Bリーグ公認応援番組
『B MY HERO!』
Wリーグのオフ期間を利用して渡米し、5月から9月に掛けてWNBAを戦う。2015年の初挑戦から今年で3シーズン目。渡嘉敷来夢がアメリカに行くのはもはや既定路線のようになりつつあるが、オフ返上でレベルの高いWNBAでプレーすること、さらに慣れないアメリカで生活することは、並々ならぬ苦労を伴うだろう。それでも本人は平然と言いきる。「日本のバスケが盛りあがるなら休みはいらない」。コートネームの「タク」は、「たくましさ」や「託す」に由来する。その名のとおり、たくましさを増す渡嘉敷は、日本のバスケット選手、バスケファンの想いを託され再び海を渡った。
インタビュー=安田勇斗
写真=山口剛生、Getty Images
――JX-ENEOSサンフラワーズに所属しながら、2015年からアメリカのWNBAでもプレーしています。もともとのきっかけは?
渡嘉敷 自分がアメリカに行きたい気持ちを持っていて、いろいろなチームにプレーを見てもらいシアトルストームから声を掛けてもらいました。
――代理人を介して?
渡嘉敷 JXのヘッドコーチのトム(ホーバス/現女子日本代表HC)が手伝ってくれました。私のエージェントとトムが話していろいろ決めていって。世界選手権(2014年)が終わった後からそうした活動を始めて、年明けにはチームも決まっていたと思います。
――他のクラブからも声は掛ったんですか?
渡嘉敷 他のところはトライアウトだったら、という感じだったんですけど、シアトルは「契約したい」と言ってくれたのでそこに決めました。
――決まった時はどう感じましたか?
渡嘉敷 やっと行けるんだなと思いましたし、うれしかったです。周りからアメリカに行けと言われていて、ようやくその期待に応えられるなと。実はその前の年から行きたいと思ってたんですよ。でもどうやって行けばいいのかわからず、動きだすのも遅くて。そこから1年掛けてビデオを作ったりチームを探したり、準備に時間を掛けたので決まった時は本当にうれしかったです。
――ようやく決まったWNBAでの1シーズン目はどうでしたか?
渡嘉敷 雰囲気だったり、対戦相手のレベルの高さだったり、すべてのことにビックリしました。一人ひとりの身体能力が高くて、バスケットのスタイルも全然違うし、ファンの応援の仕方も違って。
――手応えはありましたか?
渡嘉敷 できるできないというより、そこでやらなきゃいけないと思ってプレーしていました。最初は自信がなかったところもありましたけど、プレーを重ねていくにつれて、どんどん自分を出せるようになったと思います。
――苦労したことはありますか?
渡嘉敷 日本だと自分が一番身長が高く、ポストにいて中やゴール下で勝負するイメージだったんですけど、そういうのが全くないんですよ。身長が高くてもあまりペイントエリアには入らず外から攻めろという感じで。慣れるまでにちょっと時間が掛かりましたけど、それ以外は特にないですね。
――具体的にはどういう指示を受けたんですか?
渡嘉敷 基本は3ポイントラインの外にいて、そこから1対1を仕掛けたり、ジャンプシュートを打ったりするように言われました。チームがそういうスタイルだったので。
――日本と圧倒的に違う点はありますか?
渡嘉敷 ファンの数は違いますね。あとはホーム&アウェイで戦えるのも面白いです。ホームの良い雰囲気と、アウェイの厳しい環境を味わえるのはいい経験になっています。あとは、プロの世界だから当然なんですけど、昨日いた選手がカットされて、次の日にいなくなるというのにも驚きました。
――昨年、WNBA2年目のシーズンを過ごしました。1年目に比べて成長できた点は?
渡嘉敷 流れがつかめてきて、周りへの遠慮がなくなりました。アメリカという国もそうですし、チームもそうですし環境に慣れてきて、英語もある程度聞き取れるようになり、いろいろなことがやりやすかったです。
――チームメートとは頻繁にコミュニケーションを取るんですか?
渡嘉敷 自分は英語がしゃべれないんですけど、かわいがってもらってます。イジられたり、面白がられたり、たまに自分もイジったりして。チームメートから日本語を教えてくれと言われるので、くだらない言葉を教えたりしてます(笑)。みんなで一緒にご飯も行きますし、リーグで一番仲がいいチームだと思いますよ。
――私生活はいかがですか?
