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『B MY HERO!』
女子バスケの歴史が動いた。昨シーズンは無念にも中止されたWリーグプレーオフ。今シーズンはコロナ禍という大変な状況の中で開催にこぎつけ、トヨタ自動車アンテロープスがENEOSサンフラワーズの12連覇を阻み、ファイナル2連勝で初制覇を遂げた。個性的なメンバーを一つにした策士、女子スペイン代表の指揮官であるルーカス・モンデーロの采配は際立っていた。そしてENEOSがプレーオフで見せた意地は、女王たる所以そのものだった。
文=小永吉陽子
トヨタ自動車は12月の皇后杯の決勝ではENEOSに逆転負けを喫している。「肝心なのは感情をコントロールすること」(ルーカス・モンデーロ ヘッドコーチ)といった課題が改善されずに、チャンピオンになるメンタルが備わっていなかった。トヨタ自動車だけではない。これまでどこのチームもファイナルではENEOSの経験値とプライドの前に飲みこまれていたのだ。皇后杯から3カ月。Wリーグのファイナルでは何が変わったのだろうか。キャプテンの三好は言う。
モンデーロHCは勝つためには「何よりも大事なのは『チーム』であること。各自のエゴをチームに注ぐことが重要で、自分のできることをチームに出すこと」だと強調する。口で言うのは簡単なことだが、「昨シーズン、ルーカス(モンデーロHC)が来たときはまだバラバラだった」と安間が振り返るように、一つのチームにまとめ上げるにはプロセスを要する。モンデーロHCは日本の文化に敬意を払い、選手は指揮官の哲学を知るところからチーム作りは始まった。今はベンチの雰囲気を見ればわかるとおり、チーム間の信頼が手に取るようにわかる。勝者になるチームカルチャーを2シーズンで築いたのだ。
歴代の先輩たちが築いてきた伝統を受け継ぎ、勝者のチームカルチャーが出来上がっているのがENEOSである。
負傷者が続出する満身創痍の中でセミファイナルを接戦でモノにし、ファイナルでも最後まで食らいつく姿は見る者の心を揺さぶった。決してタレントをそろえているから勝ち続けてきたわけではない。今回、コートに立ったベンチメンバーや新戦力の成長、そしてチーム全体から湧き出てくるような意地を見れば、いかにチーム力を高める努力を積み重ねてきたのかがよくわかる。また渡嘉敷来夢を筆頭に、表彰セレモニーで勝者をたたえるその姿は美しく、改めて女王であり続けた理由を感じ取ることができた。「負けてなお強し」を印象付けたファイナルだった。
女子バスケは新時代に突入した。それは新チャンピオンが誕生したという理由だけではない。これまで壁を破れなかったがトヨタ自動車が、FIBAランキング3位の強豪スペイン代表の指揮官であり、スペイン、ロシア、中国リーグで優勝経験を持つ知将を招聘し、テクニカルスタッフを充実させ、ポテンシャルある選手層を鍛え上げたという、チームマネージメントの成功によって女王の座をつかみとったことに、新時代の到来を感じたからだ。
モンデーロはヘッドコーチに就任した昨シーズン、「1年目はチームの基盤を作ること。2年目は私の哲学を浸透させてリーグか皇后杯のどちらかを獲得すること。または、どちらもファイナルに進出すること。3年目はどちらのタイトルも目指す」ことをチーム方針として語っていたが、就任2年目でリーグ制覇を遂げ、計画どおりに進められていると言える。
セミファイナルではENEOSに敗れたがデンソーアイリスも本気で改革を目指している。以前、ファイナルに進出したときにエースの髙田真希は「本気でJX-ENEOS(当時)に勝ちに行くチームだったかといえば、そこまでの覚悟も戦力も作れていなかった」と発言したことがある。そのデンソーがセルビアを2015年にヨーロッパ女王に導いたマリーナ・マルコヴィッチを指揮官として招聘した。
2シーズン前にはWリーグ出身の古賀京子HCが三菱電機コアラーズを初のファイナルに導き、かつてシャンソン化粧品シャンソンVマジックで2連覇(第6回、7回Wリーグ)を達成したイ・オクジャHCも帰ってきた。富士通も再びベスト4に名乗りを上げ、日立ハイテククーガーズも内海知秀HCのもとでフィジカルトレーニングから改革を始め、トヨタ紡織サンシャインラビッツからは2シーズン連続で新人王を輩出。アーリーエントリーも始まって若い芽が経験を積める場ができ、リーグの底上げは始まっている。
新しいチャンピオンが生まれ、勝ち方を知る者が増えてこそ、日本の女子バスケは発展していく。来季のENEOSは負傷者を復帰させてタイトル奪還を狙うだろう。そして、今シーズンの教訓を生かし、高さと速さを融合させる変化の年になるのではないだろうか。その時、策士ルーカス・モンデーロはどう出るのか。攻防のやり合いを想像しただけでも、次のシーズンが待ち遠しくなる。女子バスケの未来を切り拓いた見応え十分のプレーオフだった。