2021.08.29

“車いすバスケ界のマイケル・ジョーダン”擁するカナダを撃破した“12人のエース”

コート、ベンチ一体になる全員バスケで快進撃を続ける男子日本代表(写真は26日のコロンビア戦から) [写真]=Getty Images
新潟県出身。大学卒業後、業界紙、編集プロダクションを経て、2006年よりスポーツ専門ウェブサイトで記事を執筆。車いすバスケットボールの取材は11年より国内外で精力的に活動を開始。パラリンピックは12年ロンドンから3大会連続、世界選手権は14年仁川、18年ハンブルク、アジアパラ競技大会も14年仁川、18年ジャカルタの各大会をカバーした。

 車いすバスケットボール界のレジェンド、パトリック・アンダーソン。“車いすバスケットボール界のマイケル・ジョーダン”とも称され、過去パラリンピックでカナダに3つの金メダルをもたらしたスーパースターだ。そのアンダーソン擁するカナダとのグループリーグ第3戦、日本は最大11点差を第4クォーターの最終局面で逆転し、62-56で競り勝った。その最大の要因となったのが、“12人のエース”だった。

指揮官の想定内だった香西、古澤の活躍

 2連勝と快進撃が続いていた男子日本代表。しかし、ベンチでは明暗が分かれているかのように、プレータイムには偏りがあった。その象徴的存在が、香西宏昭と古澤拓也だった。

 ポイントゲッターとしてフル稼働する藤本怜央、秋田啓。“ディフェンスで世界に勝つ”を体現する豊島英、川原凜。そして司令塔としても存在感を示している鳥海連志。第1、2戦、コート上で躍動する彼らとは裏腹に、香西と古澤のプレータイムは2人の注目度からすればあまりにも少なく、かえってそれが不気味に感じられていた。

 すると、前日のインタビューでカナダ戦について聞かれると、京谷和幸ヘッドコーチは自信を表した笑みを浮かべて、こう言った。

「明日は、香西(宏昭)と古澤(拓也)が忙しくなると思いますよ。楽しみにしていてください」

 その言葉が、現実のものとなった。第2クォーターを終えて19-30と引き離されかけた窮地に、救世主となったのが、まさに香西と古澤だったのだ。京谷HCが勝負をかけた後半の20分間、香西と古澤の2人がいるラインナップがプレスディフェンスを続け、カナダの攻撃を封じた。

 するとディフェンスで流れを引き寄せたのを機に、前半は思うように入っていなかった香西と古澤のシュートが炸裂し始めた。第4クォーターに入ると、2人は競い合うかのように次々とアウトサイドからシュートを決め、カナダを猛追。そして残り5分、香西のこの試合4本目の3Pシュートで、ついに逆転した。その後は一度も追いつかれることなく、最後は引き離す形で勝負を決した。

 第1、2戦とのギャップに「これだけ次々と入れ替わりで活躍する選手が出てくるのは、これまでにはなかったことでは」というある記者からの質問に、京谷HCは涼しい顔でこう答えた。

「うちには誰が出てもしっかりと仕事をしてくれる12人のエースが揃っていますから」

男子日本代表が“全員バスケ”に舵を切って、もう10年近くになる。近年では日替わりでヒーロー的存在が出てくることは、決して珍しくはない。そして今大会、第1、2戦では一見、固定されたメンバーでの戦いにシフトチェンジしたかのように思われたが、そうではなかった。カナダ戦後、選手の誰もが口にしたのは「全員で勝ち取った勝利」という言葉だった。

 京谷HCも、勝因についてこう語る。

「たとえば藤澤(潔)は、少ないプレータイムでも3Pシュートを決めてくれましたし、宮島(徹也)は得点こそないかもしれませんが、彼の献身的なディフェンスには全幅の信頼を寄せています。彼らが厳しい時間帯を凌いでつないでくれたからこそ、勝ちにつながったんです」(京谷HC)

 史上最強チームと言われる由縁は、世界随一の選手層の厚さにこそある。

文=斎藤寿子

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