2022.11.05
「バスケットボール界のてっぺん」ーNBA。馬場雄大が「高校の終わり、大学のはじめぐらいから」見つめているところだ。
「やるからにはてっぺん目指してやりたいですし、僕の性格的にも歩みをはじめた以上、途中で戻るわけにはいかないんです。それは本当に大変な道かも知れないですけど。でもこういう経験が一個一個積み重なった方が到達したときに達成感もあると思うので、投げ出さずに頑張りたいと思います」
夢を描くのは、楽しい。夢に向かって、上手くなろうと努力する過程は人生に生きがいを与えてくれる。だが、夢に近づけば近づくほど、現実を叩きつけられる。時には絶望感を覚え、怒りがこみあげる。悔しさで持って行き場のない気持ちにかられることだってあるだろう。
馬場は今、この“夢に近い”位置にいる。2019年にダラス・マーベリックスのメンバーとしてNBAのサマーリーグに参加し「てっぺん」に大きく近づいてから、その後プレーしたマーベリックス傘下のGリーグ、テキサス・レジェンズで出場機会がなかったり、絶好調だった試合でノーマークだったのに決定打のパスが貰えないなど、今までのバスケットボール人生で当たり前に起こっていたことが起こらないという経験をしながら、前へ進んできた。
ゴールデンステイト・ウォリアーズの一員として、3年ぶりに出場した今夏のサマーリーグでは、既存の選手やドラフト指名選手、昨季傘下のGリーグチームでプレーしていた選手らがロスターの半分を占めていた。そのため、多くのプレー時間を期待するのは難しい状況だったが、「絶対に使わないといけない選手がいるからと肩を落とすんじゃなくて、楽しむしかないので。また新しいチャレンジだと思って、出されたときに死に物狂いでやるというところだと思います。だから1試合も無駄にできない。その活躍で、次の試合でプレータイムが増えるかも知れないので」と話していた。
ラスベガスでのサマーリーグでは、腰を痛めて初戦を欠場。完治ではなかった2試合目も「試合の状況によっては出るかも知れないが、(試合がない)明日の練習をちゃんとして、次の試合で」と言われて見守った。そして2日後の“次の試合”。「コーチに今日出るからって試合前に言われて…」。
準備万端だった。しかし自らの名前が呼ばれることなく試合は終わった。「展開も展開だったんですよね」と馬場が言うように、ジェームズ・ワイズマン、ジョナサン・クミンガ、モーゼス・ムーディと期待の若手がサマーリーグで初めて揃った試合は、第3クォーター中盤の21点差から第4クォーター中盤には7点差まで追い上げていた。
それでも試合前に出ると言われていたのだ。「ちょっとでも出してくれて悪いならいいんですよ。それで下げられるならいいんですけど、出る準備して、気持ちも作って、この繰り返しが一番メンタル的に辛いです」と馬場。バスケ人生で「トップ3に入る気がする」ほどの悔しさを味わった。
日本代表の主力メンバーで、NBLのメルボルン・ユナイテッドでは優勝にも貢献した選手。しかし「てっぺん」にこだわれば、Gリーグからの挑戦になる可能性もある。Gリーグは民間機で移動をしなければならず、乗り換えをともなう早朝移動やバス移動もあるため、かなり厳しい生活だ。
そこまで思うのも、馬場自身、NBA選手やNBAを目指す選手たちの計り知れない陰の努力を目の当たりにしてきたからだ。馬場は昨シーズン前と今夏のサマーリーグ前にアリゾナ州で、同じ代理人事務所の選手も指導を受けているトレーナー、バーン・コンプトン氏の下で練習し、「ここに立っている選手らは死ぬほど練習しているんですよ。死ぬほど練習して、やっとこういう場に立っている。ほかの選手のその過程を間近で見ることが出来て、やっぱり刺激になりましたし、まだまだやらないといけないと思いました」と話した。これもまた、“当たり前ではない”を痛感した体験だった。
Gリーグ2年目の昨シーズン、コロナに感染するまで安定した力を発揮していたが、何よりも印象的だったのが、馬場の落ち着きだ。それを問うと、「完全に彼とのワークアウトの成果です。自信がすごかったです。正直今もすごいんですけど…。(しっかり練習を)やってきたという自信がそのときはあって、それプラス(レジェンズでは)プレータイムも頂いて、感じも少しずつつかむことができて、その落ち着きだったと思います。もちろんオーストラリアでの経験もそうですけど、やっぱりGリーグに合流する前に1カ月近く毎日彼とワークアウトして死に物狂いでやったというのが、一つ自分の中で自信になっていました」。
昨シーズンは東京五輪があったことなどで遅れたが、今年は早い段階からアリゾナで始めたためNBA選手と練習する機会もあり、「自分の強みは見せることができて、全くダメというのはなかった」と手応えを感じた。その一方で「NBAのトップ級の選手はやっぱり凄いなと思います」。ピックアップゲームでは、左膝前十字靭帯からの復帰を目指すジャマール・マレー(デンバー・ナゲッツ)との対決もあり、「僕なんかメラメラで行くんで、向こうはそんなに…、ガチなんですけど、ちょっと抜きながらだったので。だからなんか嫌がっていました」と苦笑いしたが、そういう経験も含め、心身ともに準備して挑んだサマーリーグだった。それだけに、その成果を見せることができない歯がゆさに「マジで悔しい」と唇を噛んだ。
実は、このサマーリーグで馬場が何度も口にしていたことがあった。「正しいプレー」だ。もちろん、ガンガンシュートを打って目立つ選手もいる。皮肉なことに、そういった選手が契約に漕ぎつける例は多い。ただコーチはサマーリーグを通じて、何度も「いかにエキストラパスをして、チームとしてプレーするか」ということを強調していた。「個人のスキルということは本当に一つも口にしないので、正しいプレーを意識しつつも、どうしたら自分が目立てるのかなと今、考えているところです」。アリゾナでみっちり鍛えただけに練習ではシュートが絶好調だった。だが、バスケットボールに対して忠実な馬場である。コーチの言うことに背くプレーは、念頭にはなかった。
結局馬場は、いくつかのハイライトはあったものの、最後の試合を除いては、サマーリーグで十分にアピールする機会がなかった。ただ、他チームからは見えなかったかも知れないが、チームを形成していく上でなくてはならない本質は、遂行できたのではないだろうか。
馬場が手本にしているNBA選手は、アレックス・カルーソ(シカゴ・ブルズ)とゲイリー・ペイトン二世(ポートランド・トレイルブレイザーズ)。「カルーソとか、タイプも一緒だと思います。それこそゲイリー・ペイトン二世とか、ディフェンス頑張ってスリーポイント決める。そういういぶし銀の活躍ができる選手とかですね」。
「このまま終わるわけにいかないです。ぐちぐち言わずに練習を続けます。(悔しかった)この気持ちを忘れないで、いい方へ向けていきたい」
「やるからにはてっぺん」と決めた。この夢がある限り、どんな険しい道に出くわそうとも、馬場の「死に物狂い」の努力に終わりはない。
文=山脇明子
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