2022.07.02

“次なる存在”富永啓生が上々のA代表デビュー…国際舞台で見せた「いつも通り」

大敗のなか、デビュー戦でチームをけん引する活躍を見せた富永[写真]=fiba.com
スポーツライター。前英字紙ジャパンタイムズスポーツ記者。Bリーグ、男女日本代表を主にカバーし、2006年世界選手権、2019ワールドカップ等国際大会、また米NCAAトーナメントも取材。他競技ではWBCやNFLスーパーボウル等の国際大会の取材経験もある。

 7月1日、「FIBAバスケットボールワールドカップ2023 アジア地区予選」Window3、日本対オーストラリアがメルボルンのジョン・ケイン・アリーナで行われ、日本は52-98と大敗を喫した。
 
 気持ちをくじかれるような、完敗だった。そのなかで、ほとんど唯一、日本チームで気を吐いたのが3ポイントを5本沈め、両軍最多の18得点を挙げたのがNCAA1部・ネブラスカ大学でプレーする富永啓生だった。
 
 ベンチスタートとなった富永は第1クォーター残り5分半ほどでコートに送り出され、A代表のデビューを飾る。試合後「最初はとても緊張していた」と吐露した21歳は、出場から1分ほどでいきなりロング3ポイントをまず放った。これは入らなかったが、まずは肩の力を抜くことには成功したようだった。
 
 同クォーターの残り2分を切って、得意の3ポイントがネットを揺らした。右のコーナーに位置取った富永は、永吉佑也からのパスをワイドオープンで受け、左手から迷わず放たれたシュートがリングをくぐった。これでリズムをつかんだ彼は、次のポゼッションでもキャッチ・アンド・シュートから再び3ポイントをヒットし、それまで約5分間、得点のなかった日本チームに勇気を与えた。
 
 オーストラリアに大量リードを奪われてしまってはいたものの、第4クォーターにはさらに3本の3ポイントを決めた。また3ポイントだけではなく、第3クォーターにはトランジションでのボールプッシュから、3ポイントを打つと見せかけてリングにアタックし、きれいなレイアップによる得点。またディフェンスでも2スティールを記録するなど、NCAA1部で最強リーグと呼ばれる「ビッグテンカンファレンス」で揉まれてきた力量を披露した。
 
「出だしは(シュートを)決めたい気持ちが強すぎて1対1のシュートとか、いつもはやらないプレーをしてしまいましたが、タイムアウトでコーリー(・ゲインズ)コーチから『いつも通りやったら自分のところにボールは回ってくるから』と言われ、いつも通りやったらノーマーク(のシュートの機会)が来て流れをつかめました」
 
 2018年にはU18アジア選手権に、昨夏は3x3で東京オリンピックに出場した経験のある富永は試合後、自身のパフォーマンスをそのように振り返った。

国際試合でもいつも通りのプレーを披露した[写真]=Getty Images


 しかし、46点差の大敗に、当然諸手を挙げて喜ぶはずもなかった。「うまくいっていた」という事前合宿から一転、この試合ではその成果を出せなかったとトム・ホーバスヘッドコーチは振り返った。富永も「練習通りにできていれば、日本はもう少し良いプレーができたはず」と指揮官に同意した。
 
 一方で、日本代表の多くが力量を十全に発揮できないなかで、ホーバスHCはこの日の富永について「練習通りのプレーを見せてくれたのは良かった」と喜んだ。技術的に優れているだけでなく、彼が自信を持ってコートに立っているところも評価した。
 
 八村塁(ワシントン・ウィザーズ)や渡邊雄太(トロント・ラプターズ)、馬場雄大ら“海外組”が不在で、東京オリンピックの主力だった大半の選手についても同様だ。すでに2023年のワールドカップについては開催国枠を得ているというアドバンテージを生かし、若手を含めたさまざまな選手を試しているホーバスHCは、八村らが合流し最強布陣がそろった時の「どうすればパズルのピースが合うかを見ている」(ホーバスHC)と述べた。
 
 この夜の富永のプレーぶりを見た同HCは、「彼(富永)と、ルイとかユータが一緒にプレーすると面白いと思います」と、大敗に硬かった表情を和らげた。
 
 言うまでもなく、バスケットボールでタレントはいればいるほど、良い。日本代表は現在八村らに続く才能を探し求める道程にいるが、富永が「次なる存在」として、苦い敗戦のなかで上々のA代表デビューを飾った。

文=永塚和志

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