以来、作り上げてきた“走るバスケット”でチームを強豪へと押し上げてきた。最大の特徴は、ハーフコートに下がることなく40分間フルで行われるオールコートでの“攻め”のディフェンスだ。

女子日本代表の指揮官を務める岩野ヘッドコーチ(中央)[写真]=斎藤寿子

 チーム力はコロナ禍前よりも格段と上がっている印象がある。その背景には中学3年の小島瑠莉(2.0)、高校2年の西村葵(2.0)という2人の若手の躍進によって選手層の厚みが増していることが挙げられる。いずれも今年度の次世代強化指定選手に選出されており、今年10月に世界選手権を控える女子U25日本代表の候補でもある。

 今大会は2人の経験値を高めることを最大の狙いとしていた岩野HCは、いずれの試合も彼女たちに30分以上のプレータイムを与えた。さらにオフェンスでは役割を明確にしたことが、非常に効果的だったと言える。2人には一切の迷いがなく、自信を持ってプレーする姿が印象的だった。

次世代強化指定選手に選出された中学3年生の小島[写真]=斎藤寿子

 ただしその反面、5人中2人の役割が絞られたことで、オフェンスの戦術は限られていたに違いない。それでも2人を揃えたラインナップに多くのプレータイムを割きながら全勝優勝を実現させたところに、カクテルの安定した強さがうかがえた。北田、網本、柳本、清水のほか、元女子日本代表の吉田絵里架(1.0)も健在で、2人の若手をしっかりとバックアップするトッププレーヤーたちの存在が大きい。

 その先輩らの期待に応えるように、小島、西村も著しい成長を遂げている。特に2人がそろったラインナップで何度も8秒バイオレーションを奪ったディフェンスは相手にとっては脅威となっていた。さらにオフェンスでもシュートの確率が上がっており、小島はSCRATCH(東北)戦では8得点をマーク、西村も4試合中3試合で得点を挙げた。今年の皇后杯でもカクテルが優勝候補の筆頭であると見ていいだろう。

次世代強化指定選手に選出された高校2年生の西村葵[写真]=斎藤寿子

若手の台頭や新加入でチームが活性化

 そのカクテルに今大会で最も肉薄したゲームを展開したのが、準優勝のSCRATCHと3位のELFIN(関東)だ。SCRATCHは45ー54、ELFINは45ー53と食らいついた。

 元女子日本代表のヘッドコーチで、現在は女子ハイパフォーマンスディレクターを務める橘香織氏が指揮を執るSCRATCHには、女子日本代表の副キャプテン萩野真世(1.5)のほか、土田真由美(4.0)、大津美穂(2.5)、大森亜紀子(2.0)と4人の世界選手権メンバーが所属する。

 今大会では特に土田の存在が光った。1ヶ月後に迫った世界選手権に向けて、女子日本代表は今大会の2日前まで強化合宿をしており、タフなスケジュールとなっていた。それでもいずれの選手も疲労を感じさせない好プレーを見せていたが、なかでも土田はフル出場の状態だったにもかかわらず、最後までシュートの確率は落ちなかった。全試合でチーム最多の2ケタ得点を誇り、最終戦では54得点中30得点を1人で叩き出す活躍ぶりだった。

全試合で2ケタ得点を挙げた土田[写真]=斎藤寿子

 そして女子日本代表4人がそろう主力のラインナップに入り、急成長を見せたのがU25日本代表候補の郡司渚名(4.0)だ。ちょうど1年前の同大会で公式戦デビューを果たしたばかりと競技歴は浅く、粗削りな部分も多い。それでも始めた当初からポテンシャルの高さを感じさせていた郡司は、1年前と比べると格段にレベルアップしている。特にオフェンスではインサイドへのアタックの強さを見せた。

成長を見せた郡司(右)[写真]=斎藤寿子

 さらにパリパラリンピックを目指す女子日本代表候補の一人でもある碓井琴音(4.5)もケガから復帰。萩野の3ポイントシュートを含むアウトサイドシュートはもちろん、大津や大森のランニングシュートからの得点も増え、チームはどこからでも得点を狙えるオフェンス力を身に付けつつある。ディフェンスでは数種類のスタイルを使い分け、相手を翻弄するSCRACH。皇后杯では優勝争いの一角に入る力は十分にある。

4人の世界選手権メンバーが揃うSCRATCH[写真]=斎藤寿子

 一方、世界選手権メンバーの石川優衣(1.0)が所属し、女子U25日本代表のヘッドコーチを務める添田智恵がプレーイングマネジャーとしてけん引するELFINには強力な2人の選手が加入した。江口侑里(2.5)と西村朝未(4.5)だ。競技に専念するため今年4月に転職し、地元の長崎から上京してきた江口は、九州ドルフィンから移籍してきた。最大の武器は打点が2メートルを超える高さで、来月の世界選手権にもチーム最年少22歳で代表入りした期待のセンターだ。左手に麻痺があるため、ほとんどのプレーを右手だけで行うが、小学校から高校まで健常のバスケットボール部に所属し、当時から同じようにプレーしてきただけあって、ボールの扱いは巧みだ。最近ではシュートレンジも伸びてきており、ELFINにとって大きな戦力であることは間違いない。

最年少22歳で世界選手権代表入りをした江口[写真]=斎藤寿子

 女子チームでは最も長い歴史を持つ古豪のGRACE(東京)から移籍してきたのが西村だ。今大会では得点能力の高さを発揮。プレーの起点となり、大黒柱的存在である健常プレーヤーの和田実梨(4.5)とともに得点源としてチームに大きく貢献した。昨年の皇后杯では最下位に沈んだELFINだが、今年は上位に食い込む可能性は十分にある。

 また、4位の九州ドルフィンや、最下位となったパッション(四国)も新たなメンバーが加わり、チームは活気づいている。九州ドルフィンは江口が抜けたものの、高さが武器の米衛晴香(4.5)をはじめ、土本聖奈(3.0)、芦田結美(1.0)と、いずれも20代の3人が加入。また世界選手権メンバーの立岡ほたる(2.0)、U25日本代表候補の青山結依(1.0)と伸び盛りの若手2人がいるパッションには、香川WBCに所属し、以前から助っ人としてパッションでもプレー経験を持つ百合山沙織と笹崎莉愛(いずれも4.5)が正式に加入し、即戦力となっている。

九州ドルフィンに新加入した土本[写真]=斎藤寿子

 この5チームに昨年の皇后杯準優勝のWingが加わって行われる女子クラブチームの王座決定戦、皇后杯は8月5日、6日に開催される。どのチームにも新戦力が誕生し活気づいているだけに、今年は例年以上に白熱したゲームが多く見られるに違いない。

取材・文・写真=斎藤寿子