2017.11.11
スポーツ観戦の楽しみ方は様々だ。生ビールを片手に熱視線を送る人、家族連れで週末の余暇として楽しむ人、その競技自体の魅力にじっくりと浸りたい人、スタジアムグルメを満喫する人、恋人と一緒に試合そっちのけで見つめあう人…。
そんな多種多様の楽しみ方ができるのもスポーツの魅力の一つだが、その中でも最もメジャーなスタイルが“応援する”ことだろう。スポーツ観戦=“応援する”ということに必ずしも直結はしないと思うが、好きなチームを応援するためにスタジアムやアリーナに足を運ぶ人は珍しくない。応援を楽しむ人たちはバスケ観戦の達人とも言える。
11月24日(金)のホームゲーム、バスケットボール男子日本代表が駒沢体育館にてフィリピン代表を迎え撃つ大一番に大応援団を組織したバスケットボールキングでは、改めて「応援」について考えてみることにした。昨年9月に開幕し、プロリーグとしては歴史の浅いBリーグだが、バスケットボール界にも熱心にクラブへと声援を送る人がいた。その一人が栃木ブレックスの公認サポーターズグループ「B-rAids(ビーレイズ)」で代表を務める萩島正人さんだ。
チームの誕生に伴い応援を始め、ブレックスアリーナ宇都宮の2階席でメガホンを持ちながらコールをリード。声援でチーム、選手たちを支える熱血サポーターだ。そんな萩島さんに失礼ながら「なぜ、そんなに熱心に応援するのか?」と聞いてみたいと話をしてみると、とても親切に「応援」について語ってくれた。
インタビュー=酒井伸
写真=山口剛生
――いつから栃木ブレックスを応援していますか?
萩島 栃木の地で生まれ育ち、小学校5年生からバスケットボールを始めて、中学校、高校でもプレーしていました。40歳まで地元の中学OBを中心に結成したクラブチームに所属していて、その少し前に栃木県にプロバスケットボールチームができるということを耳にしました。2006年に栃木ブレックスが誕生して、2007-08シーズンからJBL2に参入することが決まり、まずは純粋にファンとしてホーム、ブレックスアリーナ(宇都宮)での開幕戦を見てみたいと思いました。
――初めて見た時の感想は?
萩島 地元の栃木でバスケの試合が見られるなんて思ってもいませんでした。それまでは、試合を見たくても東京まで行ったり、年に1回ほど日本リーグの試合が栃木で開催されるのを見に行ったりする程度で、NBAはよく見てましたが日本のバスケにあまり思い入れはなかったんです。初めてブレックスの試合を見た時には、背筋がピッと凍る感じがあって。「今後、栃木でバスケの試合を見られるんだ」というワクワクする思いが強かったです。
――2007年からブレックスを応援していたんですね。
萩島 プレーするよりも、ブレックスの応援に力を入れたいと思いました。また、バスケのおかげで自分の道を進むことができた、バスケに育ててもらったという思いがありました。“栃木でバスケ”というキーワードを大事にしたいと思い、ブレックスのために何かをしたいと感じました。
――当時から声を出して応援していたんですか?
萩島 JBL2に参入した最初のシーズンは、観戦される方の大半が未経験だったため応援の声もなく、会場の音楽にどう合わせていいのかわからなかったと思います。2007年11月23日に鹿沼フォレストアリーナで行われた試合で、「ディフェンス」の声が出たんです。その声を出してくれた人と友だちになり、そこから少しずつ周りの人たちと声を出すようになりました。そして、シーズンが終わる頃には、僕らの周りに声を出す人たちが増えてきて、その人たちがその後結成されるB-rAidsの母体となりました。当時、僕を含めた3人の仲間で「応援団を作りたいね」と話していて、2008-09シーズンからJBLに上がることが決まっていたので、「1部で戦うチームの後押しをしたい」、「応援団を作りたい」という思いがありました。初年度終了後のオフシーズンにファンミーティングというチームの公式行事があり、当時の社長(山谷拓志氏)に「応援団を作らないんですか?」と聞いたら、「本気で応援したい人がいるから応援が盛りあがるのであって、チームがお願いするものではありません。だから、チームを応援してくれるのであれば、皆さんが応援団を作ってください」と。社長の話術にハマって、応援団を結成することになり、それがB-rAidsの始まりになりました。
――チーム公認として活動しているのはいつからですか?
