2018.06.30

チームが、ファンがともに進化してオーストラリアから勝利

勝利を分かち合う八村(左)とファジーカス(右) [写真]=山口剛生
バスケットボールキング編集部

ファジーカス、八村がチームをけん引

 国際バスケットボール連盟(FIBA)がオセアニア地区をアジア地区へ組み込むことを決定してから、日本をはじめとするアジアのチームは世界の強豪、オーストラリアニュージーランドと戦うことを余儀なくされた。特にFIBAランキング10位、リオデジャネイロオリンピック4位のオーストラリアはアジアでは無敗を誇った。それだけに1点差とはいえ、日本オーストラリアに勝利をあげたことは、金星以外の何物でもなかった。

 日本はスタートダッシュに成功した。前回の対戦である程度効果があったと手ごたえを感じていたゾーンディフェンスを自分たちのシュートが決まった後に敷き、シュートが落ちたり、ターンオーバーを犯した時にはマンツーマンディフェンスで対応するチェンジングディフェンスがオーストラリアのオフェンスリズムを狂わしたのも大きかった。

 そして、試合開始からスパートしたのが八村塁(ゴンザガ大学)だった。インサイドに果敢にアタックしたかと思えば、外角からフェイドアウェイのシュートも叩き込む。第1クォーターだけで13得点をあげた八村は、日本に「やれる」という自信を吹き込んだ。

 第2クォーターになるとニック・ファジーカス川崎ブレイブサンダース)が狼煙をあげる。試合の入りではタッチに苦しんだシュートは「2本連続で3ポイントを入れることで乗れていけた。試合の中で決められるシュートを見つけていった」と、試合後語ったが、まるでBリーグの期間中のように冷静に自身を見つめていたファジーカスが12得点をあげる。

インサイドだけでなくアウトサイドのシュートも好調だった [写真]=山口剛生

 日本は前半を終え、42-33と9点ものリードを奪った。

「いよいよ来たか…」

 第3クォーターになると、オーストラリアがついに日本猛追を開始。フィジカルな当たりに日本のプレーは足が止まり、対応が遅れ出した。さらにそれまで互角で対抗していたリバウンドも次第にオーストラリアに制圧されるようになっていく。ニック・ケイが落としたシュートをミッチ・マカロンがねじ込み、48-50とオーストラリアはティップオフ直後にリードを奪って以来、再逆転に成功した。まさにその典型というべきプレーだった。

 これまでの日本であれば、ここからずるずると点差を離されていくところだったが、この日は違った。馬場雄大アルバルク東京)が危険なファウルを受けて退場するも、その代わりにコートに入った辻直人(川崎)がきっちりフリースローを2本入れて同点に。その後はファジーカス、比江島慎シーホース三河)、竹内譲次(A東京)が立て続けにシュートを決めて、反対にリードを奪っていった。

 第4クォーターに入っても、日本オーストラリアのプレッシャーに屈しなかった。10点差以内の攻防の中、残り1分を切った場面でオーストラリアはケイがゴールを決め、1点差を詰め寄る。さらにファジーカスのターンオーバーに乗じて攻め立て、ケイがまたシュートを放つが、これが大きくリングを弾き、篠山竜青(川崎)の上にボールが落ちてきた。フリーになった篠山は速攻でシュートを決め、3点差にリードを戻した。

 オーストラリアのタイムアウト後、またもやケイが3ポイントを放つが、このリバウンドを比江島がゲット。オーストラリアは3人で囲むが、比江島はそれを振り払ってゴールに走り込む八村にタッチダウンパス。八村はとどめとなるスラムを両手で叩き込み、雄たけびをあげた。

豪快な一撃にファンも沸いた [写真]=Getty Images

 残り時間は11秒、5点のリードはセーフティーかと思われたがオーストラリアは諦めない。クリス・ゴールディングがフリースローを1本決めると、2本目はわざと外し、そのオフェンスリバウドをマシュー・デラベドバがキャッチ。すかさずゴールディングにアシストパスを送り、3ポイント。1点差まで追い込んだ。ただし、残り時間は2秒。日本はインバウンドのボールを比江島がキャッチ。そのままドリブルでキープしてゲームセット。比江島はそのボールをパスした後、なぜか足元を滑らせてダイブ。最後の最後まで勝利を確信できなかった日本の選手たちも、この比江島らしいボケに表情を緩ませた。これまで苦しんでいた日本は1次予選で初勝利をあげるとともに、オーストラリアに勝利するという大金星をあげたのだ。

歴史が変わるのではなく、日本が進化するきっかけの勝利に

 フリオ・ラマスヘッドコーチはオーストラリア対策として「ゾーンディフェンスを練習してきた」と試合後の記者会見で言及。「勝因はリバウンドだ。前回は27本も差をつけられたが(オーストラリア48本、日本21本)、今日は6本にとどめられた(オーストラリア50本、日本44本)。そして、オーストラリアのフィジカルなプレッシャーに最後まで対応できたの大きかった」と、プランどおりの試合運びに満足した表情で試合を振り返った。

歴史的勝利に導いた指揮官 [写真]=山口剛生

 日本が最後まで粘れたのはファジーカスと八村の加入が大きいだろう。ファジーカスが25得点、八村が24得点と2人でチームの得点の62パーセントをあげただけでなく、リバウンドやディフェンスでも貢献。アジアで最もハードなオーストラリアのオフェンスを耐え抜いた。さらに韓国との親善試合から2週間がたち、2人のコンビネーションが改善されたのも大きい。特にディフェンス面で連係ミスが目立っていたが、この日はほとんどそれが見られなかった。

 ただこの勝利も7月2日、敵地で行われるチャイニーズ・タイペイ戦に勝たなければ意味を持たない。敗れれば、1次予選敗退が決まる。「すでに次のタイペイ戦に向けて気持ちを切り替えている」と語ったのは篠山。日本代表は翌日、勝負を決める場所、台湾に向かって旅立った。

 最後に会場の雰囲気は最高だったと言っておきたい。駒沢体育館、横浜国際プールで試行錯誤してきた代表への応援スタイルが確立されてきた印象が強い。過去2試合も、これまでの日本代表戦では聞いたことがない“ディフェンスコール”が選手を後押ししたが、今日のそれは今までの中で一番大きかったと言えよう。

赤色で染まった熱狂応援席 [写真]=山口剛生

 今回会場となった千葉ポートアリーナにはスタンディングで応援できる「熱狂応援席」が設置された。ここに集うのがBリーグの各クラブで熱い応援をされている方たち。Bリーグができる前、NBL(日本バスケットボールリーグ)とbj(日本プロバスケットボール)リーグの2つに分かれていたが、選手やファンは交流があった。この熱狂応援席も元実業団系のチームを応援する人もいれば、元bjリーグのブースターもいる。Bリーグは2シーズ目を終え、会場の演出だけでなく、応援する文化も浸透してきている。苦しい場面で声援が後押ししてくれたと選手は口々に語っていた。

 ラマスHCの下、チームを強化してきた成果、そして代表をサポートする体制が整ってこそのオーストラリア戦の勝利だった言えるだろう。それだけにこの勝利で歴史が変わったのではなく、代表の強化を進めることのエポックメイキングになってほしい。

文=入江美紀雄

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