2018.07.11
今季限りでの引退を表明していた仙台89ERSの志村雄彦が、シーズンの全日程を終了し、選手としてのキャリアを終えた。ホーム最終3連戦は『引退シリーズ』として興行が行われ、とくにラストホーム試合となった5月2日は平日にも関わらず、カメイアリーナには3700人を超す観客が集まった。試合後には“仙台の顔”に感謝を伝えるべく、ハイタッチを待つファンの山であふれかえった。志村がコートを去ったのは、試合終了から1時間近く経ってのこと。どれだけ大勢のファンから愛されていたかがわかる。
志村雄彦は89ERSの地元である宮城県仙台市出身。仙台高ではウインターカップ連覇を遂げ、慶応義塾大では4年次に関東リーグ戦とインカレ制覇を果たした。JBLの東芝で3年間プレーしたのち、2008年にドラフトで指名されて仙台89ERSへ入団。2011年の東日本大震災後にはチームが一時活動休止になるも、救済制度により琉球ゴールデンキングスへレンタル移籍。背番号『89』をまとってファイナルの舞台に挑んでいる。逆境にも前に進み続けることで、宮城県民や仙台市民を勇気づけてきたのだ。バスケットをするうえでハンデともなりかねない160㎝の身長に対しても、闘志あふれる勝負強さとリーダーシップを発揮。「考え抜いて駆け引きをしてきた」と自身が言うそのプレースタイルで、多くのファンを魅了してきたのだ。
「優勝するという約束はまだ果たせていないので、次は新たな立場として89ERSが優勝する日を皆さんと一緒に噛みしめたいと思います」――。Bリーグの小さな巨人、志村雄彦がホームで伝えたラストメッセージをここに刻んでおきたい。
――5月2日、最後のホームゲームが終わっての率直な気持ちは?
志村 「黄色いブースターの皆さんの前でプレーするのは最後」という気持ちでプレーしていました。1秒1秒、大切に戦おうと思いましたし、もう二度とここには戻ってこられない、もう二度とこういう経験はできないと、噛みしめるようにプレーさせてもらいました。自分としてはこれが志村雄彦というプレーを残せたと思うし、最後までコートに立てたことは良かった。
ただ、勝ちを求めて試合をしていたにも関わらず、引退シリーズの興行は気負ってしまったのか勝てなかったので、自分の力不足を感じています。でも、負けたけど悔いはないです。最後の勝負となったシュートは決めようと思って打ちに行きましたし、そういうところでのシュートを決めてきた自負がある。シュートは外してしまいましたが、それもバスケットボール。毎日勝ちに向かってやってきたので、勝負を決めるところまで持っていけたことに後悔はないです。(現役最後のシュートはアウェーの愛媛にて、『89点目』となる3ポイントシュートを決めている)
――最後はコートにキスをしていましたが、その時の思いは。
志村 もう二度とここには帰ってこられないんだな、ありがとう、という思いでした。この仙台市体育館(カメイアリーナ)は小学校の時から試合をしていて、何回も勝ったり負けたりしたいろんな思い出があるし、黄色いユニフォームを着て戻ってこられた原点のアリーナ。小学校の時からずっとプレーしていたこの体育館で終われて良かったです。
――選手としてやり切った思いはありますか。
志村 はい。やり切りました。それはいつでも思っていました。いつ終わってもいいようにと思ってやってきました。その時が来たということです。まだ選手としてやれるんですけど、引き際を自分で決められることは大事だと思って、次の道に行くことにしました。
――引退後は仙台のフロント入りを宣言。今後やっていきたいことは。
志村 僕が小さい頃は地元にこういうチームができるとは思っていませんでした。今でも思い出すのは、小学生の時に父と一緒にアメリカにNBAを見に行った時のこと。あのような光景をいつか日本で見たいと思っていて、中村(彰久)代表をはじめとするスタッフがそれを作り上げてくれてくれた。継続してきたという意味では、本当に素晴らしいクラブだと思う。それを今度は自分が違う形で強くするチャンスがあるので、全身全霊をかけて自分の仕事をまっとうしたいし、89ERSを日本一にするのが次の僕の仕事です。やはり、アリーナは人が入って完成する。そのために自分がやれることを何でもやるつもり。フロントスタッフと一緒になってやっていきます。
しかし、Bリーグになってこの2年、B2に降格して納得のいく成績が収められなかったことは事実。ゲームメイクでは志村を、得点では石川海斗を頼らざるを得なかった。「60試合を戦うには、もう1、2枚勝負所で力を出せる選手が必要だった。若手には勝負所で決められる選手になってほしいし、フロントはそういう選手を育成しなければならない」と志村が言うように、改革は迫られている。
志村は常々こう話していた。「勝つことは当然大切ですが、観客に見に来てもらい、愛される球団にしたい」
選手であろうと、フロントであろうと、掲げる目標は同じ。バスケットボールで故郷を盛り上げていくことが使命だと言わんばかりに、黄色いユニフォームを脱いだ志村雄彦の第二の人生はすぐにスタートを切る。
文・写真=小永吉陽子
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