萩島 2008-09シーズンのJBL参入時から、B-rAidsはチーム公認サポーターズグループとして活動しています。当時は3人の連名代表という形でした。その後メンバーの変遷を経て2011年からは僕が単独で代表を務めています。
――サポーターズグループを作るのは大変だったと思います。
萩島 始めるにはエネルギーが必要でしたが、その時は未来しか見ていないので、自分たちがどんなふうにブレックスを盛りあげていけるかという思いしかありませんでした。チームに認めてもらうために毎日のように事務所に通って夜遅くまで社長と話をして、メンバーとして活動するためのグループの規約を作ったり、メンバーを集めたり、グループのロゴマークを作ったりと、全くゼロからのスタートで大変でしたけど、これから始まる未来に向けての楽しみの方が大きく、50人くらいのメンバーが集まってくれました。
――サポーターズクラブと名乗っていますが、「サポーター」という言葉にこだわりがあったんですか?
萩島 bjリーグのことをあまり知らず、ブースターという言葉に馴染みがなかったんです。また、自分たちのことをブースターと呼ぶのはどこか違和感があって、ファンという呼び方も当時はしていませんでした。サッカー文化に乗っかった部分はありましたが、“チームをサポートする存在”という意味でサポーターと名乗るようになりました。
――イチから始めるとなると、他競技の応援を参考にしたと思います。
萩島 子どもがサッカーをやっている影響もあって、もともとは栃木SC(Jリーグ)のサポーターで、ゴール裏で応援していました。サッカーとバスケの応援は少し違いますが、栃木SCの応援でいいと思うものを取り入れて、オリジナルのものにしていきました。
――今も栃木SCの応援に行っているんですか?
萩島 今は年に数回行ければいいくらいですが応援しています。2011年の東日本大震災の時にチームの垣根を超えて、ファンやサポーター始動でチームを巻きこんでの募金活動をしたり、その後も共同で地域の清掃活動をしたり、お互いの試合に応援に行ったり、サポーター同士のつながりは今でもあります。
――ところで、B-rAidsのメンバーが2階席で立って応援している理由は?
萩島 bjリーグのチームは、スタンディングで応援している方も多かったと思います。僕たちは最初からスタンディングで応援したいということをチームに伝えていて、結成当時は1階席にそのエリアを作ってもらいました。そのままの流れが今も続いていて、場所が1階席から2階席に移りました。1階席と2階席のチケットの値段が違って、誰でも来ることができるようにするため2階席に応援エリアを作りました。誰でも気軽に来てほしい、みんなでチームを応援しようという思いが強いので、2階席で応援しています。
――応援することについて、「何に価値を置くか」を強調していますよね。
萩島 僕の中ではバスケと栃木への恩返しを大事にしていて、「応援することは辛くないですか?」、「喉がかれるほど大声を出して大変ですよね」、「何でブレックスのためにそこまでできるんですか?」と言われることがありますが、これはライフワークなんです。本業の看護師と、子を持つ父親とは一線を引いたブレックスの応援。応援に対して、辛いとか負の感情はありません。その思いは栃木にバスケのチームができてくれた時から変わっていません。
――ブレックスの応援のいいところはどこだと思いますか?
