2023.06.05

アカデミーを立ち上げた大倉颯太の思い…「目標に対して行動できるような選手を」

アカデミーを立ち上げた大倉颯太にインタビュー [写真]=兼子愼一郎
フリーライター

ミニバス時代から世代のトップを走ってきた大倉颯太。中学、そして大学では日本一も経験した。鳴物入りでプロの世界に飛び込んだ彼が今オフ、自身が描いていた夢の一つであるアカデミー『KOA BASKETBALL ACADEMY』を立ち上げた。そこにはどのような思いがあったのか? 大倉自身に話を聞いた。

取材・文=田島早苗

KOA BASKETBALL ACADEMYでは「知ること」の大切さを伝えたい

――まずアカデミーを立ち上げたキッカケや経緯を教えてください。
大倉
 昔から将来の夢というか、現実味がない中でコーチをしたいなという思いを持っていました。また、僕自身、高校や大学、プロと経験していくうちに、「前に知っていればプレーも違ったのかな」と感じるようなことがあり、それを(ジュニア期の選手たちに)伝えることができたらいいなと思い、アカデミーを立ち上げようと考えました。

 例えば、高校から大学、大学からプロとカテゴリーが変わる中で、『フィジカルが違う』というワードがよく出てきますよね。それは、ただ単に体や筋肉の大きさだけではないと思うんです。自分の体を知って、それをうまくスキルとコネクトしてプレーする。それができるとだいぶアドバンテージを持つことができると思うんですね。プロに入ってからそういったことに気づいたこともアカデミーを考えたキッカケの一つです。

――Bリーグのステージに立ったときに、『知る』ことの重要性を強く感じたわけですね?
大倉
 特別指定選手として大学生でBリーグのチームに入ったときに、当時のスキルコーチの存在が大きくて。スキルの部分で、大学とプロとのギャップはこんなにあるんだということを感じましたね。

――アカデミーの対象年齢は?
大倉
 小学校高学年と中学生の男子選手です。活動は週2回で、東京都江東区で1回、埼玉県戸田市で1回になります。

――シーズン中でのアカデミーへの携わり方はどのように考えていますか?
大倉
 僕とは別にコーチが2人いるので、そのコーチたちと僕とが密に連携を取り、僕が伝えたいことをコーチたちのやり方でアプローチしてもらおうと考えています。もちろん、行ける日は積極的に顔を出しますし、それとは別に直接僕とやり取りできるような環境も作れるのではないかと考えています。

自身の経験からジュニア期に伝えたいことをクリニックでは教えていく [写真]=兼子愼一郎


――アカデミーではどういったことを伝えていきたいのですか?
大倉
 3つに分けていて、①スキル②体(フィジカル)③メンタルという三軸で考えています。

 スキルはバスケットのファンダメンタルを細かく。どういったときにどういう状況で使うのかということも含めて伝えていきたいです。体に関しては、僕もミニバス、中学校のときは(常駐の)トレーナーがチームにいたわけでもなく、体をすごく酷使していたと思うんです。(大人になってから)大きいケガをしましたし、今もその代償が少なからずあると思うので、体の使い方や自分の体に対してのアプローチの仕方というのをえ伝えたいですね。それと、コートに入ったときのコンタクトの仕方、ジャンプやスピードの出し方といったことも同様です。そして体とスキルとをコネクトさせて、『一番強い状況で長く戦えるようなスキルとフィジカリティ』を教えることができればと思っています。

 メンタルに関しては、参加した選手それぞれ、Bリーグに行きたい、チームで試合に出たい、チームのエースになりたいといったように目標が違うと思います。個々で僕にいろいろと質問をしてもらい、一人ひとりにあった答えをできればいいなと考えています。あとは、練習に対するマインドセットなどは共通で教えることができるかなと思っています。

 アカデミーでは、僕が感じたことを伝えるというよりは、必要なこと、ポジティブなことを言い続けたいですね。

各ステージで教わったコーチへの憧れ

――先ほど、コーチになりたい思いがあったとのことですが、それはいつからですか?
大倉
 コーチになりたいというよりは、僕は教えてもらったコーチ陣に憧れていました。ミニバスも中学校も高校も大学もすべて。コーチへのリスペクトと憧れがあったので、『こういう人たちになりたいな』と思っていました。