渡嘉敷 練習以外は完全にフリーです。好きな時にご飯を食べて、好きな時に寝て、好きな時にジムに行って。ただ食生活だけはちょっと困ってますね。日本だと寮で食べられますけど、アメリカだと自分で3食用意しないといけないので。
――自炊はしますか?
渡嘉敷 たまーに。ほとんどしないですね。スーパーでできているものを買ったり、シアトルに日本人の方がいる日本料理屋があるのでそこで食べたりしてます。
――アメリカの食べ物は全体的に油っこいイメージがあって、日本人には少し合わない気もします。
渡嘉敷 シアトルにいる時はそういうメニューを避けているんですけど、アウェイだと選択肢が限られちゃうんですよね。アメリカ人は試合前でも油っぽいものを食べるんですけど、自分はあまり得意じゃなくて日本にいる時は炭水化物中心で。だから1年目は結構苦労しました。
――シアトルに友人や知人はいるんですか?
渡嘉敷 お世話していただいている日本人のおばちゃんがいます。あとサッカー選手の川澄(奈穂美/シアトル・レイン)さんと宇津木(瑠美/シアトル・レイン)さんがいて、タイミングが合う時は会ったりします。
――ホームシックなどはないですか?
渡嘉敷 ないです。自分はバスケをするために行ってるので、寂しいとか言ってる場合じゃないんですよ(笑)。それに1人の時間が結構好きなので。1人でボーっとしたり、バスケットを見たり、ワークアウトしたり、それが今は楽しいですね。
――意外な感じがしますね。
渡嘉敷 1人でいるのめちゃくちゃ好きですよ(笑)。みんなの前だとよくしゃべるからエネルギー使うんですよね。だから親しい人と一緒の時は全然しゃべらないです。例えばチームメートの岡本(彩也花)は12年ぐらいの付き合いなんですけど、2人でいる時は全くしゃべらないですし。みんなでいる時は、わーって盛りあげたりはするんですけど。
――日本にいる時も1人でいることが結構あるんですか?
渡嘉敷 そうですね。DVD鑑賞が好きで、『金曜ロードショー』(日本テレビ)は毎週録画して見てます。あと人間観察が好きで、カフェに行って音楽を聞きながら人を見てたり、スニーカーが好きなので街を歩いていたら足元を見てたり。
――話を戻します。WNBAで2シーズンプレーして、見えてきた課題はありますか?
渡嘉敷 プレー云々よりも、気持ちの部分ですね。ボールを持った時にもっと攻めるんだという気持ちを持たないといけないなと。日本だと勝負どころで自分が行く、というのができてるんですけど、アメリカだと他の選手をスターと決めつけて、ボールを回しちゃうクセみたいなのがあって。シュートを打てる場面でパスを考えたりしちゃうので、もっと積極的に行きたいと思っています。実際、コーチからは「ボールを持ったら打て」と言われてるんですけど。
――少し意外ですね。
渡嘉敷 自分で決めつけちゃってるんですよね。結構気を遣う方で、何でも気にしちゃうタイプなので。チームメートはよくわかると思うんですけど。それがバスケットにも出てしまうので、HCからは「もっとわがままにプレーしていい」と言われます。
――JX-ENEOSでもそうなんですか?
渡嘉敷 トムにも言われます。もっとやれって。それが必要だって。
――では次のシーズンはより積極的に行こうと。
渡嘉敷 そうですね。昨シーズンの終盤はそれができるようになってきて、周りからも「良かった」と言ってもらえました。それを1シーズンとおしてできるようにしていきたいです。あと日本だったら40分出ることが多いですけど、アメリカだと5分、10分ということが多いので、その限られた時間で150パーセントの力を出せるようにしていきたいなと。2年目でチームにアジャストできたので3年目はそれができると思っています。
――日米を行き来することで長期のオフが取れていません。体力面は大丈夫ですか?