萩島 ずっと応援してる方でも、Bリーグになってから来るようになった方でも、ブレックスへの愛情や思いがものすごく強く、一人ひとりの意識が高いと感じます。また、昨シーズンの優勝でいい思いを経験して連覇に目が向きがちですが、今季のように負けがこんでいて苦しい時でもチームを支えようという思いが強く、この苦難をともに乗り越えて、ブレックスとともに成長しようという思いが「声」に変換され、応援という形に変わってると思います。
――会場ではいろいろなところから声が上がっていますよね。
萩島 Bリーグが掲げる“非日常の空間”を表現していると思います。大人になって大声を出すことなんてほとんどありませんよね(笑)。栃木ではこの空間と時間を楽しめると思いますし、それをファンの人たちがわかってることも魅力だと思います。
――理想とする応援スタイルについて教えてください。
萩島 まだまだ目指すべきスタイルには届きませんし、もっと会場全体から声が出ると思います。でも、それを強要するつもりはなく、試合を静かに見守ることも応援の一つです。ブレックスの試合を見たことがない人は栃木県内にたくさんいて、そういった方たちに足を運んでもらうにはどうしたらいいのかを僕らも考える必要があります。運営のフロントスタッフがすごくがんばっていて、僕らがその努力をもっと周りの人に伝えていきたいです。1人が1人を連れてくることができたら、入場者は2倍になるわけで、その工夫をもっと考えていかないといけないと思います。一度会場に来てもらったら、リピーターにする自信はあります。ブレックスの試合中の応援コールは小さなお子さんでもできる応援を基準に考えています。初めての方でも数回聞けばすぐにできる応援です。そして、試合だけではなく、ブレクシーのダンスであったり、会場のエンターテインメントであったり、フードブースであったりと、ブレックスには様々な魅力があって、それぞれが楽しめる要素があります。テレビでは伝わらない、この空間を楽しんでもらいたいです。
――今はどれくらいの人が立って応援していていますか?
萩島 多くて10人くらいです。もっと大勢で立って応援したいという思いもあります。スタンディングエリアに誰がいてもいいですし、B-rAidsの場所ではありません。ただ、あまり試合を見れないというハードルがあるんですよね……。
――「一緒に応援したいです」と声を掛けてくる人もいると思います。
萩島 「いつも憧れて見ているんですけど、一緒に応援してもいいですか?」と言ってくれる方は、数は少ないですけど男女問わずいますね。
――B-rAidsの年齢層について教えてください。
萩島 ほぼ30代から40代です。20代の方もいますけど、性別年齢関係なく一緒に応援しています。バスケットボール未経験が多いのも特徴で、ブレックスができてからバスケが好きになって、グループに入った人もいます。ブレックスの試合を見に来てバスケが好きになったり、子どもがバスケをやっていたり、入る理由はみんなバラバラですね。また、宇都宮市在住は少なく、小山市や日光市に住んでいるメンバーもいて、埼玉県から応援に来る方もいます。
――自身のブログに「おもてなし地図」といったものを掲載しています。
萩島 B-rAidsを作った初年度に三菱電機ダイヤモンドドルフィンズ名古屋(現名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)のサポーターさんたちと仲良くなり、その方たちと話していく中でバスケを愛する思いは一緒なんだと感じました。それからレバンガ(北海道)さん、アイシン(現シーホース三河)さん、千葉(ジェッツ)さんなどいろいろなチームの方たちと仲良くなるようになったら、ますます仲間意識が強くなって、大切なお金と時間を使って栃木に来ていただいた方にバスケを楽しんでもらうのはもちろんですが、僕が愛する地元栃木を楽しんでもらいたいと思い作りました。あとは、県外から来るブレックスファンの方たちにも、ブレックスを通じてもっと栃木を好きになってもらいたいと思ったからです。
――多くの飲食店が載っていますよね。
萩島 そもそも外食をあまりしないのと、喉の安静のためシーズン中はアルコールを飲まないので、お店がわからなくて、ブレックスファンの方に「こういうマップを作りたいんですけど、協力してもらえませんか」と呼び掛けました。ブレックスファンの方はとても温かいので、いろいろな情報をくれて、「試合後はこの店によく行くから、他のチームも含め多くのサポーターが来てくれたらうれしいです」と教えてくれる方もいました。ブレックスファンみんながおもてなしをしたいと思っています。だからブレックスファンみんなで作った地図なんです。これもたくさんの方に喜んでいただきたいと考え、楽しくてやっていることなので、苦だと思ったことはないです。
――アウェーゲームも頻繁に行っているんですか?
