2018.05.28

愚直なまでにスタンダードにこだわったアルバルク東京がBリーグを初制覇

ルカHCに率いられたA東京がタイトル獲得 [写真]=山口剛生
バスケットボールキング編集部。これまで主に中学、高校、女子日本代表をカバーしてきた。また、どういうわけかあまり人が行かない土地での取材も多く、氷点下10度を下回るモンゴルを経験。Twitterのアカウントは @m_irie3

千葉の速攻を封じ込めたのはオフェンスを遂行すること

「B.LEAGUE CHAMPIONSHIP 2017-18」ファイナルは横浜アリーナに1万2005人のファンが詰めかける中、アルバルク東京が85-60で千葉ジェッツを破り、2シーズン目のB1リーグを制するとともに、初めてチャンピオンの座をつかんだ。

 直前にバスケットボールキングで実施した優勝予想アンケートでは72パーセントものファンが千葉を支持、レギュラーシーズンの順位も東地区を制したのが千葉ということもあって、大方の予想は千葉が有利だったと言えよう。しかし、第1クォーターは互いの出方をうかがうつばぜり合いが繰り広げられたが、徐々にペースをつかんでいったのはA東京だった。

 今シーズン、どのチームも最も警戒をしながら止めることができなかったのが千葉の速攻だ。スティール王となったマイケル・パーカーが読みのいいカットからそのままリングに突進する場合もあれば、センターのギャビン・エドワーズが先頭を走ってそのままレイアップで決まる場合もある。一発勝負のファイナルにおいて、千葉が速攻で得点をあげたのは4点のみ。それとは対照的にA東京が13得点をあげたのも、この試合の勝敗を大きく分けた要因となった。

 この日のA東京は早い戻りでまず対応を試みた。ただし、それができたのもいい形でオフェンスを終えることができたからだったと言える。A東京のオフェンスの基本はピック&ロール。それを軸に1本ずつじっくりと攻撃を組み立てていくのだが、ただこのセットオフェンスはレギュラーシーズンから同じものを繰り返してきた。A東京のポイントガードがサインを出すと、ディフェンスの千葉もそれを見て準備を始める。つまりはどのように攻めてくるか、千葉はわかっていた。それなのにA東京は自分たちのプレーをやり抜いたわけだ。

チームのピック&ロールで重要な役割を担ったカーク [写真]=山口剛生

 千葉も決して手をこまねいていたわけではない。大野篤史ヘッドコーチは自分たちが守りやすいようにA東京のピック&ロールをコントロールしようとしたが、「ルカ(パヴィチェヴィッチ)HCは自分たちの守りに対して指示をしていたのだと思う。対応されてしまった」と、記者会見で振り返った。

 千葉の後に行われたA東京の記者会見で田中大貴は、「千葉が仕掛けてきたディフェンスはすべてスカウティングでわかっていた。それに対する準備もしてきたので、慌てることはなかった」とその要因を明かす。実はセミファイナルのシーホース三河戦の際も、2連勝で終わった後のメディア対応で田中は「思うようにプレーできたのはスカウティングのおかげ」と感謝の言葉を述べていた。

 シーズンに入っても、平日に2部練習を課していたルカHC。厳しいトレーニング内容に「自分たちはリーグで一番の練習をしてきた」と、A東京のメンバーは胸を張る。加えて多くの時間を割いたのが次節に対戦するチームのスカウティングだ。スタッフ陣が準備したビデオを元に対戦チームの動きを確認して、それに対するオフェンスやディフェンスを作り上げてきた。田中は「(千葉の守りは)レギュラーシーズンから変わったことはなかった」と明かしている。

ファイナルMVPに輝いた田中 [写真]=山口剛生

シーズンを通して高めていったファンダメンタルが遂行力の源に

 ルカHCが標榜した『徹底したマンツーマンディフェンス』と『ピック&ロールからのオフェンス』。決して見新しい戦術ではない。基本中の基本をチームに浸透させようしたわけだが、ルカHCが会得させたかったのは国際基準のもっと精度の高いものだった。レギュラーシーズン終盤、レバンガ北海道名古屋ダイヤモンドドルフィンズ琉球ゴールデンキングスに星を落とし、東地区1位の座を千葉に明け渡さざるを得なかった。

「東地区1位から落ちても自分たちのバスケをやり切ることは変わらなかったが、負けることは許容できなかった。いいい戦いができないことに向き合えたことで、それがチャンピオンシップに入ってからいい方向にチームが進んでいった。試行錯誤の中、その瞬間をやり切ることができたのだと思う」と、キャプテンの正中岳城が振り返る。「コーチが求めるものをなかなかやり切れない」と勝っても反省の弁を述べる選手が多かったのも事実。「まだ完璧ではない」とルカHCも語るが、バスケットボールのスタンダードを極めていくことが、同時にチームの強化につながっていったとも言える。

 シーズンを通して、ルカHCをはじめとするコーチ陣と選手たちが積み上げたファンダメンタルは、気が付けばどんなに揺さぶりにもビクともしない堅固なものになっていた。A東京はそれをとことん突き詰めることで強くなっていったのだ。

頂点に立ったものの「まだ完璧ではない」と明かした指揮官 [写真]=山口剛生

 チャンピオンシップのクォーターファイナルでは対戦相手の京都ハンナリーズが主力選手の欠場もあり、かえってやりにくかった部分もあったことだろう。しかし、三河とのセミファイナル、そして千葉とのファイナルでは完璧なまでに準備してきたものを遂行した。自分たちのバスケをやり切って、A東京はBリーグの頂点に立った。

 愚直なまでにファンダメンタルをやり抜いたA東京。ルカHCは「まだまだ伸びしろがある」と語る。きっとオフから開幕、そしてシーズンを通じてもかたくなまでの追及はまだまだ終わらない。つまりA東京はまだまだ強くなるということだ。

文=入江美紀雄

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