――素敵な指導者の方々と出会ったわけですね。どのようなことを教わってきたのでしょうか。
大倉
 ミニバスだったら勝ちに直結しているかはわからないですが、「時間を守る」「挨拶をする」「靴を並べる」「親に感謝する」といったことを学びました。バスケットについても上のカテゴリーである高校生や中学生と練習をさせてもらう機会をたくさん与えていただきました。中学校ではチームとしてレベルを上げるために自分さえ良ければいいという考えではいけない、チームとして成長するための指導を受けました。高校では自分たちで考えてやるようにとよく言われていて、特にコミュニケーションをたくさん取ることを強調されていました。

――アカデミーの対象年齢でもある中学時代、大倉選手は全国大会で優勝。あのときからシュートバリエーションが多彩で、状況判断にも優れていた印象があります。
大倉
 状況判断については当時たくさん教わりました。ミニバスから中学になるとレベルも上がるため、小学生が持っているだけのスキルでは通用しなかったので、リバウンドの取り方やディフェンスの手の使い方など、中学時代に多くのことを教えてもらいました。

 コーチからよく言われたのは、僕がセルフィッシュにやれば、周りがフォローすることになる。バスケットボールは5人でやるスポーツで、一人ひとりの仕事の責任があり、それが集まったときにチームになるんだということでした。チームには、僕よりゴール下が強い選手、3ポイントシュートがうまい選手もいて、それに僕よりパスが上手な選手もいました。バランスが取れていたので、効率よく点を取る、まさに『チーム』として戦っていました。

世代のトップとして活躍してきた(写真は北陸学院高時代) [写真]=大澤智子


――ミニバスや中学時代から変わらず得意としているプレーなどはありますか?
大倉
 うーん…。分からないですね。僕自身、身体能力が高いぐらいでスキルがあったわけではなかったので。今の中学生を見るとすごくうまいじゃないですか。当時の僕らが今の中学生と試合したらどうなるんだろうって思いますよね。今はYouTubeなどのコンテンツなどがあることも影響しているのかなと思いますし、それを僕は言語化して伝えていけたらいいなと思っています。

――驚きですが、中学時代はスキルがあると思っていなかったのですか?
大倉
 謙遜とかではなく、本当に思っていなかったです。自分でもどんなプレーをしていたか覚えてないぐらい、勢いでやっていました。それで少し考えるようになったのが高校、大学だったかなと思います。だから、中学のときはよく『感覚でやるな』と言われていましたよ。

――さて、アカデミーを通してどのような選手になってもらいたいと考えていますか?
大倉
 Bリーグや海外で活躍する選手になってほしいという思いはあります。ただ、一番は自分がなりたい目標に対してどう向き合っていくか、ただの目標や夢で終わらせるのではなくて、そこに対して行動できるような選手になってもらいたいです。必要なスキルや体のこと、心のことというものを身につけて、早い段階で高いレベルにチャレンジしてほしいなと思いますね。

負傷前よりもパフォーマンスアップを目指す

――少し大倉選手自身のことをお聞かせください。今は膝のケガからの復帰を目指している最中です。
大倉
 すごく順調で、何の壁にもぶつかることなくきています。ただ、ここからが大事で、ドクターやメディアカルスタッフとも、復帰することが目的ではなくてケガする前よりパフォーマンスが上がるようにということは話をしています。今はトレーニングもやっていて、ケガのリハビリというよりはパフォーマンスを前より上げることを目的にして取り組んでいます。

 前回、ヒザをケガしたときもそうですが、僕は周りの人に支えられているというのを本当に感じていて、その中でもドクターをはじめ、メディカルスタッフには感謝しかないです。この環境があれば大丈夫という自信は、前回に続いて改めて感じています。レベルの高いスタッフがいてくれてるので、モチベーションを保ちながら復帰に向けてトレーニングができていますね。

――ファンの存在も支えになっていますよね。
大倉
 そうですね。ケガをしていても、メッセージを送り続けてくれる、常に心配してくれてるファンの方たちがいてくれるので、すごくモチベーションが上がります。

 僕の今のリハビリの目的としては、ケガをする前よりも強くなった状態でファンの方たちの前に戻ることなので、復帰した自分には期待してほしいです。それに、その期待に応える自信はあるので引き続き頑張りたいと思います。

 復帰したら、チームのエースになれるようにやっていきたいですし、周りの期待を超えていきたいですね。

多くの人の協力の下、リハビリは順調に進行。表情も明るい [写真]=兼子愼一郎

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