萩島 今は仕事の都合もあって、ほとんど行けていません。ホームゲームも精一杯で、金曜日の夕方から夜勤明けで一睡もせずに土曜日の試合に来ることもあります。あれだけホームゲームの応援を先導していながら、アウェーに行けない申し訳なさがあります。それでも、アウェーまで行って試合を盛りあげてくれる人が多くいて、その安心感はありますし、心強いです。中にはホームもアウェーも11年間全部行っている人もいて、ブレックスファンの方には感謝しかないです。
――日本代表の試合が11月24日に行われます。
萩島 自分は残念ながら都合があって行けないんです。だけど代表を応援したいという思いはあります。もちろん、東京オリンピックも控えている中で、日本のバスケが強くならなければいけないと思っています。代表が強くならないと、リーグも盛りあがらないと思います。そこに関して何か自分にもできることがあればと感じています。水面下ではあるんですけど、他チームのファンの方と何かやっていこうと話をしています。ただ、長く日本代表を応援している方もいて、その方たちの思いをくまなければいけません。自分たちが出しゃばるのではなく、その方たちの思いも大事にしながらうまく融合できたらと思っています。
――具体的に考えていることはありますか?
萩島 今はBリーグが2シーズン目ですごく大事な時期だと思っています。初年度はメディアの方、バスケに興味のない方も、Bリーグに注目していたと思います。その中で2年目、3年目がどうなっていくか危機感を感じていて、栃木は田臥(勇太)選手を見たさに来場するファンもいるはずです。でも、将来彼がいなくなった時、どれだけブレックスに興味を持っていただけるのか、魅力を感じていただけるか今から準備しておくことが大事です。今はBリーグに重きを置いていますが、日本代表への思いもあるので、これから先、何らかの形で携わっていけたらと思います。
――最後に、萩島さんにとって応援とは?
萩島 ブレックスの応援については、感謝と恩返しの思いが強いです。生まれて育った栃木と育ててくれたバスケに何らかの形で恩返しをしたいと。その思いを表現できるのがブレックスです。ブレックスが勝っている時はもちろんですけど、負けている時こそ支えていかなければならないと思っています。自分が生まれ育った栃木に誕生したチームですので、今は恩返しの思いです。B-rAidsのメンバー一人ひとりにもブレックスに強い思いがあります。その思いを一つにして楽しみながらサポートしていきたいです。チームの選手やコーチだけではなく、運営スタッフやチアリーダーもがんばっている姿を目の当たりにして、一人ひとりの意識の高さをすごく感じます。また、ファンの方は、僕らが第一声を発してくれてありがとうと言ってくれるんです。けど、第一声だけで終わる可能性もあるじゃないですか。そこに続いてくれるファンの方々がいるからあの応援につながるんですよね。また、ブレックスのファンだけでは、あの会場の雰囲気を作れないと思います。相手チームの応援があってこそ、相乗効果であの雰囲気が作れると思っているので、そういう応援への敬意を込めて、第2戦終了後にエールを送っています。雰囲気を作ってくれて、栃木に来てくれて「ありがとう」という思いを常に持っています。また、目の前の1試合や1シーズンを最後まで「声」で支えるのはもちろんですが、感謝と恩返しの思いを形にして、どれだけ未来につなげられるかです。いつまでも愛されるチームであるために、自分が関われる今、どれだけチームやバスケを愛してくれる人たちにブレックスの魅力を伝えていけるかだと思っています。たくさんの人に愛してもらい、子どもたちが将来、「夢はブレックスでプロバスケットボール選手になること」が当たり前の選択肢になるとうれしいです。
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