2023.07.27

重責を背負い戦った岐阜女子の絈野夏海に指揮官は「彼女が落としたのだから、チームみんなが納得している」

岐阜女子の絈野(左)は果敢にゴールを目指した写真=伊藤大允
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「自分がフリースローを決めていれば勝てたのですが、そこを勝ち切れなかった。自分の責任の重さ、勝負強さ、気持ちの持っていき方が足りなかったので…。チームを勝たせられず、自分のせいで負けました」

 岐阜女子高校(岐阜県)の絈野夏海(3年)は、敗れた試合をこのように振り返った。

 7月26日に行われた「令和5年度全国高等学校総合体育大会バスケットボール競技大会(インターハイ)」の女子2回戦、注目カードとなった京都精華学園高校(京都府)と岐阜女子との一戦は、終盤までもつれる大接戦となった。

 岐阜女子は、試合序盤から絈野が3ポイントシュートを小気味よく沈めて得点。一方の京都精華学園は188センチの高さと跳躍力を持つディマロ ジェシカ(3年)を起点に攻め立て、互いに一歩も引かない。それぞれに10点近いリードを奪う場面があったものの、第4クォーター中盤に岐阜女子が追いついてからは、1点を争う展開に。すると、岐阜女子は残り約1分半からドライブなどを効果的に使った絈野が連続得点を挙げ、残り2秒には1点ビハインドの状態で、絈野が2本のフリースローを得る。

 しかし、このフリースローは1本しか決められず、試合は65-65で延長へ。延長ではインサイドで体を張っていた岐阜女子の平山真穂(3年)が序盤にファウルアウトになると、京都精華学園はインサイドに徹底してボールを集めて加点。この攻撃を防ぐことができなかった岐阜女子は、72-83で力尽きた。

「ミスが多すぎました。ただ、今の段階では選手たちはベストを尽くしてくれたと思います」と、語った岐阜女子の安江満夫コーチ。さらにこう続けた。

「私は絈野が落としたなら納得できます。彼女は日頃からひたむきに努力をしているので、その状態で落ちたのなら仕方ないです」

 2年生の頃からエースを担ってきた絈野。この試合でも「チームを勝たせるのは私だと思っていて、点をを取るべきところで取ることは徹底していました」と、人一倍強い責任感を持って臨み、チームハイの32得点を挙げた。

 ただ、ジェシカが37得点、八木悠香(3年)が19得点、堀内桜花(3年)が12得点と、3人柱が2桁得点を挙げた京都精華学園に対して、岐阜女子は絈野と12得点の柴田緑(3年)の2人。「相手は3人がしっかりしていますが、うちは正直なことを言ったら一枚看板でやっているような状況。その辺も含めて、まだ勝ち切るまでの力がなかったと思います」と、安江コーチが言うように、現段階では絈野にかかる負担は決して小さくはない。

 それでも、安江コーチはその先がある選手だからこそ、絈野について「極限の状態でやっていますが、彼女にとってはいい経験。いずれ日本代表で活躍する逸材だと思うので、こういった経験が必ず肥やしになると思います」と、言う。

 そして安江コーチは、振り向いた先、遠くで涙を流す絈野に声をかけるかのように再びこう発した。

「どんなことにもひるまない。物事をしっかり考えられて、ブレない選手です。そういう選手が最後にシュートを落としたのだから、チームみんなが納得していますよ」

 決めた3ポイントシュートは7本。好調だった自身のシュートについて絈野は「試合に出られない子たちが練習でリバウンドを拾ってくれたり、パスをしてくれたりした」ことを要因に挙げた。そして最後には、冬に向けた思いを力強く語った。

「一人ひとりのディフェンス力やボックスアウト、リバウンド、ルーズボールの徹底力がまだ甘かったので、そこは無意識の中でもできるぐらいにやっていきたいです。次は必ず日本一取りたいと思います」

 悔しい敗戦も、岐阜女子のエースは支えてくれる仲間を思い、再び前を向いた。

取材・文=田島早苗
写真=伊藤大允

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