渡嘉敷 しんどいところもありますけど、プロっぽくていいかなと(笑)。日本、アメリカ、日本代表と1年中バスケができるのは自分だけですし、やりたくてもできない人がたくさんいる中、自分が続けることで「アメリカに行きたい」、「代表に入りたい」と思ってくれる人が増えればいいなと思っているので。日本のバスケが盛りあがるなら休みはいらないです。
――4月に出発して9月に戻ってきて、すぐに日本でのシーズンが始まります。本当にオフがないですね。
渡嘉敷 でも1週間休んじゃうと、次練習するのがキツいんですよ。体がなまっちゃうし。だから仮に1週間休みがあっても、午前中は動いて午後はリフレッシュに充てる感じですね。休むことに慣れてないというか(笑)。
――プレーヤーとしての最終目標はありますか?
渡嘉敷 世界でも通用する選手です。
――もう通用してませんか(笑)?
渡嘉敷 いやいや、自分では通用してるとは思ってないので。まだ伸びしろがあると思いますし、自分の基準で通用すると思うまで続けていきたいです。
――その基準は?
渡嘉敷 世界選手権(FIBA女子バスケットボール・ワールドカップ)で上位に入り、ベスト5に選ばれるぐらいの選手にならないといけないと思っています。WNBAやリオデジャネイロ・オリンピックを経験して上には上がいると感じました。がんばれば近づけると思いますけど。今は日本代表だし、WNBAでやってるから「ちょっといい」ぐらいだと思うんです。そこからもっと上に行かないといけないなと。
――アメリカで今ライバル視している選手はいますか?
渡嘉敷 ライバルっていうか、昨シーズンドラフト1位で入ってきたブレアナ・スチュワートはポジションが一緒なので、いいものをどんどん盗んでいきたいですね。同じチームになれて良かったと思ってます。あとポイントガードのスー・バードはオリンピックの金メダルを4つ取った選手で、一緒にプレーするだけで勉強になります。ガードとセンターで組んでプレーするのは楽しいですし、いい経験ができています。
――バードはどういうガードなんですか?
渡嘉敷 バスケットをよく知ってますね。チームをやる気にさせる方法も知っていて、シチュエーションに合わせたバスケットができます。
――ジェニー・ブーセックHCからはどんな指導を受けているんですか?
渡嘉敷 いろいろなチームでHCとアシスタントコーチを経験して、自分がチームに来た時にシアトルのHCになった方なんですけど、すごく丁寧に指導してくれます。「タク(渡嘉敷のコートネーム)はこういう時に必要だ」とか、「こういう時に力を発揮してほしい」とか、わかりやすく説明してくれますし、自分もそれに応えたいと思っています。
――ではスチュワートはどんなタイプのセンターですか?
渡嘉敷 背が同じぐらいでタイプも似てますね。自分の方がスピードがあって、向こうの方が3ポイントが打てるという違いぐらいで。まあ向こうは何をやってもいい、みたいなところがあるんですけど(笑)。
――エース待遇?
渡嘉敷 そうですね。昨シーズンのルーキー・オブ・ザ・イヤーを取っている選手なので。自分はそういう選手から学んで、違う部分を出せていけたらと思っています。
――3ポイントは打たないんですか?
渡嘉敷 打ちたいとは思うんですけど、日本では打つ機会がないので。それが悩みですね。自分はリーグで一番大きいので、相手にとって中と外のどちらにいると嫌かと言うと、やっぱり中なんですよ。外にいても高さが活かせないですからね。ただ自分はそういう考えが嫌なんですけど。
――男子ではセンターでも3ポイントを打ちますからね。
渡嘉敷 はい。みんながみんな、どのポジションでもできるという感覚があるんですよね。アメリカでは外をやってもいいし、そういう点でプレーの幅はすごく広がります。やっていて楽しいし、新しい自分を発見できる感覚がありますね。
――アメリカでの3シーズン目、目標はありますか?
渡嘉敷 自分のいいところを出しきることです。さっきも言ったとおり5分なら5分で、10分なら10分で全部出していきたいです。もう3シーズン目なので、最初のキャンプからそれをやっていきたいと思っています。チームとしては昨シーズン、プレーオフ1回戦で負けているので、それ以上の成績を残せるようにしたいです。
――スタッツは?
渡嘉敷 スタッツはあまりないですね。自分はディフェンスを買われていて、スタッツに残らないんですよ。オフェンスファウルをもらったり、足があるので相手をマークするために使われたりするので。残り何秒の場面で守りきりたい時に「ディフェンスで出て」という感じで。その役割はもちろん維持していきたいですし、その上でオフェンスでもチームの勝利に貢献できればと思っています。